冒険者の本分
7大型狩り
7−1 影響力
冒険者の在り方に、変化が起きつつある。
そんな話を、俺は冒険者ギルドの受付嬢から聞かされた。
森を切り開いて、市壁を築いてしまうと、護衛の冒険者の大半は用済みだ。
もちろん人足としての仕事は絶えないし、いっその事土木業関係の事業者に自分を売り込んで雇われの身になるという選択も無くは無い。形だけ冒険者登録をして臨時雇用に参加している者も多数居るらしい。
また、特別優れた個人の影響力で多くの人を動かし事業を成すのではなく、各員が出来る事を出来る様に熟す事で大事を為そうという考え方に転向し、徒党を組む様になった冒険者も居るという。この集団を、ギルドはパーティを超える新しい関係性として、クランと名付け、管理する事になったそうだ。
「地に足をつけた選択をとる者が増え、組織的な連携を考える様になった、と。どちらも基本的には良い事では?」
「ええ、良い事です。基本的には」
俺の要約に、彼女は同意したものの表情は晴れない。
「問題は、アデルさんのランクが低い事です」
「はい?」
何故俺が、と。思わず生返事してしまったが、彼女はその非礼を肩を竦めるだけで流した。
「大きく冒険者に影響を及ぼしたのが、アデルさんだからですよ。ランクが低くても、直接戦闘能力が無くても、事を起こせると証明したアデルさんに、皆さん影響されているんです」
真面目な表情と声色で彼女は言うが、どうにも冗談に思えてならない。
「いやいや。まだ成果を出した訳ではないですし、買い被りというものでしょう。大体、俺は旗持ちはしましたが、中心人物だったかと言えば否ですし」
「成果はまだ出ていませんが、可能性を示したという点では十分ですよ。それに、端から見ている分には、アデルさんは間違いなく事業の中心人物ですし。何より、「ランク2冒険者が開拓に乗り出しているのに」はもうお決まりの台詞なんです。アデルさん自身が何と言っても、その評価だけは動かない事実なんですよ」
彼女の説明を受けて、俺は納得はできないが、とりあえずの事情は理解した。感情に拘っていても仕方がないので、ひとまず話を聞く事にする。
「百歩譲って俺の影響が少なく無いとして……それが何故、問題なんですか?」
「ランクを上げようとしない冒険者が増えるという事は、周囲の危険を排除する人が減るという事です。今はまだ大きな影響は有りませんが、状況が長引けば、『氾濫』に繋がる恐れもあるとギルドは危惧しています」
随分と、ギルドは事態を重く見ているらしい。しかし、杞憂で済めば笑い話だが下手を打てば町が消える『氾濫』の可能性とまで言われると、簡単には笑い飛ばせなかった。
「その責任が、俺にあると?」
「そこまでは言いません。……ですが、アデルさんがランクを上げて下されば、その必要性を示して下されば、感化されている方の多くは追従しようとするでしょう」
丁度手も空いた事だから冒険者らしく冒険に行って来いと、つまりはそう言う事だった。
◇◆◇
幸い、俺が身を寄せているパーティには、需要の増えている土木業に就職したり大規模な徒を組んで緩やかな停滞を選択しようとする者は居なかった。
時期的に他者の視線が気になるので、会議室を借りての皆で話し合った結果だ。
「生きる為の選択としては悪く無いと思うんだが……」
10もの価値観が混ざって誰1人検討すらしないというのはむしろ不思議だったので、俺はそう疑問を形にしてみたのだが、皆微妙な表情をする。
「そう言うご主人様だって、まだまだ冒険者を続けるおつもりなんでしょう?」
彼女達の声を代表する様に、やや呆れの混ざったような声色で、建前上俺の奴隷であるルリに指摘されてしまった。
それを受けて、俺は俺の事情に目を向ける。
「俺はまだまだ事業を失敗しても立て直せる程の実力なんて持ってないからなぁ」
だらだらと独り身で生きていくだけなら、開拓地を売り払ってしまえば融資を返済してもそれなりのおつりが来るだろう。しかし、何かを為したいと思うなら、俺はまだまだ力不足だ。資金力も、影響力も、単純な地力も。
何より、思いがけず名が売れてしまったので、いつどのような悪意を向けられるか解らない。これまでがそうであった様に。経験則から、ある程度は自衛出来る力が欲しいと思うのは自然な流れ出はないだろうか。
「まぁ、いいじゃない。ギルドの要請でアデルはランクを上げなきゃいけなくて、私達もまだまだ冒険し足りない。ちょうどいいでしょ?」
そんな
実際問題、仮に冒険者を引退するにしてもいきなりぱたりと活動を止めるのではなく、引退後に有用となる才能を得るための所謂『引退活動』が必要になる。彼女達が俺の事情に何故付き合ってくれるのかは不透明だが、その好意と最低でも『引退活動』はしなければならないという事情に今しばらくは甘えさせて貰うとしよう。
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