二次試験・集団面接
5月某日。かなめは東京に降り立った。通勤電車に乗り換えて10分。面接会場と指定されたのは、秋葉原のビルであった。
受付のお姉さんに篠ノ井かなめですと名乗ると、面接の方ですねと確認された。通されると、こっちだよとツンツン髪のおじさんが受付の向こうでこちらに手を降っていた。
「こんにちは。篠ノ井かなめさんですね」
「はい、篠ノ井かなめです。よろしくお願いいたします」
「ははっ、そんなに固くならないで、なんてどんな学生に言っても緊張を増やしてしまうだけだな。私は吾妻樹(あずま みき)。リクルート担当のものです。よろしくね」
ネームプレートには、吾妻と書いてある。かなめはその名前を知っていた。
「雷撃文庫編集の吾妻さんですか!!」
「知っているのかな。……まあ、君の経歴なら知っていてもおかしくないか。思春期症候群、本当であれば、私たちメディアスキー・ワークスに入社するのは確約されたようなものです。今日の面接で、思い切り発揮してください」
ここで待ってね、と会議室に通される。そこには、自分よりはメディアスキー・ワークスで働くに似合う人物に見える学生が己を鼓舞していた。着席するやいなや、ナギからピロリン☆とメールが届く。監督者に確認しようとアイコンタクトすると、どうぞ、とにっこり微笑みかけられた。
『竜王たまきが姿を消したらしい。私が昨日、かなめが面接を受けに東京に行くと教えた直後だった。面接終わったら早く帰ってきて』
これは、まずいことになったな、と思う。竜王たまきを応援することはかなめの大学の集大成となる予定だったし、彼女自身がどうなるのか心配で仕方がなかった。かといって面接の時間は決められていて、かなめが新幹線に乗れるのは早くても15時過ぎ。面接をすっぽかして帰るのは、自分の人生を棒に振るのと同義だ。ここはぐっ、と我慢して、自分の面接開始時間をひたすらに待つしかなかった。時計の秒針1秒1秒が、数分に思えるような重く停滞した空間。かなめの名前が呼ばれたのは30分後であったが、何日も過ごしたような錯覚に陥る。
「……本との出合いをたくさん作れる、アンバサダーになりたいです」
定型文どおりの回答。だが、面接官はそんなことを聞きたいがためにかなめを通したわけではないはずだ。
「最後に、思春期症候群の経験があると言うことですが、差し支えない範囲で構いません。ご自身の思春期症候群について教えてくださいませんか?」
来た。
思春期症候群と言うだけで、皆こう聞いてくるのだ。かなめは今まで回答らしい回答を持っていなかったが、就職活動を始めるにあたり、ようやく一文を考えついていた。
「私の思春期症候群は、心から特定の一人を応援することができます。必ず応援された人は、立ち上がり前に進むことができるものです。ここで証明できる資料はありませんが、それが思春期症候群だと医者に言われました」
大真面目に答える。面接官、その一人の吾妻編集は、何度も首を縦にふっていた。
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