7−10 搦め手
利用するのではなく適切な支援をするのでもなく、ただ利用される。
弓より確実に、繊細に。この火の鳥は牽制の
折角状況が
それは、熱も質量も持たない、光魔法の初歩の初歩『
球では無く輪を。手元ではなく敵の頭の回りに。
見て認識が追いつく速度なら、魔法の光も問題なく追従出来る。相手に直接干渉なんてしなくても、視界を塞ぐくらいの事はできるだろうという実験だ。
突然の光に、或は視界を塞がれた驚きに、雄獅子は暴れた。
大きく飛び退き、地面を転がり回り、手近な前衛に向けて突進して。
しかし、その勢いは初手の突進に比べれば明らかに迷いが見て取れる物で、彼女達はそれをあっさりと回避してみせる。それどころか手近な木へ誘導し、自爆させた。
嗅覚や聴覚を奪った訳ではないのだから冷静に対処する手段は幾らでもあるだろうに、所詮は動物系モンスターか。その抵抗が無駄だと悟ったのは、息があがるまで暴れてからだ。こちらの主戦力に疲労はまるで無く、このまま解放しても先程までより遥かに優位に立ち回ってくれる事だろう。
しかし、折角の機会だ。
「ちょっと借りるぞ」
魔法の実験台になって貰おうと、俺はそう宣言した。
風を——音を操って聴覚を阻害する。
弱い乱気流を使ってヒゲというバランサーを撹乱する。
無闇に暴れても危険だと理解して大人しくなった所に、矢を射かけた。
「うわぁ」
なんて声が誰の物だったかは判らない。
ものの十数分で体力を失い地面に伸びた大型モンスターは、最終的にリーダーの手でとどめを刺された。
「せめて一撃で安らかに眠れ」
なんて手向けの言葉は、まるで俺が極悪非道の鬼畜扱いされている気分だ。
動けなくなるまで切って殴って刺す純粋な物理戦闘と、やっている事はそれほど違いないだろうに。
◇◆◇
結論として、先の戦闘で使った魔法は欠点だらけだった。
まず第1に、発動までに要する時間が長いので状況が膠着するまで使えない。
第2に、暴れるモンスターの感覚器を狙い撃ちにしなければならないので、複数体を相手にするには向かない。
第3に、魔法自体に拘束力や攻撃力がないので魔法を使っている割には戦闘が長引く。
そしてなにより第4として、長引く分疲労も大きい。結局その効率の悪さから、2匹目以降は殆ど見ているだけだった。精々石を投げたくらいしかしていない。
安定戦力とはとても言い難い、相当なお膳立てが必要な欠陥魔法だ。高い干渉力を必要としない事や、非殺傷性が重要な場面では有用かも知れないが、残念ながら思った程の使い勝手はなかった。
「お疲れさま」
「あぁ、お疲れ」
戦闘を終えて皆で後始末を進める中、まだまだ余力を残した調子でリリーが話しかけてくる。魔法を使い過ぎた俺は振り向くのも億劫で、言葉だけで応じた。
この辺り、地力の差がよく現れている様だ。
「さっきの魔法なんだけど」
松明を使って倒した獅子達の傷を焼いて止血する作業を続ける俺の隣で、彼女は指で傷をなぞるだけで同じ事をしてみせる。もう見慣れた光景だが、俺にはまだまだ真似のできない芸当だ。
「さっきの?」
特筆するような魔法があっただろうか、と俺は首を傾げた。
「3つ以上同時使用してたでしょう?」
3つどころかフェーリンの踊りに付き合う時は演出の為の魔法を10も20も同時に発動しているので、そんな事は今更驚くような事ではないはずだ。
「それが?」
疲労もあって、対応は思わず雑になってしまった。
しかし、彼女はそんな事を気にする事も無く、「判ってないわね」と溜め息を吐く。
「貴方の魔法は確かに直接干渉程の出力はなかったけれど、他者の極至近距離に魔法で何らかの干渉をするって言うのは、相応に高度な技術なのよ? 特に、戦闘中なんて気の立ってる相手には尚更ね」
そういう割に、彼女自身が標的の立っている足下をいきなり
「
彼女の提案に、俺は苦笑した。
「いやいや、無理だ。その特技だけを持ってパーティに貢献出来る程の腕がある訳でなし、そもそもあんな欠点だらけの魔法で一端を語る気には成れんよ」
それは俺の偽らざる本心で、自分を客観視した評価だ。
しかし、リリーは不満げな表情をする。
俺が彼女を宥めるより先に、横から、リーダーの不穏な言葉が飛んで来た。
「いつだって、思う様に事が運ぶばかりではないさ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます