2ページ

「でも正直言うとね、昨日よりも今日の方が大変だったんだよね」

「今日、ですか?」

 台風の後片付け、とか? ビルで働いていたらそれほど大変そうなイメージはないけどな。うちは結構大変だったけど。

「だって昨日はうちらの地域が台風の影響を受けただけで、他所はそうじゃないじゃない? だから仕事の量としてはいつもと変わりない訳で」

「なるほど」

「しわ寄せが来た今日の方が仕事としては大変だったよ」

 今日一番のため息をついてクニサキさんがコミカルに悲しそうな顔をする。

 そっか、会社だったらそう言う大変さもあるよね。こんな所にまで天災の影響が来るなんて。

「おかげで今日は残業だよ」

「お疲れ様でございました」

 そう言うと、クニサキさんは小さく笑ってみせた。

「でも、たまにはこういうのもいいかなって」

 しわ寄せで残業するのが?

「だっていつも帰る頃は子供が寝ちゃってるもん」

 子供?

「昨日は帰りが早かったでしょ、だから子供が喜んでさ。嫁には小言言われたけど、風呂の準備もしてくれてて、久しぶりに子供と一緒に入ってさ。遊んでもやれたし、良かったかなって」

「そうだったんですね」

 そっか、家族がいるとそういう事もあるんだな。一人じゃそんなこと、少しも思いつかなかったよ。

「子供の事、いつも嫁に任せっきりだしね。アイツもなんだか嬉しそうだったし。こんな日がたまにはあってもいいかなって。って頻繁にあったらそれはそれで困るんだけどさ」

 ククク、とクニサキさんは続けて笑う。その表情はとても柔らかくて優しくて。

 俺にはまだ当分、出来ないような表情だと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る