7−2 道連れ

「ランク上げ、か」

 一通り今後の個人的活動指針に付いて意見交換が終わった所で、しみじみとリーダーが言う。

 女性が、リーダーとして名を挙げるとなるとやはりやっかみは多いのだろう。つい最近も、その片鱗を連日の様に目にした所だ。

 俺がランクを上げようと思えば、所属パーティも同様の実績を積むという事で、必然、リーダーにも影響は少なく無い。彼女から見れば、余り歓迎し辛い状況だろうか。

 そう考えながら次の言葉を待っていると、彼女は苦笑とともに軽く首を振った。

「ああ、君が心配するような事じゃない。ただ、意図してランクを上げようとなると、これまでの方針とは大分違う——敢えてリスクを取るような活動をする事になるからな。少しばかり緊張しているだけさ」

 それがただの誤摩化しなのか、彼女の本心なのか、俺には伺い知る術がない。

「確かに、安定・安全重視なこのパーティの方針とは異なる気もするが……。俺は顔合わせから3日目に大型モンスターテリトルベアーと対峙した記憶があるぞ?」

 あれのおかげで、俺の冒険者ランクは2に上がったのだ。簡単に忘れられる出来事ではなかった。

「奴は私情が絡む因縁の相手だったからな……例外的な冒険だ」

「なら、やっぱりリーダー的には反対か?」

 幸い、戦力は充実しているのだ。ランク3までなら、特に無理をせずとも上げられるだろう。その後をどうするかは考えなければならないが。


 そんなやり取りをしていると、手を挙げて発言を求める姿があった。ルーウィだ。

 それを見て、リーダーは苦笑する。

「安心してくれ。私は今更アデルを放り出すような事はしないよ。だから、パーティを抜けてでもアデルに着いて行く、なんて顔はしないでいい」

 彼女は確かに何やら思い詰めたような真剣な表情をしていたが、表情だけでそこまで判る物なのか。何も言わずにルーウィが手を下げたという事は、「大きくは外れていない」という事なのだろう。


 改めて俺に目を戻したリーダーは、1つ咳払いをして。

「有耶無耶になっていたが、正式に私達のパーティへ加入しないか?」

 なんて、真面目な調子で切り出した。


 斥候担当たまにサポートな俺と水の魔法使いリリー、休息時には踊りで癒しを提供する槍持ち中衛フェーリンが臨時メンバーで。

 盾騎士イシリア、棍棒戦士ナンシー、物理万能な獣人ルーウィ、縁の下の力持ちことメルが防御系前衛。

 槍持ち司令塔のリーダー、斥候兼軽戦士のスィーゼが中衛に位置する。

 見習いのルリも入れれば10人の大所帯だ。


 見習いと言ってもルリの戦闘能力は既に俺など手も足も出ない域にあり、才能や基礎スペックの差が浮き彫りになっている。いや、もちろん、それらは彼女自身の努力の結果であって、それを無視して才能だの種族差だのばかりを羨んだりやっかんだりするつもりはないのだが。

 既に現状維持には十分な戦力を持つパーティの更なる拡充を図るという事は、冒険者として上を目指す意思の現れだった。それはつまり。

「……いいのか?」

 問わずにはいられない。俺の事情に巻き込まれて、危険に身を晒す事になる覚悟を。

 そんな俺に、リーダーは「何を今更」と笑ってみせた。

 皆を一瞥する彼女に釣られて、俺も視線を巡らせる。

 目が合うに合わせ、彼女達はそれぞれ頷き返してくれた。

 それを受けて、俺は先の質問の間抜けさを反省せざるを得なかった。自分から面倒事を持ち込んでおいて、覚悟を見せてくれた彼女達に対して、失礼が過ぎるだろうと。

「……感謝する」

 今の俺にできるのは、ただ真っ直ぐに、感謝を伝える事だけだった。


 覚悟の確認が終了した所で、話題は具体的な行動に移る。

 ランクとはつまり実績と信用の指標だ。冒険者としてランクを上げるなら、冒険を経て実力を示すか、依頼を熟して信用を得るかが主な選択肢となる。当然、その実績や信用を保証する立場であるギルドとしては慎重に評価せざるを得ないのだから、そう簡単にポンポンと上がる物ではない。

 だからこそ、どう振る舞うのかという行動指針は重要だ。どういった能力では優秀なのか、どういった場面では有用なのか。アピールする方向性がぶれると、その効率は悪くなる。

 満遍なく万能性をアピールするくらいなら、同じ時間を掛けて1つの能力を示した方が判りやすい『魅力』を伝えられる。もちろん、その能力を伴っているという前提があってこそだが。

 そうして一度得た信頼と評価は、他の能力や適正への期待にも繋がる。一から全てを満遍なくアピールするより、よっぽど効率的だ。

 ……なんて、ギルドの側がわざわざ指導して来るのだから、これは対外的アピールを主眼においての事情なのだろう。


「護衛依頼は、あまりお奨めしないわ」

 と、まず否定の意見を出したのはリリーだ。

 大きな収入になりうる護衛依頼は、雇い主との信用性が重要だ。故に、これを成功させる事は評価に大きな影響があるのだが、彼女は否と断言する。

「その心は?」

「慰み者にされそうになれば殴り倒せば良いけど……相手は初めからそのつもりで期待してくるわよ? 女性ばかりのパーティなんて」

 問い返すリーダーに、彼女は不快感露な声で経験者らしい意見を口にした。

「一応、俺も居る訳だが……」

「下人か何かくらいに思われるでしょうね」

「いっそ、楽団として売り込んじゃうとか?」

 元踊り子らしい見解でフェーリンも乗ってくる。

「「裸で踊れ」なんて野次を飛ばされながら、その相手を護衛するなんて嫌よ」

 女性が護衛をするというのは随分と酷い扱いらしい。


「やっぱ大型と?」

 珍しく、メルからの発言があった。

 リスクは大きいが、リターンも大きい。それが、彼女の提案する大型狩りだ。予め準備をして挑むなら、意外と罠等も通用する。よくあるゲームのボスの様に、搦め手無効などということはない。流石に、そこらの獣相手用の虎挟みなどでは力づくで突破されてしまうが。

 悪い案ではない。俺はそう思ったのだが、リーダーが首を振った。

「それでは、移動、移動、移動になってしまう。それに、1匹倒すたびに周囲の縄張り状況も変わるからな。一々情勢が落ち着くのを待つのも面倒だろう」

 言われてみれば、以前は縄張り熊を一度狩っただけでも結構な騒ぎになったのだ。これを繰り返し積極的に狙うとなると、中々思う様に事が進まないのは想像に難く無い。


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2018/11/17 指摘を受け、誤字修正

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