3−6 進む道
今日魔法を調整する為に撃った矢を幾らかダメにしてしまったので、
というのも、小物作りの才能を得たと言ってもやはりいきなり新しい事に挑戦するというのは容易ではなく、枝から箆を削り出すのも石を上手く砕いて鏃を作り出すのも、想像していたより遥かに難しかったからだ。
石は中々思う大きさ形に割れてくれないし、適切なサイズの棒を切り出すのも、長さは兎も角太さが難しい。見張りの時間殆ど丸々掛けてようやく1本作れるというのは、作れるとは言わない方が良いだろう。
矢が安く無いのは納得せざるを得なかった。
◇◆◇
4日目の探索では。大規模な戦闘の跡を発見した。
気が付いたのは、俺よりリリーの方が先だった。
「気をつけて。魔法痕があるわ」
と、彼女が皆に注意を促すのと同時ぐらいになって、俺は木々に焦げ目を見つけた。
どうやら視覚的な痕跡より先に、魔力的痕跡が判ったらしい。
「……大型級の可能性もあるが……背は低いようだな」
使われたのは、恐らく電撃の魔法。茂みから高い所にある枝葉にまで焦げ跡が見られるにも拘らず地面の被害は少ない事から、攻撃始点が地面に近い所にあり、攻撃対象が大柄であったか樹上に居たのかといった状況が伺われる。
電撃の主がモンスターだとすれば、体高が低いだろうと推察するに十分な痕跡だった。
「一両日中、だと思うわ」
曰く、「数日経っても魔力の乱れが自然に融けて消滅しない程の大規模な魔法ではないだろう」とのことだ。さらに俺自身についても「更に魔法に慣れれば肌で感じる事が出来るようになるだろうし、それが出来るようになれば幻惑魔法の応用で視覚的に捉える事も出来るようになる」とリリーは励ましてくれたが、それよりスィーゼからの鋭い視線をどうにかして欲しかった。
続けてよくよく森の中を探索してみれば、移動して来た大型級中型モンスターと大型モンスターが争った跡のようだ。大型級というのはつまり、大型ではないが脅威としては大型並という意味である。
大型級中型モンスターは、個々の縄張りは広く無い物の繁殖力が高く、大型と比して短命な傾向に有るとされている。つまり、南で起きた縄張りの主の消失や逆に縄張りを持たない強力なモンスターの移動を誘発する存在だ。
これが北の村から1日森を歩く程度の場所にいるのだから、要警戒と報告する事は確定だ。「ギルドの協議次第では討伐隊が組まれる可能性もある」とリーダーが補足する。
「では、報告を急ぎますか?」
「一応確認するが、大型級の方が負けた可能性は?」
「ないですね。決着がついたようにも見えませんが」
中型モンスターの本能として大型との戦闘を避ける傾向には有るが、攻撃力が同等で回避力と隠密性に軍配の上がる中型モンスターが普通の大型に負ける道理はない。大型級という評価はあくまで人から見た脅威度であって、モンスター同士での闘争では大型級の方が上である事が殆どだ。
中型の中の例外に対処できるのは、大型の中でも例外的な存在だけ。それが冒険者の間での常識だった。
リーダーもそれを知らない筈が無く、それでも一応期待せずにはいられなかった、といったところか。
話に聞く大型級中型モンスター相手の面倒臭さを思えば、多少非現実的でも幸運な結果を願ってしまうのは理解できる。
「しかし、計画を切り上げるのもな。一応、予定通りの時間をかけて対象の姿、具体的種を特定できないか粘ってみよう」
戦闘跡からだけでは、大きさと戦い方を憶測するのがやっとだ。同じ傾向の有るモンスターでも種が変われば有効な攻略手段が変わることは珍しく無い。情報確度が高いに越した事はないと言われれば、危険が迫っている訳でもないので斥候としての反対材料はなかった。
とはいえ、事前情報なく探して簡単に見つかる様な相手なら、常識的に考えてあり得ない相打ちを期待するなんてする筈もない。結局は他にいくつかの戦闘跡を見つけただけで、得られた情報の量はそれほど変わらなかった。
判ったのは、大型モンスターの縄張りを少しづつ切り取って、狭い縄張りを確保しているらしいという事だけ。これによって押し出される形で大型モンスターが縄張りを移動するとも思えない程度の小規模な縄張りでは有るが、これだけで留まると考えるのは流石に楽観が過ぎるだろう。他所からの流入である事も加味すれば、1年も放置すれば確実に勢力図を塗り替える存在になる筈だ。
その夜は、普段はリーダーの意思決定ひとつで行動指針が確定する性質の強いこのパーティでは珍しく、これからの方針を話し合うべく会議が開かれた。
時間を割いてより詳細に状況を確認するべきだという方針と、1パーティでは限界が有るので早期報告を行い、別動調査パーティを要請するべきだという方針だ。
意見が割れたというよりは、リーダー自身が迷って皆に相談を持ちかけた形である。
一概にどちらが正しいかとは言えない、確かに判断の難しい所だった。
死に戻りを前提としていないこのパーティは、少し無理をすればリスクが格段に跳ね上がる。長期間探索を行ない広く全体を確認する事を目的とした編成だったのだからある意味当然だが、そもそも死に戻りを前提とする行動指針を好まない傾向に有ることは、前回の遠出の際にもよく思い知らされた。
しかし、より詳細な情報を持ち帰れば利益が大きくなる。そこには単に情報に対する謝礼だけでなく、難しい調査をこなしたという実績も含まれる。この手の評価はそう簡単に得られる物ではないので、得られるときに得ておきたいという気持ちは理解できなくも無い。
対して、異常を早期報告するというのは早ければ早い程その情報の価値は高まる。報酬や周囲からの評価にはあまり影響しないが、町や村の安全を考えればこちらの選択肢が有要だ。
そういったリスクとメリットをリーダーが皆に説明する中で、俺は内心首を傾げた。このパーティなら、特に悩むまでもない選択だと思えたからだ。
ナンシーやイシリアも同じ疑問を抱いたのか、訝し気な表情をしている。
「何故悩んでるんです?」
と、一同を代表したのは普段あまり積極的な発言をしないメルだった。
「……以前
リーダーの言葉にスィーゼが目を伏せるが、それに注目するメンバーはいない。皆、彼女の心情を理解した上で触れないようにしているのだろう。
「しかし、今回私達の戦力・手札は大型モンスター相手に引けを取る物ではないと考えている。大型級といえど、必ずしも避けなければならない脅威であるとは考えていない。それでも尚消極的な判断を、皆は支持してくれるだろうか?」
このパーティであれば自分達の利益よりも、村や町の安全への貢献を優先するだろう。そんな俺の抱いていた印象との違和感は、新規参入組であるリリーや俺の内心への配慮に有るようだ。
だから俺は敢えて率先して発言する事にした。
「確かに、8人行動での戦力と選択肢は多いです。しかし……今回の異変は俺達の手に余ると思いますが?」
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1日目:村まで移動+弓を受け取る
2日目:森へ+弓を扱いきれない
3日目:森探索+射線視認魔法:レイズサイト開発
4日目:異変(大型級中型モンスターの登場)確認
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