第28話

「狂介たちは寝たかしら」

探ればそこまで調べられるが、シロノはただ想像するだけに留めた。

「随分追い詰めちゃったわね。特に狂介」

純白に輝くようなシロノの研究室。夜でも不夜城の体で、照明の輝きは止まらない。

――結果として作戦は進化したようですが。

Uクラスの一人が言う。

「狂介の考えたサイコハザードはただの自滅。その後の展開は、狂介のおかげと言えばそうなるけれど、危ないところだったのよ? 次からは敵の集団を見つけて一気にサイコハザードに持ち込む。最低の作戦でもあるけれど、相手が相手だから――もっといいのを提案してね」

――怒りが爆発寸前の敵が多いようです。怒りを掻き立てて制御不能にするのも考えられます。同士討ちも可能かと。

静かな声が続く。シロノと同室には誰もいない。別室との声だけの会話だった。

「感情のコントロールは使えるわね。道は遠そうだけど、最終的には攻撃の根絶。それも考えておいてね。シルフィードの「能力」を上げる手もあるわ」

――追い詰めてしまったとはいえ、狂介くんの活躍は大いに称賛すべきだと思います。余談になってしまうかもしれませんが。ぜひ――表彰でも。

「考えてるわ。でも単に褒めても喜ぶようなタイプじゃないの。自分は拾われた命。鳥埜さんがいなかったら誰でもない。そう思ってるところがあるから。わたしもいい案がないのよ。ガーディアンの手当なんか幾らでも増やせるけれど」

――出過ぎたことを言うようで申し訳ありませんが、シロノ教授が認めることではないかと。彼の全体を。彼そのものを。――遠くから見ていましたが、時折彼は一人きりのように見えます。群衆の中でも。例え鳥埜さんと一緒であっても。……解決すべきではないでしょうか。

「――そうね。簡単なことじゃないけどその通りよ。――次の戦いまでに考えておく。……狂介の精神の深層を見たことはないでしょ」

――強引に見て良ければ。ここから。

「やめてあげて。――深くて静かで、怖いくらいなのよ。まるで、透明な何か? みたいで。気性は激しいほうだけど、海の底、綺麗なのよ。あの子自身は激しさとは全く違うの。透明な湖水ね」


――翌朝。ドームの一部に異変が起きていた。

サイコハザードに包まれた人型のある一角は、物理的な靄のように霞んでいた。具体的に、存在と非存在が混じり合っている。「脳」たちの恐怖が、影のように現れては消える。

周辺には、立ち入り禁止の黄色いテープが張り巡らされていた。

ドームの空は緑でも黄色でもなかった。

透明。透き通る空。

年に数度あるかどうか――ドーム全体は、この辺りでは見たこともないほど、まるで透明な朝の光の中にあった。ドーム全体が包み込まれるように、輝いていた。

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希望と絶望の器 歌川裕樹 @HirokiUtagawa

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