5−10 協力と牽制
昼。俺達は合流して領主代官の館を訪れた。
本当なら俺1人で十分だと思っていたのだが、リーダーとリリー、加えてイシリア、ルリまでが揃って反対するちょっとした騒ぎがあったからだ。問答の結果俺が折れ、彼女達は俺の護衛として、発言権を持たない護衛として同席する形に落ち着いた。
辺境伯爵家と臨時王家
大きなテーブルを挟んで、俺達が対面したのは中年の男性だった。
顔をあわせてみた第一印象は、覇気のない男性といったところか。仮に町中で顔をあわせても、間違っても領主貴族とは思わないだろう雰囲気の。
代官として、野心を燃やす事無く確実に権威再建という実務を熟しそうな人間が選ばれたのだろうか。
そんな最初の印象違わず、彼は保守派らしい意見を口にする。
「……私としましては、ご協力致しかねます」
現状と、今後の展望を俺が説明した後の発言だ。
「現在、この町に限らず、領内の各町・村問わず兵を広く展開し、領主を失った事による民の混乱を抑えている状況です。人的にも経済的にも、そのような夢物語に投資する余裕はございません」
裏を返せば、その混乱を取り除けば、協力する事は出来なくも無い、と。そんなつまらない駆け引きをする中年に、カレン嬢は貴婦人らしく笑顔の仮面を崩さない。
もちろん、ここに彼女の出番などなく、俺の舞台だ。
「えーっと、何か勘違いされている様ですね?」
俺の確認の言葉に、中年領主代官はあからさまに不機嫌そうに眉を顰める。
それは、俺を格下と見ている証拠だろう。失礼ながら、感情の発露を武器にするやり方を得意にしている様には見えなかったし、ひと呼吸の間を置いても言葉を挟む事も無く俺の発言の続きを待つのでは、あえて感情の動きを見せた意味がない。
「俺は、お力添えを願いに来た訳ではありません。「現状維持に忙しい」その言質を頂けただけで十分です。……「どうか、邪魔をしないで頂きたい」と言いに来たのですよ」
俺が懸念しているのは、開拓のバッティングだ。現状維持に忙しく兵も資金も舞わせないというのであれば、それに超した事はない。
要するに、指をくわえて見ていてくれれば、それで良い。
領主代官としては、交渉や問答の結果、俺から譲歩を引き出したり、何らかの利権の確保、または『厳しい中力添えした』という恩を売りたかったのだろう。
そのくらいの事はテーブルに着く前から予想していたし、幾らかの楽観はあった。しかし、こうも思う通りに事が運ぶと思わず頬が緩むのを抑えられない。
それを出来るだけ友好的な笑みの形に整え、俺は辺境伯爵の娘と目配せをした後、中年領主代官に最後通告を突き付けた。
「いやぁ、ちょうど良かった。庶民の混乱を抑えるのに忙しく、現状抱える問題を解決に運ぶ余裕もないとあれば、森の開拓がバッティングする事は有り得ませんよね」
ランク2冒険者に解決策を頼ろうとしたその舌の根も乾かないうちに、その問題を放置して森を切り開く為に兵を動かす、とは言えないだろう。そう確信しての俺の言葉に、中年領主代官は苦虫を噛み潰した様な顔で首肯する。
「えぇ、残念ながらそちらに人員を割く余裕は、ありません。切り開かれた土地に応じて広がる開拓余剰地は、慣例に則って買い取りましょう」
「売りませんよ? というか、買う余裕もないでしょう? 先程貴方は、財政的余裕もないと仰ったんですから」
これは俺が詐欺に
◇◆◇
「それでは、アデル様は今後、
会談を終えて、帰り道。後を着いて来たカレン嬢の言葉だ。
今更だが、彼女は町中とはいえ護衛も無しにこんな気軽に出歩いて大丈夫なんだろうか。いやまぁ、端から見れば俺たちが雇われ護衛の様な立ち位置なのかも知れないが。仕方がないと、彼女を宿まで送る俺達も中々お人好しかも知れない。
「如何も何も、順当に協力者を捜しますよ」
探すのは主に、大規模な戦闘を得意とはしない、今回の討伐隊でのお留守番連中だ。特に低ランクの冒険者はこの傾向にあるから、郊外での伐採活動の人足として雇うのにちょうどいい。そうして出る木材は買い叩かれる事が予想されるが、木工ギルドに協力を要請する糸口として都合が良いし、木材の物価が下がればその後の建築で助かる。
「冒険者ギルド自体には協力要請をされないのかしら?」
「俺はランク2ですよ? 大した融資は期待できないと思うんですが」
「私は、実力で騎士爵を得たランク2冒険者をアデル様以外に知りませんわ。一般論で判断すべき状況ではないかと」
可愛らしく小首を
それに便乗する様に、リーダーが。
「おいおい、私はランク4だぞ。忘れないでくれ」
「私も4だ」
「引退前は5だったのよ?」
と、イシリア、フェーリンが更に追従し、残る面々も3である事を続々主張してくる。冒険者ではないカレン嬢やまだ冒険者登録をして1日のルリを数に含まなければ、俺が1人格下だという事実が判明した。
今まで話題に上がらなかったのは、皆気を使ってくれていたのだろうか。……実際、地味に傷付いている自覚があるので、無言のままに感謝する他なかった。
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