6陣取り合戦
6−1 冒険者ギルドの権威
冒険者ギルドというのは、誤解を恐れず極端な表現をすると、冒険者を管理する組織だ。ギルドによって与えられるランクという評価は、それ1つで冒険者の信用や力量を客観的に決定する。
例えば、冒険者ギルドに逆らった結果、「信用のない奴だ」と名指しされランクを取り上げられたりすれば、
ギルドに見限られた冒険者の末路は、悲惨の一言だ。その信用は犯罪奴隷未満といっても過言ではない。故に、本質的には冒険者はギルドに逆らう事ができない。
これが、
そして、冒険者を管理する組織という立場は、何も冒険者だけに影響力を持っている訳ではない。
例えば、護衛を要する流通業、例えば、同じく護衛を要する第一産業やそれに密接に関わる一次加工業など。冒険者の派遣を差し止めると脅されればそれだけで存続が危ぶまれる様な者達にとって、冒険者ギルドは怒らせてはいけない相手だ。
◇◆◇
知識はあった。利用させてもらう魂胆もあった。
だから受付嬢に協力申請を出したのだし、わざわざ会議室を借りて未来像を語り、協力者を選定する為の基準を明文化した書類まで用意したのだ。
しかし、その影響力は俺の想像を遥かに上回っていた。俺の想像では、精々一時
しかし、ギルドからの掲示はまるで王家の出す
条件を満たさない——主に高ランク冒険者があっさり身を引いたのが、1番衝撃的だったか。それを見た他の経歴の浅い冒険者達が改めてギルドの影響力を確認し、その影響は一般人にも波及した。
ギルドがいつもの平静を取り戻すまで、1時間もかかったかどうか。
「予め計画を申請しておいて下されば、私達ギルドはしっかりと支援致しますよっ」
なんて胸を張る気弱な質のギルド受付嬢の姿には、そんな権力の凄みなど欠片も見出だす事が出来なかったのだが、指摘するのは野暮というものだろう。
足切り選定はギルドが行なってくれる。俺は実交渉だけを担当すれば良い。
恐ろしくも頼もしい、またとない後方支援だった。
「大型級討伐に併せて、森を切り開く」
「伐採は林業関係者や木工ギルド、運搬は馬車ギルド、それらの護衛を大型級討伐に関与しない低ランク冒険者が担当する。この費用は木材の売り上げだけでは赤字が予想されるので、『協力者』からの融資を当てる」
「これによって得た開拓余剰地の権利は領主に売り払わず、俺と『協力者』の協議の下管理する物とする」
と、公表した基本方針は、表向き、低いリスクで新しい土地の権利を得ようというものだ。
しかし、それはつまり、俺に恩を売っておけば自分達にとって都合のいい町を期待でき、逆に放置すれば要所に支部をおく事さえ難しくなる事を意味する。わざわざ北門の側に支部を設けていた者達にとっては、当然無視出来ない計画だった。
当然、内心では反発はあるだろう。しかし、人類の生存領域拡大という大義名分の前でそれを表に出せば悶着は避けられない。故に、「優先的交渉権がある」と話を持ちかける事で不満を解消しつつ、融資を募るのだ。——俺の発案で、ギルドの職員が。
◇◆◇
そんなギルドに感謝しつつ、俺は俺の出来る事をする。
つまり、森に入って偵察する事。どこまで切り込むべきか見極める事。削り過ぎれば、住処を追われたモンスターは人里を襲う。
討伐隊が削るからと楽観しては、近くの宿場村や
1日と無駄にできる時間はない。
他の冒険者パーティとの合同作戦にも難色を示してばかりはいられない。
これが中々に面倒な作業だった。実際の指揮判断を下すのはリーダーの役回りだが、安全確認や管理は斥候である俺の感覚に依存する部分が大きい。人数が多い分モンスターに補足される範囲が広くなるし、徒党を組んでいるのかと言いたくなるくらいこちらに対する警戒心が強くなって、普段とは大きく反応が異なる種もいる。
警戒範囲が1人で対応できるそれを超えてしまうので、スィーゼにも頑張ってもらわなければならないし、本番ではもっと多くの目が必要だろう。
準備を進めていく仮定で見つかる粗は、早いうちに対策を考えておく方が良い。
ほんの少しの油断が命取りになるのが世の常なのだからして。
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