8−2 初めての装備品

 結局1日を武具店の冷やかしに費やして、望む装備を見つける事が出来ずに後裏経に帰還した俺達は、ノノに呆れられてしまった。というか、主に俺が呆れられたと言うべきか。

「アリスは魔法鎧でいいって言ったんだろう?」

 確認のその台詞は、俺を糾弾する色がにじんでいる。

「……初めての冒険の、最初の装備だからな。分不相応な高級品は兎も角、出来るだけ良い装備を持たせてやりたいじゃないか」

 まさかヒノキノボウとオナベノフタでモンスターと戦えなんて言えるはずもなし。何が悲しくて最初からビキニアーマーを強制されなければいけないのか。

「そういう選り好みが、駆け出しには分不相応だって言ってるんだよ。使える物は何でも使う、くらいじゃないと。——この先の冒険が思いやられるよ」

 首を振りながら溜め息を吐いて。

「だいたい、未だに支給品ナイフで冒険してる君が人の心配をしている場合じゃないだろう?」

 そこを突かれると痛いのだが、一応、小型や中型相手ならこのナイフで十分だし、大型相手ならそもそも俺が近接戦闘をする機会がないので、更新の優先度が低いという言い分はある。もっとも、仲間を頼れない状況というのもあり得るので、更新する必要がないという訳ではないのだが。

「優先度の問題だ」

「いつも思うけど、君は他者ひとを優先し過ぎだよ」

 先程よりも一層深い溜め息。

「まぁ、予想はしていたけどね」

 何故か、その口は笑みの形に歪んでいた。


 そんな彼女に連れられて、俺達は倉庫にしている部屋へ案内された。

「幼馴染みが冒険者をしていたからね。多少の伝手はあるんだ」

 そんな説明とともに差し示されたのは、恐らくはそのパーティの中古品。多様な女性者の防具に、剣、斧、棍棒。

「売り払うのも、他人に譲渡するのも禁止だけど……使うかい? アリス」

 昨日今日で準備したのではないだろう。幼馴染みと言う伝手を通して、これらを融通して貰うのには順調に話が進んだとしてもそれなりに時間が掛かるはずだ。つまり、彼女はずっと前から今日という日を予想し、準備を進めて来た事になる。

 きっと彼女は良い母親になるのだろうな、と。俺は場違いな感想を抱いた。

 そういった背景をどこまで理解しているのか、アリスは素直に頷いて、早速装備の物色に掛かる。

 そんな彼女を背景に、ノノは俺に振り返った。

「ナイフはなかったけどね。君向けの面白い物があるんだ」

 そういって彼女が別の所から取り出したのは、何やら装飾が施された木の枝だった。棍棒というには頼りなく、杖というには短く、指揮棒にしては見栄えが地味。そんな一品だ。

 ぱっと見では何に使うのか判らない。しかし、俺向けの面白い物と言われれば、大凡見当はついた。

「トレントの枝を月明かりで聖別して、ルーンで補強した……とか言ってたけど、まぁ要するに魔法の発動体だよ」

 どこか自慢気に。あるいは悪戯に成功した子供の様に。俺の表情は、そんなに面白いだろうか。

「頑丈なトレントの枝にルーンの補強までしてあるから、見た目や重量の割に打撃武器としても使えるけど……打撃の威力はあまり期待出来ないから護身程度にね」

 そう言いつつ、表情を取り繕って涼しい顔で彼女はそれを差し出してくる。

 つまりは魔法の杖。

 そこらの武具店ではまずお目にかかれない、魔法使い専用の装備品だった。

 その価値は、俺には判らない。効果の程も、知らない。

 ただ、もう少し自分が幼ければ、彼女に飛びついて感謝を伝えただろう事は想像出来た。本当に、彼女には返しきれない程の恩がある。

「……詳しくは知らないが、貴重な品だろう。受け取っていいのか?」

「彼女達はもう引退しているからね。非常時の装備は確保してるし、予備の杖なんて使いどころがないのさ。「倉庫の隅で埃を被せているくらいなら、君の活躍に期待する」ってさ」

 俺の名前を出して交渉したのだろうか。知らない所で、多少名が売れているのが役に立ったのかも知れない。それはそれで気恥ずかしい話だが、ありがたい事だった。

「そうか。……ありがとう、ノノ。元の持ち主にも、礼を伝えてくれ」


 ところで、期待されている活躍というのは、冒険者としてなのか、開拓者としてなのか。後者を含まないと考えるのは楽観が過ぎるだろうから、中々にプレッシャーだ。

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