1−5 顔合わせと信頼
翌日。
昼過ぎの南門、待ち合わせの場所に俺が趣くと、8人の女性の姿があった。
内1人がギルド員と判る出立ちで、今回の遠征に随伴する唯一の非戦闘員だ。
残る7人、つまり俺を入れた8人が今回のパーティである。単一パーティと見れば大きな集団だが、拠点防衛の都合で二手に分かれる事を加味すればこんなものだろう。
ギルドで見かけた事のある顔が多数あったが、名前を知っているのは例の魔法使いとギルドの職員だけだった。
「待たせた」
「大丈夫よ」
挨拶は短く、手早く。九人と二頭引き中型馬車の大所帯では、余り場所を占有しているのも迷惑になりかねない。
自己紹介は道中でと暗黙のままに意思を疎通して、俺達は町を発とうとする。
しかしそこに、声が掛けられた。
「お。アデルじゃないか! 珍しいな、連れがいるのか?」
門番の男だ。
門の警備を任されるのは衛士の中でも精鋭だ。その分衛士の中での影響力も強いらしく、仲良くしておくに越した事はない。
例えば、流石に持ち込まれた荷物の細かい内容までは教えてもらえないが、端から見て判る内容で有れば彼等の職務規程的に問題はないらしい。大荷物の持ち込みであるとか、梱包されていない荷物の概要、有名人の往来等、彼等は情報の宝庫だった。
「俺もそう思うよ」
「……しかも、粒揃いじゃないか。紹介しろよ」
わざわざ距離を詰めて来て、彼女達に聞こえない様声を顰める精鋭衛士。
「臨時パーティだからな、殆どが初顔合わせで、紹介できる様な間柄じゃない」
「そりゃあ、残念だ。せめて、俺の事を紹介しておいてくれ」
「機会があったらな」
いい印象を持たれようと思ってか、満面の笑みで手を振る衛士に見送られ、俺達は出発した。
彼には申し訳ないのだが、俺は自分に戦闘能力がないと自覚している分、人見知りをする方だ。初顔合わせの多い中、自分の役割を全うするのが精一杯だろうから、その機会は訪れないだろう。
◇◆◇
2人が拠点を防衛し、俺を含む6人パーティで森を探索する。それが今回の基本方針らしい。パーティリーダーだという肉付きの良い戦士風の女性が、皆を代表して俺に説明してくれた。拠点を護る2人は戦士系。
探索パーティの斥候役は俺ともう1人。前衛の戦士がリーダーの彼女を含む3人で、後衛が例の魔法使い。
フォーメーションは基本、リーダーともう1人の斥候が殿を務めると言う。
「安定した布陣だな」
流石に6人パーティともなれば対応力が違う。前衛遊撃後衛の3人では不測の事態に対応できないからと、パーティの基本は4人以上なんて言われるが、この布陣なら誰かが負傷しても十分撤退は可能だろう。
正直な感想を口にすると、しかしリーダーの女性は肩を竦めた。
「いや、実戦経験の少ない急造パーティだ。油断せずに行こう」
その慎重さは、俺にとって勇猛で無謀なリーダーなどより遥かに好ましいものだった。リスクを顧みない指示で、これまでどれほど死に目を見て来た事か。しかも、その手のリーダーは俺の言葉に耳を貸さない上、いざ苦境に陥ると俺の責任になるのだから堪ったものではなかった。
9人という集団で街道を歩いていると、モンスターに襲われる事は早々ない。そんな好戦的なモンスターは定期巡回している騎士団が間引いているのだから当然だ。
故に、俺達は警戒しつつもリスクは低いと判断し、得手不得手を含めた自己紹介を交わしながら道程を消化する。
街道沿いの開けたスペース。
町から1日の距離にある村から、更に少し進んだ場所が今回の拠点だ。
食事は基本保存食とはいえ、森で採れた食材で料理する事も考えられるし、テントだけでなく竃も用意する。焚き火では済ませない辺りが彼女等の拘りを伺えた。
周囲の安全を念のために確認して、俺達6人は森に入った。
「まずは行軍に慣れよう」
戦闘は避ける。採取も隙を晒す事になるので行なわない。
森の中の水場まで、安全優先で移動する。
それがリーダーの判断だと言うなら、斥候はそれに従って移動ルートを模索するのが役割だ。
森に出没するモンスターは、その大半が動物系であった。奥地に踏み込めば植物系なども現れて事情も変わるが、街道を外れて1日も行かない様な浅い領域では考慮する必要はまずない。そしてその生態は動物に準じるので、斥候としては与し易い相手である。
直線で進めば1時間の行程を、2時間掛けて進んだ。とはいえ、無戦闘のためには大回りを避けれなかったので仕方がない。水場の周りは必ず、動物系モンスターのテリトリーなのだから。
「アデル。私が森を歩き慣れていないだけかも知れないが、随分歩いたな?」
俺に声を掛けて来たのは、リーダーではない前衛の1人。剣より盾が得意だと言うイシリアだ。
他のメンバーも同意らしく、計5対の視線が俺に集まっている。
「俺はまず歩く事、フォーメーションの確認とそれを維持したまま行動する訓練だと指示を受けたつもりだったんだが……。モンスターの群れに突っ込んだ方が良かったか?」
「いや、指示の解釈はそれが妥当だと私も思う。戦闘無くここまでたどり着けたのも僥倖だった。ただ、思っていた以上に歩いたものだから、私はてっきり道に迷ってしまったのかと不安になってしまったんだ」
疑って悪かった、と態度で謝意を示すイシリア。
血の気の多い冒険者なら、ここがモンスターの領域である事を忘れて食って掛かって来ている場面だろう。そう考えると、彼女の態度は中々有り難いものである。
「なるほど、俺の配慮が足りなかったようだ。普段は単独なのでな……。これからも、パーティプレイに慣れていなくて迷惑をかけるかもしれん」
予め大回りすると伝えておけば、そのような不安を彼女に与える事はなかったのだ。これは言い訳の仕様も無く、斥候としての俺の落ち度だった。
話し合いが一段落した所に、リーダーが明るい声で割って入る。
「不慣れという意味ではお互い様だ。そして、お互いの不足を補うのがパーティだ。君は斥候として高い実力を示してくれた。ならば次は私達が、戦闘能力を示す番だろう」
その言葉に、俺はもう1人の斥候に視線を向けた。
彼女の能力は他のメンバー達にとっては既知の情報なのだろうか。或は単純に、優先順位の問題か。
まぁ、リーダーの判断は口を挟まなければならない程変なものでもないので、俺に否はない。むしろ、望む所だ。
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2018/10/02 主人公の内面描写を若干追加。キャラデザ・ストーリーに変更なし
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