雨のあと

カゲトモ

1ページ

「昨日の雨が嘘みたいだね」

「そうですね、今日はまた暑くなりましたもんね。それよりも昨日は大丈夫でした? 帰宅の時とか、大変だったんじゃありませんか?」

「あぁそれね」

 そう言ったクニサキさんは「ふぅ」と長く息を吐いて髪を掻き上げた。よっぽど大変だったらしい。

「全身ずぶ濡れで帰ったら嫁にめっちゃキレられたよ」

「そ、そうだったんですか?」

「スーツも皮靴も、鞄までドボドボでさ」

「昨日は本当に豪雨でしたもんね」

 そんな中ずぶ濡れになりながらも仕事をして帰って来たっていうのに、何もそんなに怒らなくてもいいのにね。

「なー、金稼いで帰って来てるって言うのに酷いよなー」

 んーそれは同意。俺だったらちょっと怒るかも知んないもん。

「マスターはどうだったの? あんな台風の中仕事していたの?」

 ロックグラスに入った琥珀色の液体を回しながら国崎さんが言う。ワイシャツを腕まくりした姿はどこか“お父さん”と言う印象を受けた。

「実は少しだけ」

「え、そうなの!? 電車も早い時間に停まっていたのに!?」

「ふふ、実は。でも酷くなる前には閉めましたけどね」

 台風がこっちに来るって分かっていたし、正直来客数も少ないだろうなぁとは思っていたんだよ。でもね、一応開けておこうかなって、一応ね。そのおかげでいい報告が聞けたりもしたんだけど。ま、帰りは俺も同じくずぶ濡れで帰ったよね。

「大変だね」

「それほどでもないです」

 ここは自分の店だしね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る