第2話

おばあさんは、家に帰る間に

今朝、近所のものに聞いた話を思い出していました。


川上の村で起こった話…

そこには殿様の側室がおった。

そのおなごはその村の出身で

城で他の男と浮気をし、身ごもった。

この殿様は鬼と呼ばれる悪名高き殿様で

男はすぐに殺された。

おなごは命からがら村へ逃げ帰ったのだが

殿様に見つかり

裏切り者をかくまったとして、村人は皆殺し

村は焼き払われたと…


もしかして、あの妊婦の遺体は…

いや、解らん。

とにかく、赤子を助けてやらねば。





包丁を持つ手が震えます。

両手でしっかり力を入れても震えは止まりません。

遺体を押さえるおじいさんが言いました。


「怖いなら、やめておけ!」


「いえ、やります!」


おばあさんは臍の少し下を目掛けて刺しました。

震える手を慎重に

ふーっ、ふーっと息を整えながら斬ってゆきます。

おじいさんは、なんまんだぶ、なんまんだぶと、念仏を唱えながら、ぎゅっと目を瞑っています。


ばさっと腹が裂けて

中からゴロンと赤子が出てきました。


おばあさんは臍の緒を切り、すぐに川の水で洗ってやりました。

洗いながら赤子の尻をたたいて


「泣きなさい!ほら、しっかりしなさい!」


すると、赤子はびくんと体を震わせて


「オギャアオギャアオギャア」


と、泣き出しました。







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