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「でも正直言うとね、昨日よりも今日の方が大変だったんだよね」
「今日、ですか?」
台風の後片付け、とか? ビルで働いていたらそれほど大変そうなイメージはないけどな。うちは結構大変だったけど。
「だって昨日はうちらの地域が台風の影響を受けただけで、他所はそうじゃないじゃない? だから仕事の量としてはいつもと変わりない訳で」
「なるほど」
「しわ寄せが来た今日の方が仕事としては大変だったよ」
今日一番のため息をついてクニサキさんがコミカルに悲しそうな顔をする。
そっか、会社だったらそう言う大変さもあるよね。こんな所にまで天災の影響が来るなんて。
「おかげで今日は残業だよ」
「お疲れ様でございました」
そう言うと、クニサキさんは小さく笑ってみせた。
「でも、たまにはこういうのもいいかなって」
しわ寄せで残業するのが?
「だっていつも帰る頃は子供が寝ちゃってるもん」
子供?
「昨日は帰りが早かったでしょ、だから子供が喜んでさ。嫁には小言言われたけど、風呂の準備もしてくれてて、久しぶりに子供と一緒に入ってさ。遊んでもやれたし、良かったかなって」
「そうだったんですね」
そっか、家族がいるとそういう事もあるんだな。一人じゃそんなこと、少しも思いつかなかったよ。
「子供の事、いつも嫁に任せっきりだしね。アイツもなんだか嬉しそうだったし。こんな日がたまにはあってもいいかなって。って頻繁にあったらそれはそれで困るんだけどさ」
ククク、とクニサキさんは続けて笑う。その表情はとても柔らかくて優しくて。
俺にはまだ当分、出来ないような表情だと思った。
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