2心休まらぬ休息

2−1 小動物と日陰者

 昨日というか今日というか、とにかく日中の探索を早めに切り上げたおかげで、品質の良い薬草を選り分ける余裕があった。

 冒険者ギルドに卸す場合よほど低品質のものでない限り一律価格での買取となる。まぁ、各種業者と自分で顔を繋いでいちいち交渉する手間を考えれば、微妙なところだ。

 採取量の報告については同行しているギルド職員が確認してくれている。

 よって、そこから必要な分を貰っても分け前から天引きという形にすれば問題はない。


 魔法薬師へのお土産という面もなくはないが、何より予想以上にアイテムを使いすぎた。まだ実働2日だというのに、4日分は使っている。拠点に置いておいた補給用があるにはあるが、1週間という行程を考えると心もとない。

 特に、動物系モンスターに効果的な匂い玉は重要だ。

 俺にとっては生命線と言っても良い。ナイフでモンスターと格闘するなど、目も当てられない結果になる事だろう。想像したくも無い。

 回収班に依頼して後日持って来てもらうという手もあるのだが、品質の保証がないし、翌日に手に入る保証もない。自分で準備できるなら、それに超した事はない。

 匂い玉の主原料はハーブ類だ。反応して匂いがキツくなる組み合せをカプセル状の入れ物に封じるだけでも、一応役立てれる程度の物にはなる。

 リリーに属性魔法の基礎を教わったおかげで、乾燥させた方が効果が得られるハーブはひと手間で乾燥させる事が出来るし、湯煎ではなく直接加熱する事も出来る。精神的には疲労するが、準備と片付けの手間、無駄に音を立てるリスクを考えればこちらの方が断然効率的だ。


 そうして消耗したアイテム補給の為に作業をしていると、横合いから潜めた声がかけられた。

「はー。優秀な斥候って聞いてましたけど、アイテムメイカーでもあるんですねぇ」

 今夜から夜番を共にする事になった小動物っぽい少女だ。名前はルーウィといったか。

 隠しているつもりなのだろうから触れるつもりはないが、カチューシャやふわふわな髪に隠れている獣耳には既に気付いていた。それは明らかな獣人の特徴なのだが、何故隠しているのかまでは不明だ。俺の知る限り差別などはないはずなのだが。

 獣人は筋力・体力、そして一部の感覚器において純粋な人族より秀でている事が多く、エルフやドワーフと違って繁殖力でも勝っている。欠点と言えば発情期を自分でコントロールできない事とか、親子でも同種の獣の特徴になるとは限らないので生活習慣の管理が難しい事などだろうか。冒険者としてみると、特に発情期の有無が大きい……と言われている。万年発情期の人間がそう言うのだから笑える話だ。

「あのー? 私の顔に何かついてますか?」

「あぁ、すまん。ちょっと考え事をな。んで、アイテムメイカーだったか? 俺のはそんな立派なもんじゃないよ」

 何かついてるのは顔では無く頭だが、そんな指摘をする訳にもいかず、俺は適当に誤摩化して話題を戻す。

 資質も才能もなく、修行を積んだ訳でもない。そんな大それた物と一緒にされては気後れしてしまう、と苦笑した。

 しかし、俺の手元に視線をやった彼女は小さく首を振る。

「いやいや、少し見てましたけど、見事な手際じゃないですか」

 言葉では俺を褒めているようだが、その口調はどうやら落ち込んでいる様子だ。

 思い返してみると彼女は、本来のポジションではなく荷物持ちをさせられていた。

 それが不満なのだろうか。

 獣人は生まれながらに戦士であると評される程に優秀な身体能力を持っているという。その自負を持つ者なら、荷物持ちをさせられる事に不満があっても不思議はない。

「……俺は君等と違って戦えないからな。逃げる準備くらいしか出来ないのさ」

「……ありがとうございます」

 俺の言葉の裏を読んで、そんな細かい事にまで礼を述べる彼女に、俺は肩を竦める。

「でも、アデルさんは戦えないくらいが丁度良いんじゃないですか? スズちゃんが嫉妬してましたよ」

 もう1人の斥候スィーゼの名前を出して、彼女は微妙な空気を誤摩化した。

「俺が自由に動けてるのは、彼女がパーティの側で目を光らしてくれているからだよ。スズがいなけりゃ、もっと消極的な動きしか出来ないさ」

 斥候役がパーティに1人しかいなかった頃と比べれば、大胆な動きをする俺の活躍が目を引くのも無理はない。しかし、大前提が違うのだから比較するだけ無駄という物だ。

 彼女としては本気で言っているつもりはないのだろう。冒険者の大部分は戦いを通じて得た経験で才能を開花させる為に冒険をしているのだから、戦えないというのはかなり致命的な欠陥と言える。

「それ、明日スズに言ってあげてください。私が言っても、説得力無いですし」

 その笑顔は、まるで自分の事であるかのように嬉しそうだ。

 このパーティは、本当に仲間思いの連中が多いらしい。思わず、頬が緩みそうな程に微笑ましい事だった。

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