3−7 冒険しない冒険者
前衛が多く、斥候も2人。魔法使いまでいる。8人というのは冒険者の単一パーティとしてみれば大所帯な部類だ。その戦力は高く評価できるし、手札も多い。単純に、このあたりで既知の大型を相手取るなら不足はないだろう。未知の大型級中型モンスター相手でも、相手が少数であれば対処できる公算は高い。調査だけならなおさらだ。
そのうえで俺が反対する理由は、単純に処理能力が足りないだろうと予測されたからだった。
「大型級の縄張りにしてみれば確かに小さいが、ここに来てそれほど期間が経過していないだろうことを考えれば、これだけの縄張りを確保している群れの規模は、甘く見ない方が良い」
理由はそれだけではないのだが、追加の情報を出すより先に、リリーが空気を読んでくれる。
「そうね。私も多数相手は苦手だし、一旦退く方に賛成よ」
恐らく反対する可能性が最も高かった2人の言葉を受けて、リーダーは強気な笑みを取り戻した。
「――そうか。では、反対の者はいるか?」
◇◆◇
北の村の冒険者ギルドで報告を終えた俺達は、予め任せてあった物資の補給を受けて宿を取ることになった。
ちなみに、名乗るなり予定より半日早い村への到着にギルドの職員達は事情を察したようで、町への使いの手配なども滞り無く行なわれ、流石荒事処理に慣れている組織だけは有るなと変な所に感心させられた次第である。
まだ日中だが、今から徒歩で町へ向かえば到着は夜中になってしまうので、最寄りの村で足を調整する旅人の為に、この手の土地の宿はほぼ24時間受け入れ態勢万全だ。少しばかり事情は異なるが、俺達は宿の人間に嫌な顔1つされる事無く臨時拠点を得る事が出来た。
ところで8人も泊まれる様な部屋を用意している宿というのはあまりない。3人部屋3つか2人部屋4つか、4人部屋2つか、滅多にない6人部屋を利用するのか。選択の幅は多数有るのだが、現パーティ通算4回目になる宿の利用は今の所全て4人部屋2つだ。
その選択が一番安上がりなのは確かだが、俺の肩身の狭さも多少は考慮に入れて欲しい。宿の人の視線とか。実際は端から勘ぐられる様な色事はないし、それどころか色恋沙汰とすら無縁なのだから、特に周囲からの視線に対しては異を唱えたい所では有る。
唱えなくても、翌日シーツを変える担当者などはある程度察してくれるとは思うのだがそれはそれとして別問題だ。
4人部屋の片方、俺が泊まる事になった方の部屋に8人が全員集まって、今後の指針について改めて話し合う事になった。
俺はてっきり目端の聞くリーダーによるワンマンパーティかと思ていたのだが、どうやら郊外での判断はリーダー任せ、安全地帯で余裕が有る時はむしろ積極的に意見交換を行なっているらしい。
お互いに何を考えているのか、欲しているのか、不満なのか、普段から意見を交わしておく事で、有事の際リーダーは素早く優先順位を決定して指示を下せるのだと言う。
やはり、昨夜郊外でわざわざ会議を開いたのは、8割方の部分が俺に対する配慮だったのだろう。リリーは既にこのパーティのやり方に慣れているという事なので。
さて議題はというと、早期報告を果たした今、今後我々はどう動くのか。
異変がここだけとは限らないからと森の探索を続けるのか
改めて大型級の討伐や調査、あるいは時間稼ぎに周囲の大型討伐へと打って出るのか。
はたまた、大型級がやって来たのであろう森の奥地へ挑み原因究明に力を注ぐのか。
意見は俺とリーダーを除く2対2対2で別れ、7人の視線が俺に突き立てられた。
リーダーが票を投じないのは、彼女の意向は他のメンバーの意思決定に少なく無い影響を与える可能性が大きいから、という事になっている。
俺がなんと答えた所でリーダーの一声で全てが覆るのだろうが、7人もの異性から向けられる視線の圧力は、いい加減な判断は許さないと言っているようで息苦しい。
しかし、どんなプレッシャーを向けられた所で、俺の答えは変わらない。
「俺は初志貫徹、森の探索続行を押すよ。正体不明のモンスター相手に立ち回れる準備はないし、そもそも俺は大型以上との直接戦闘では殆ど役に立てない。奥地——森のダンジョンは情報不足が過ぎるから、これも俺が役に立てると思えないし」
臆病風に吹かれたと思われるなら別にそれでも構わない。必要のない冒険に挑める程、俺自身には実力的余裕はないというのが俺の考えだ。少なくとも、材料の少ない判断ミス1つで全滅しかねない様な冒険に、必要も無く挑むのは御免であった。
そんな俺の主張に、リーダーが肩を振るわせて笑い出す。
笑われるのは覚悟の上だったが、良い気分ではないのは間違いない。思わず彼女へ視線をやると、彼女は身振りで謝罪の意を告げて来た。それでも笑いを止めないのは、止められないのは、余程壷にでも嵌ったのだろうか。
「いや、なんだ。その……な?」
考えが纏まらないのか笑いが止まらない所為で上手く説明できないだけなのか、笑い声の合間合間に声を挟む彼女は、ちっとも悪いと思っているようには見えない。しかし、もとより責めるつもりはなかったので、他の面々同様、彼女の笑いが納まるのを静かに待った。
彼女の心の内が判らないのは俺だけの様で、他の6人に困惑の色は見られない。
リリーなど、むしろ俺の方を見てにんまり笑う程だ。
彼女の方を問いつめるべきかと思案していると、ようやく息を整えたリーダーが俺に向き直った。
「いや、すまないね。君を笑い者にするつもりは全くなかったんだが。むしろ逆だ、君はとても素晴らしい斥候だと思う。ただ、その自覚のなさがどうにも可笑しくてね」
彼女が見せてくれる、これまでのどの笑顔より友好的なその笑みは、逆に俺の警戒心を刺激する。
「あぁ、そう構えないでくれ。君は私達が求める斥候として十分な技能と知識を持っていて、その上で必要と有れば囮もこなしてくれる度胸と勇気がある。加えて、私達の願いに応じて苦手な状況にも共に挑んでくれると言ってくれた。その上で、今。過半数が冒険を指示する中でもなお流されずに全体の安全を優先し、自分の実力不足と言う普通の冒険者なら意地でも口にしない理由を建前にして反発してみせた。……これは中々出来る事ではないはずだよ?」
「過剰評価ですよ」
そんな立派なもんじゃない、と俺は肩を竦めてみせる。
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1日目:村まで移動+弓を受け取る
2日目:森へ+弓を扱いきれない
3日目:森探索+射線視認魔法:レイズサイト開発
4日目:異変(大型級中型モンスターの登場)確認
5日目:北の村へ(報告と補給)
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