第3話

「ただいま~」

 と、ナクルは居間の戸をガララと開ける。

「おう。おかえり~」

 と、明日のおすすめメニューを選ぼうと、テーブルに散らばるレシピを眺めながら、キリは返した。

「明日のおすすめメニュー。まだ決まってないんだ」

「ああ。そうなんだよ。ナクル。一緒に選んでくれないか?」

 そう尋ねて、ナクルを見たキリはギョッとした。

「おいおい。その手と服に付いている血はなんだ?」

「血? ―あっ。服にも付いてたんだ」

 ナクルの服に、真っ赤な点がいくつも染みこんでいた。あの3名の魔法使いを殴殺したときに、付着したのだろう。

 彼女は、港市から帰ってくるときの出来事を、キリに話した。

「これが、その手帳」

 と、ポケットから真っ赤な手帳を出して、キリに手渡す。

「デーモン・ライトブック・・・。デーモンか・・・。これはヤバい代物だろうな」

「そうなの?」

「レディキャットから聞いた話だが、頭にデーモンの名が付くアイテムは、魔界に棲む77魔の魔王の体や力の一部が封じられているそうだ」

「へえ~。魔王の体や力の一部が、こんな小さい手帳にね~」

「もちろん、偽物も数多くあるが・・・。これは魔法貴族から強奪された1品。本物の可能性が高い・・・。―お前を襲った魔法使い達は、ヴァニーガールにこれを届けようとした男を襲った奴等と見て、間違いないだろう。つまり、これを魔法貴族から強奪した組織の連中だ」

「なぁるほど~。だから、それを持っていた私を襲ってきたってわけね。合点がいった」

「さて。どうするかな~。これ。ヴァニーガールに届けるのが一番なんだろうが、都合悪いことに、旅行に行っているんだよな。預かるにしても、これを狙っている組織の連中に襲われることになる。仕事中に襲われたりしたら、たまったモンじゃない。かといって、封印された物を魔法知識がない俺達が勝手に処分したら、どんなことが起きるか分からないし・・・。これを連中に素直に渡すって手もあるが、こんな危なっかしい物を狙っている組織だ。ロクなモンじゃないはず・・・。大事件でも起こされたら、安易に渡したことを悔やむ・・・。

 マジでどうしようか~。明日のおすすめメニューも考えないといけないのによ・・・」

 デーモン・ライトブックの扱いに悩むキリ。そんな彼に、ナクルがある提案をする。

「レディさんに、ヴァニーさんへ渡すようにお願いしてみる?」

「・・・レディキャットにか? う~ん。―仕方ない。それが一番良い手か。金が飛ぶがな」

 キリは深いため息をついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

コロし屋シリーズ 殺拳おてんば娘と魔王の右手帳 @Gosakuri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ