6−5 衝突
結局の所、俺は貪欲だ。
俺の最終目標は、住み良い町づくり等ではない。
全国各地から奴隷を買い取り、個々人の意向に併せた教育を施して、契約という庇護の下で派遣する——。そんな未来図。町づくりは金策手段兼買い取る奴隷という母数を減らす為の工作に過ぎない。
ベリゴール商会は兎も角、他の奴隷商全てが真っ当に奴隷を扱っているとも限らない。正当な奴隷契約が結ばれるとも限らない。極端な話、一度結んだ契約を裏で解除してより悪辣な契約に書き換えている可能性だって、0ではない。
だから、その間に割り込んで『派遣サービス』という庇護下に置く。それが俺の密かな目標だった。もし誰かに明かした結果夢物語だと笑われようと、俺は手を伸ばすだろう。法律は、決して弱者の味方ではないと既に知っているのだから。
◇◆◇
俺の疲労に併せて、会議は何度も休憩が挟まれた。
それだけ3次元構造を説明する為の光魔法は有用であり、情報濃度の高さ故に休憩を許される余裕もあったともいえる。
「開拓予定区域全体の3次元構造をこちらの図に併せてお願いします」とか。
「木工ギルド支部建造の為
多少の脱線があっても、時間比の進捗は悪く無い。
必要以上に足を引っ張る者、感情的に反発する者など、問題のありそうな人物は予めギルドが
問題提起や懸念事項の質問などはあっても、妨害はない。そして、解決策を考えるのは俺だけではなく全体だ。そこには譲歩であったり交渉であったり、様々な形でのやり取りが見られるが、俺が土地権利者として独断で採択するよりも余程スムーズに話が進んだ。
「もしアデルさんが農村を開拓したら、どうなるんでしょうねぇ」
なんて、ルーウィが小さい組を集めて雑談に興じているのを休憩中に耳にしたが、もしそれを本気で検討するなら、それこそ領主の全面的協力を取り付けなければ成らない気がするので、今は考えない事にする。
◇◆◇
そんな会議の終わり際。
武装した兵士達がやって来た。
衛士ではない。貴族の私兵だ。胸にある紋章は、王家のそれではなく見覚えのある貴族の家紋。
はてどこだったか、と俺が思案を巡らせる間に、代表らしき1段偉そうな装いの兵士が声を張り上げた。
「ランク2冒険者、アデル。国家転覆を企てた容疑につき、同行されたし。庇い立てする者は、同罪と見做す。これは、現在この町を治める王家の代理を務める、伯爵位バルモンド卿の令である」
それは要するに、判りやすい横槍だ。
恐らく、大型級討伐計画への便乗を妨害するのが主目的で、信用失墜で計画そのものが頓挫すれば良し、そのまま処断できれば言う事がない、といった所か。
俺は1つ溜め息を吐いた。
突然の事に皆が身を堅くしているのが、まるで時間が停止したかのようだった。
手元の精神疲労回復の
「一応、様式美として証拠はあるのかと問わせて頂きましょうか」
「貴様がアデルか? サウスティナ辺境伯が孫娘カレン嬢に取り入り、ベリゴール商会の幹部に渡りをつけ詐術で適当に都合のいい未来像を語り、高額な奴隷を騙し取っただけに飽き足らず、この町でも無数の嘘を重ねて民を
「どれ1つ、証拠足り得ないと失笑するばかりですが。」
俺が何を言った所で、周囲の目としては王家直轄地代官貴族の私兵と一冒険者では信頼の度合いが違うだろう。仕方がないので、精々1人で
「
俺の訴えを、兵士代表は笑った。
「訴えはバルモンド卿がカリン嬢より直接伺っている。無駄な足掻きは寄せ」
「直接、ですか。手紙ではなく?」
「そのような些事を、貴様が気にする必要はない」
「些事ですか? 手紙があれば拡大解釈や曲解である事を検証できますが、言葉で直接という事であればそうでないとどう確認するのです?」
「裁判にご本人も立ち会って頂けば良かろう。さぁ、つべこべ言わずに来い」
その言葉で、彼の周りの兵がどたどたと部屋の中に入ってくる。
「なるほど、なるほど。根拠の正当性を示せないまま、武力で制圧しようと。……貴族の品格も落ちた物ですね?」
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下水処理への感心をコメントで多数頂きましたが、申し訳ありません。
話の展開上、それを描写するには残りの6章の話数が足りませんので、このような形となってしまいました。また別の機会に触れる事が出来ればと思います。
2018/10/30 キャラクターネームが初期案表記(カリン)になっていたのをカレンに修正
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