7−8 毒刺之獅子討伐作戦
モンスターは、概ね同系の動物より賢いらしい。
他の種の習慣を見て、ある程度それを理解する程度には。だからこそ、飼い馴らして戦力に転用しようという実験もあるのだろうが、今の所はウルフ隊くらいが精々のようだ。飛竜便なんて実現はいつになるのやら。
一応、一部貴族の間にはモンスターを卵から孵して芸を仕込む者もいて、個人運用程度には飛竜便も存在するらしいのだが……眉唾な噂だ。少なくとも、組織運用出来ていないという点では実用段階ではないと言える。
少人数で縄張りに踏み込み土足で荒し回る、そのくせ大した備えは無い冒険者を俺達は装った。
こんな事をすれば動物や弱いモンスターは逃げるのだが、こちらの戦力を分析出来る頭とそれを超える力があれば逆に襲いかかってくる。普段長期間森の中で一所に留まれない主な理由がそれだ。夜闇は多くの場合モンスターに優位に働く。森の中で夜襲に怯えながら過ごすのは勘弁願いたい。
逆に、その賢さを利用してやれば、案外簡単に、狙った獲物だけを罠にはめる事ができる。とはいえ動物用の虎挟みなどでは歯が立たないし、檻などは力づくで破壊されかねない。そして、致死性の罠は準備に数日を要するのだが。
なにより獅子系のモンスターを相手にするとき1番面倒なのは、その数だ。多くの場合、雌ばかりが10匹前後の群れを為して狩りをするらしい。個々の能力も中型モンスターより優れているが、その能力を持ったままそれだけの数が揃うと、下手に遭遇すれば簡単に全滅出来る脅威となる。
だからこそ、俺は罠を推奨した。
高速機動の狩りを主体とする獅子系モンスターは、足を絡めてやると存外弱い。その勢いと体重が、簡単に足を痛める要因となる。機動力を失った個体は群れから見捨てられる事も珍しく無く、そうして
群れが追い詰まられるとようやく雄が出張って来て、群れ全体の討伐を視野に入れるならばそこからこそが本番となる。
もっとも、雄が出張って来たという時点で、半分以上罠に陥っているような物なのだが。雄が出てくるという事は群れの食料事情に問題が生じているという事で、この状況を維持出来ればやがて群れ長への不信から離反や同士討ちに繋がる可能性が高い。
安全策をとるなら持久戦。素材としての価値を求めるなら直接対決。いずれの選択でも、斥候としての能力を示すという目的は十二分に達成できる。
そんな罠の概要を説明した時は、「そう簡単に大型を狩れるなら苦労はない」と苦笑されたのだが、3日目の時点で雌を2頭あっさりと狩れてしまった。正面対決に拘りたがる冒険者は多いらしく、あまり罠の運用は広く知られていないらしい。
木々の間、下草に隠れる程度の高さにロープを設置するだけの簡易罠だ。ギルドで興味を持って調べれば得るのはそう難しい情報ではない。もちろん、ただロープを張るだけでは看破されてしまうから、いかに偽装するかというのは工夫の余地があるのだが。
機動力を失い、群れから見放された個体を狩るのは呆気なかった。11種類の毒を持つと噂の尾にさえ気をつければ、相手は飛びかかる力さえ残っていないのだ。体力はあるので弓だけで仕留めるというのも大変だったが、投石なども搦めて安全圏から一方的に攻撃すれば戦闘の心得なんてまるで無くてもできる作業でしかない。
「この調子でやっても、群れの規模は大分縮小するとは思いますが」
問題は、この機動力を奪う為の罠は、相手が走り回っていないと効果がない事だ。
雌を数匹狩っただけでもとりあえず目標は達成出来たと言えるし、雄を討伐するという依頼を受けた訳でもない。ここから先は、ほとんどただの自己満足だ。
「だが、その口ぶりからして「上」があるのだろう?」
水を向けられて、俺は苦笑した。
「そんな大掛かりの罠は張れませんよ。ただ、1週間もすれば群れはかなり小さくなるでしょうから、放置しても他のモンスターに縄張りを喰われるでしょう。少しばかり、勿体ないなとは」
それは、雄を狩れる機会を逃すという事だ。次の機会はいつになるやらという、結構貴重な状況である。
◇◆◇
兎に角は1週間。事前申請の期限ギリギリまで、毒刺之獅子を狩った。恐らくは今の所、半端な知性が勝てる相手だとこちらを見下してくれるのだろう。設置型の罠を卑怯だと憤っているかも知れないし、愚かな個体の不手際だと見ているのかも知れない。
ギルド嬢さん曰く、これほど獅子を狩れるならと『遠出』の申請が多数出ているはずだが、特殊な狩りの邪魔になるという理由で却下してくれているらしい。
熟熟、ギルドには世話になってしまう。まぁ、ランクを上げろという事情もギルド側の問題ではあるのだが。
5日目辺りからは直接石を当てるのではなく、敢えて避けさせる事で疲労させ、大人しくなった所を丁寧に仕留めるというノウハウも得た。そうする事で毛皮などのモンスター資源を無駄に傷める事無く確保出来たのだ。
「作戦は上々であるし、アデルの評価を上げるという意味では何も間違ってはいないのだが……やはり、容赦がないな」
とはリーダーの言葉。彼女が暗に指摘する様に、戦闘訓練にはまるでなっていない。
正面から戦わず、逃げ隠れしながら戦力を削るというやり方も、戦士の気質を持つ彼女達には不満があるのだろう。
しかし、10を超える大型モンスターの群れに同数以下で挑むなんてどれほど腕に自信があるのやらという話だ。避けられる危険にわざわざ飛び込むのを、俺は勇敢だと思えない。
彼女の指摘には、肩を竦めるしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます