7−5 南の森、再び

 町中の工房や冒険者、果ては他の町や村からの応援まであって、北の新規開拓地は町中の大市場より賑わっている。建築ラッシュの特需に引かれて人が人を呼ぶお祭り騒ぎだ。

 想定より工期を短縮出来そうだとは、幾度も報告を受けていた。

 ある程度安定した雇用という事や未熟な冒険者達の趣向の変化などもあって、大型討伐後の北の森の調査は死なない自信のある冒険者達の独壇場となっているようだ。

「死に戻り前提で調査するくらいなら、建築を手伝ってくれた方が評価出来る」とギルドが公言しているのも大きな要因だろう。


 そんな大賑わいに背を向けて、俺達は南の森へと旅立った。

 メンバー10名に加えて、以前も『遠出』に付き合って貰ったギルドの受付嬢という大所帯だ。冒険者経歴の浅いルリはまだまだ堅さが残るものの、予備戦力という意味でも夜番の交代要因という意味でも、十分期待出来る程度には育っている。

 何より、いつまでもリスクを恐れて足踏みをしていては、冒険者なんてやっていられない。

 予定探索期間は10日。目標は、毒刺之獅子マンティコアの討伐。

 依頼を受けて来た訳でもないので討伐失敗事態には特に問題も無いのだが、多なり小なり失望はされる事だろう。失敗するつもりで挑むなど馬鹿馬鹿しい限りなので、手を抜くなど有り得ないが。


 ◇◆◇


 いつの日かと同様に初日は村に泊まり、町を出て2日目に拠点を構える。

 以前と違うのは、人数が増えたので小さなテントを買い足した点だ。詰めれば8人が寝れる大型テントだが、人数が増えた分野晒しにしたく無い荷物も増え、2人を夜番に回しても9人が寝るのは厳しいだろうという考えである。

 今回の遠出は、まだまだ安全地帯だ。ダンジョンに挑む事を考えれば、微温湯ぬるまゆに浸かっているようなもの。それでも、久々の本格的な冒険の空気に、俺のテンションは多少上がっていた。


「では、今回の基本フォーメーションだが」

 リーダーは当然本隊に。その周囲警戒がもう1人の斥候であるスィーゼが担当し、そこにその他4人の編成。俺が別動斥候で、護衛を1人付けるとのこと。さらに拠点防衛が2人。

「毒刺之獅子は縄張り意識は高いものの、知能も高く、人が多いと寄り付かない傾向が高い。そこで、本隊は通常通りの狩りを、斥候隊は毒刺之獅子捜索を担当してもらう。遭遇時には共振石を使ってから待ち伏せポイントまで引っ張ってくれ。斥候隊だけで対処出来ないモンスターと遭遇した場合なども同様だ」

 皆が一斉に了解を示す中で、俺は疑問を挟む。

「その言い方だと、極力戦闘を回避しろという様に聞こえるが……大型との戦闘時に邪魔をして来るような奴は間引いていく方針でもいいか?」

 大型に面と向かって挑みかかる中型は少ないが、漁父の利を狙うようなモンスターは案外居る。経験則的に人間の脅威を知っているのか、大抵はそういった種は敵に回るのだ。これを予め間引いておく事ができれば、大型を狭い場所におびき出すような事をしなくても比較的安定した戦闘を期待出来るので有用である。

「……君が我々にとって障害になると判断したなら、それはその時点で障害だ。全力で排除に当たる事に、異存はない」

 返答までにあった沈黙がやや気になるが、とりあえず了承は得られたと言う事でいいだろう。


 初日の俺のパートナーにはルリが立候補してくれたのだが、彼女はまだ未熟と言う事で却下された。最早俺よりずっと強い彼女だが、それでも俺という足手纏いを護りながら撤退戦をできるような実力は無い、という事らしい。

 魔法使いのリリーや元踊り子で棒術よりの槍使いフェーリンなんかは戦力としては申し分ないが、護るという意味では能力の方向性が合わない。リーダーとスィーゼは本隊に固定なので論外として、候補は残りの4人だった。

 護る事に関してはパーティ内随一の実力者、イシリア。

 言動とは裏腹に安定性と持久力に特化ている棍棒使い、ナンシー。

 ルリの姉にして獣人の身体能力及び優れた感覚の持ち主、ルーウィ。

 口数が少なく小柄な為目立たないが、必要なとき必要な場所に居てくれると評判のメル。


 順繰りということなので個々との関係性をどうこう言う意味は無いのだが……。まるで、都合良く最近言葉を交わす頻度が少ないメンバーを割り振られたような。

 細かい指示に移るリーダーを見ながら、俺はそんな事を考えた。

 パーティメンバーの関係が円満である様願うのは、リーダーとしては確かに当然だろう。そうあるべく配慮するというのも、理解出来る。こうも干渉されるという事は、俺は彼女の求める『パーティの円滑な運営に必要となる関係性』を築けていないという事なのだろうか。

 別に彼女達個々人を嫌いという事は無いし、貴族との対立で剣をとってくれた彼女達に対して『踏み込み過ぎては迷惑をかける』なんて今更配慮をするふりをしてよそよそしい態度を取るのも間違いだろう。感謝を伝えるという意味でも、歩み寄るならば俺からだ。

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