1−3 特注武器と懐事情
戦闘の才能があるから戦闘職に身を置くのではなく、欲しい才能があるからレベルを上げやすい戦闘職に身を置く。
戦闘で得た経験による才能の開花は、戦闘に関する才能となりやすい傾向にあるが、絶対ではないらしい。つまり、望みの才能を得られるか妥協できるか、はたまた諦めがつくまで自由を求める彼等彼女等は冒険者として剣をとるのだ。
俺も、少し考え方を改める必要があるかも知れない。
清算を済ませて、俺は魔法薬屋を後にする。
もう少し本格的に戦いに身を置くなら、正直に言って今の装備では心もとない。
だが、武具店で得られる装備品は、俺の筋力ではちょっと使いこなせる自信はない。
非常時用の魔導具か。特注品の装備か。
考えたのは本の数秒の事だ。流石に魔導具は高すぎる。
◇◆◇
同日午後、俺は鍛冶屋に足を運んだ。
駆け出し冒険者の発注を受けてくれる鍛冶屋なんて情報は知らないので、選んだのは直接鉱石を卸した事のある顔なじみの鍛冶屋だ。
いつも通り、強面のにいちゃんが俺の話し相手になってくれた。
「……特注の武器が欲しい?」
正気を疑う様な目と声で、彼は俺の申し出を拒絶した。
「駆け出しが持つ様なもんじゃねぇよ。幾らすると思ってんだ?」
「魔導具よりは現実的だと思うんだが」
俺の言葉に、見習い鍛冶師が声を上げて笑う。笑い過ぎて呼吸困難になる程笑う。
「……幾らなんでも笑い過ぎだと思うが」
「いやおめぇ、魔導具より安けりゃ良いってもんじゃねぇだろう」
なおも笑いを納められない彼の様に、様子が気になったらしく奥から普段は顔を合わせない人物が出て来た。
鍛冶師には珍しい女性だ。いや、俺の偏見なので、もしかしたらそれほど珍しくも無いのかも知れないが、冒険者としての仕事で鍛冶屋に足を運んで女性に対応された事はないから珍しいのではないかと思う。
「どうした?」
短い彼女の問いかけは、見習い鍛冶師の青年に対して余り敬意を払っているとはいえない内容だ。仮に兄弟弟子だとしたら、かなり近い関係にあると予想される。
「いや、こいつが武器を特注したいって言うからよ」
青年の言葉に、彼女は俺を頭の先からつま先まで一瞥した。
「戦士には見えないが。得物は?」
客に対する態度としてどうかとは思うが、よく考えると青年の方も改まった態度を取った事はない。必要以上にへりくだるやり方を、彼等は良しとしていないのかも知れない。
「ナイフだ」
「……ナイフの特注?」
返答に、2人揃って眉を歪める鍛冶師達。
「まるでアサシンだな」
「いや、アサシンなら主武器の作成を他人任せにはしないだろう」
2人揃って中々失敬な態度だが、そんなにおかしな注文だろうか。
「……まぁ、ナイフくらいなら見習いでも打てる。短剣以上の武器と比べれば、費用はかなり抑えられるだろ」
どうやら不快感が顔に出てしまっていたらしい。少し慌てた様な調子の青年の言葉に、俺は表情を和らげるよう意識する。
「幾らになる?」
俺の質問に、青年は少し思案気な顔をして間を置いた。
後ろの女性も同じように見積もりを立てているようだ。
「20万もあれば十分だ」
「打ち手が私で良ければ、10万で受けよう」
安くて10万エル。覚悟していたとはいえ、やはり中々の高級品だ。
ちなみに、安宿の大衆雑魚寝部屋の宿泊賃が50エル。駆け出し冒険者の1日の生活費が100から300エルだと冒険者ギルドで教わったので、印象的にはやはり高いと感じてしまう。
なお、俺の宿泊している中堅宿屋の並グレードの部屋は一泊200エルする。冒険者の視点で見れば贅沢と言えなくも無い。しかしむしろ、1度冒険したら1週間休むとか、打ち上げの酒盛りと大盤振る舞いで利益の殆どを吐き出してしまう様な連中の平時の生活費を基準値にするのは不適格だろうか。
俺が少し思案している間に、見習い鍛冶師同士の睨み合いは終わったらしい。
猶予期間が終わったと判断した俺は、向き直った2人に向けて口を開いた。
「10万か。それで頼む、と言いたい所だが、今は持ち合わせがないな」
俺の言葉に、青年鍛冶師は再び大笑いし、女性は肩を竦めてみせた。
端から見れば俺も計画性のない貧乏冒険者に見えるのだろう。しかも、ナイフ1本大負けに負けてもらってまだ特注できない程の。
悔しいとか情けないとか、思う所がないでもないが、とりあえず俺も彼等にあわせて笑っておいた。
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2018/10/01 誤字修正。文章の接続がおかしかったので加筆修正。ストーリーの変化はありません。
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