1−12 陰の立役者

 パーティリーダーの予定では、今日のところは偵察までの想定だったらしい。

 ついでに俺の能力を見極めつつ以前の遺品ロストアイテムを回収できれば上々、と。

 ところが熊を精神的に疲れさせる段階で討伐してしまったので拍子抜けだと、説明があった。

 ちなみに、同行中のギルド職員さんはリーダーの冒険者登録を担当した人であり、その縁からパーティの苦渋をよく知っている間柄らしい。


 酒は振舞われなかったものの結局夜には宴会騒ぎで、安静とは何だったのかと小一時間ほど問い詰めたい気分にさせられたが、まぁ、本人達が嬉しそうなので良しとしよう。

 しかし、その思いを完全には共有できない俺や、実際縄張り熊テリトルベアーに遭遇すらしていないリリーはほとんど蚊帳の外状態である。

 彼女達もそれはよく分かっているらしく、無理に絡んでこようとはしない。

 寂しさに似た物足りなさはあるものの、それを吹き飛ばす勢いのお祭り騒ぎだ。さして気になりはしない。

「私がいれば格好良く仕留めてたのに……」

「まだ言ってたのか」

 確かに、彼女の火力なり支援なりがあれば、そもそも最初から撤退するを選択する必要はなかっただろう。足場を崩すのは彼女の十八番だし、1撃の重さも槍の1撃を悠々と上回る。同レベル帯だとは思えない程の水魔法の冴えが彼女にはあった。詳しくは聞いていないが、恐らくは加護や才能の後押しが複数あるに違いない。

 お祭り騒ぎの1歩外、荷物整理用に使っていた木箱で作ったテーブルセットに、向かい合う形で俺も腰掛ける。

「リリーが凄いのは皆が認めてる。俺もそうだ。しかし、他の面々の活躍の場を奪う程に動かれると、他のメンバーは経験を積めないだろう? 斥候の俺は兎も角、戦闘メインの奴らには堪らんよ」

「むー。本当に凄いって思ってる? 怖がりだって馬鹿にしてない? 水の魔法使い(笑)とか思ってない?」

「本当に凄いと思ってるさ。リリーがいなけりゃ1・2時間かけて水汲みしなけりゃならないし、食事も洗濯も手がかかる。非常用の飲み水だってもっと多く確保しなけりゃならんから嵩張るし、戦闘でも切り札だ。しかも、俺は何度も試されてるのに対してリリーは既に信頼されてるからこそ、縄張り熊討伐のメインパーティー確定だったんだぞ?」

 彼女が持つゴブレットの中身はなんちゃってハーブティーの筈なのだが、にへらっと相好を崩す様は酔っぱらっているようにしか見えない。

「そりゃぁね? 魔法使いは戦闘の花形だもの。派手で強力な魔法も多いんだから、討伐パーティの火力担当も当然よ! ……けど、水汲みも飲み水確保も地味じゃない。そりゃお礼は言ってくれるけどさ?」

「地味なもんか。嵩張るってことはそれだけ有事の際の機動力に関わるという事だし、1時間も探索に割ける時間が変われば今回の遠出での稼ぎは大きく変わるぞ? 安全にも効率にも寄与してる。大したもんだ」

 どうやら最近俺ばかりが褒められているので、構って欲しかったようだ。自身が得意な魔法の分野にしても、より希少な回復魔法の使い手が同行していてショックを受けたのかも知れない。

 まぁ、その程度の嫉妬心は可愛いものだ。少し褒めただけであからさまに頬を緩めているのもまた同様に。

「……貴族なんてのはもっと取っ付きにくい奴だと思ってたものだが……」

 思わず漏れた俺の呟きに、リリーははっとした様子で表情を改めた。今更取り繕っても遅いと思うのは俺だけではないだろう。

 彼女のふやけた様子を見ていたのは俺だけだろうから、俺が吹聴しなければ良いだけの話ではあるが。

 話はもう終わったし、俺のゴブレットは空だ。今日は十分に働かされたし、見張りの担当は真夜中。早めに眠らせてもらおうと思って、俺は席を立った。

「……そんなに、貴族らしく無い?」

「俺の勝手なイメージではな。ただ、その方が有り難いし好ましい」

 背中からかけられた言葉に振り向かずに応え、俺はテントへ向かった。

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