第二章 疾風の双鳥
第二章 Ⅰ ユニゾニア
01 another sight ????? ????? ?????
おっきなおっきな木の下で、かあさまはすやすやお昼寝中。
『かあさま......』
『......かあさま』
『どうした?リンネ ネルカ?』
この前、焔龍のおばさまが言ってた。
『シェリアが............』
『.........人界に出たって』
『『ほんとう??』』
『らしいね。サラマンデルのところはそうやって人界との繋がりを学ばせているらしい。』
『私たちも......』
『......人界に』
『『行ってみたい。。』』
『......そうか、そうか。アンタ達も人界に興味を持つような齢まで成長したかい。』
かあさまはおっきなおっきな翼を広げて、私たちの前まで飛んでくると優しい声で、柔らかな羽根でほっぺたをくすぐってくれる。
『いいかい。私たち四幻神の血族はこの世界の
いつもお勉強の時間に聞かされてること。もちろん私たちもしっかり覚えている。
『だからそんな人界のことを色々勉強しないと、この[座]につくことは出来ないんだ。それは私の自慢の娘であるアンタ達だって同じことさ。わかるかい?』
『わかる......』
『......わかる』
私たちは揃ってかあさまに向かってお返事をする。いつだって私たちはいっしょ。いつだって私たちは二人で一人。
『机の上でお勉強するだけじゃ、決して学べない大切なこと。それを勉強するためにサラマンデルのところのシェリアは人界に旅に出た。アンタ達もシェリアのように人界で色んなものを見てみたい......ってことでいいのかい?』
『うん......』
『......うん』
『そうかい。......わかった。ただね、
『それが出来たら.........』
『.........私たちも人界に行って』
『『いいの??』』
『そうなるね。ただし、人界の連中は揃いも揃って気のいい連中ばかりじゃない......ってことはしっかりと覚えておくこと。中には悪い連中だっているからね。アンタ達はシェリアに比べたらまだ小さい。知らない
『はーい......』
『......はーい』
お返事をした私たちの頭をかあさまは優しく撫でて、
『よし!それじゃ、お勉強のためのお勉強を始めるとしようか。二人ともついてきな!』
おっきなおっきな翼を広げて、高い高いお空へ飛んでいった。
01 ユニゾニア
「......ところでリート。避妊はちゃんとしてるのかい?」
瞑想で自身の深いところに潜っていた意識が、メイのあまりに突飛な一言により、一気に現実に引き戻される。
「おまっ、いきなり何を?!」
思わず声を出してしまった俺の頭をソファーの上から足蹴にしつつ、言葉を続けるメイ。
「ほーら、駄目じゃないか?しっかり瞑想を続けなきゃ。......それでどうなのさ?」
なんだ、これは。どうしろと言うのだ。返事をしてもおそらく蹴られるだろうし、返事をしなくても蹴られるだろう。それに完全に意識が覚醒してしまって、もう一度潜るには手間が掛かりそうだ。もう、いいや。完全に開き直ってやる。
「......初日はその......勢いまかせに...全部。その後はシェリアの反応次第というか......」
「アッハッハッハッ!いやー、若さってのは怖いね。シェリアが幻神じゃなかったらとっくにオメデタじゃないか!」
うん?なんかコイツの言ってることの辻褄が合わない。つまりどういうことだってばよ?
座禅を組んでる足を崩して後ろにいるメイに向き直る。
「あのー、メイ先生。なんか避妊してもしなくても結果は同じって言ってるように聞こえるんだが......」
「そうだね。リートが果たしてどんなリアクションをとるのか気になって質問しただけなんだけど......ぶっちゃけると人間とこの世界で生きる人間以外の生物との異種間交配の着床率は極めて低いんだよ。」
ニーハイに包まれた足の指を俺の目の前でにぎにぎしながら、メイは言葉を続ける。
「例え生物としての規格が合って、生殖行動が可能であっても子を成せるかどうかは全く別の問題なんだ。ほぼ同じ特徴を持つ人間とエルフの間でも着床の確率は相当低くなる。人間と幻神なら更に確率は低くなるだろうね。......と言っても可能性自体はゼロじゃないから、もしかしたら今日の晩にポコっとヒットして、翌朝にはポコっとシェリアが卵を産んでしまうというのもあり得ない話じゃない。」
「卵生生殖?!」
「......なのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。着床してから子供が産まれるまでに十月十日かもしれないし、10年以上かけて大きくなっていく可能性だってある。とどのつまり、君たちの子作りには"かもしれない"って要素が多分に含まれるんだ。いつどんなタイミングでどんなことが起こるかわからない。その覚悟だけはしっかりしておきなさい、っていう
それだけ一息で言うと、再び俺の頭をグリグリ足でなじる作業に戻るメイ。結局はどんなことがあろうとビビっておたおたするんじゃないぞ......とそういうことか。
「そりゃどーも。」
一応、礼を言って再び瞑想を再開するべく目を閉じる。
「......ところでリート。」
今度はなんだ?!真面目に修行させる気はあるのかコイツは?
「ハイハイ。なんすかね?」
「国外出張って興味あるかな?」
......頬に押し付けられた爪先の先にいるメイの顔にはいつものニヤニヤ笑いが張り付いていた。
・
・
・
・
「......それでリート君はなんて返事をしたの?」
修練場の地盤をガリガリと削りながら、俺に殺到する紫電の槍。総数はざっと、ひぃふぅみい......いっぱいだ。取り敢えず避けれられるものは避けて、叩き落とせるものは焔でコーティングした拳で全部叩き落とす。ようやく
「話を聞く分だと、シェリアの同行が必須になるらしいので俺だけの判断じゃ......っと!」
アンジェ姐さんの指の動きに連動した槍の数本が再度、俺の鳩尾 眉間 両足目掛けて音を置き去りにしながら飛来する。
迎撃 ――― 身体の中央に狙いを定めた二本を直接鷲掴みにして、足に飛んでくる二本にブン投げて相殺。直後、響き渡る轟音と空気が焦げる匂いが鼻をくすぐる。
「シェリアちゃんの同行......っていうのはどういうことかしら?」
「なんでも
意識に隙間を開けないように五感をフルに稼働させ、幻素の揺らぎに気を配る。
「それでシェリアちゃんに乗せてもらって、空路で移動する必要が出てきた。......ということね。」
声も表情も一切変えず、全くのノーモーションで手にした突撃槍をこちらに全力投擲してくるアンジェ姐さん。......非実体戦闘では?!内心、毒づきながらレールガンの要領で打ち出された超音速の槍を迎え撃つ。
「そーゆーこと.........みたいですねッッ!!」
胸部中央まで槍先数センチに迫ったギリギリのタイミングで山肌を穿ちかねない槍の一撃を無理矢理両手で抑え込む。両足の鬼さん達も頑張って俺の身体を地面に縫い付けようとスパイクを形成するが、それでも衝撃に耐えられない足場はボロボロと削れて俺自身の身体もジリジリと後退を始める。
「私としては屋敷から二人がいなくなるのはとても寂しいのだけれど、すぐ帰ってこられるのかしら?」
10メートルはあった彼我の距離を一瞬でゼロにまで縮めたアンジェ姐さんの声が耳元をくすぐる。......あっ、ヤバいかも。
「......大体、一週間くらいなんでッ!」
槍先を掴んでいた右掌を無理矢理槍の底面に持っていって、軌道を反らせるべく掌底で打ち上げる。総身にのし掛かる衝撃と紫電は気にしない方向で!
「そんなに寂しがることはっ!」
―――― 狙いはこめかみかよ、間に合わせるッ!
「ないですってッッッ!!!」
頭に浮かんだビジョン通りの軌道で鞭の様に風を切り裂きながら襲い来るアンジェ姐さんの蹴り。踵に焔を瞬時に纏わせて、その加速をフルに乗せた脚をそのまま蹴り上げる!
キィッと乾いた音と共に、互いの脚が頭上で交差してその衝撃を殺しきれなかった地面にクレーターが二つ出来上がる。俺達二人を中心に巻き起こる砂塵の嵐。あーあ、またメイに怒られちまうな......
「ハイ、お疲れ様。85点ってところかしら。昼食前の運動はこれくらいにしておきましょうか。」
重力に引かれてこちらに戻ってきた槍をノールックで手元に戻したアンジェ姐さんはこちらの肩をポンと叩きながら、いつもと変わらない調子で微笑みかけた。
「はい。ありがとうございました!お疲れ様っす。」
額に浮き出た汗を拭って、息をついて空を見上げる。うん。今日もいい天気だ。晴れ渡る空に浮かぶ白い雲。その合間を縫うように二羽の鳥が西の空へと飛んでいく。
でっかい鳥だなー。......って、なんかデカ過ぎじゃないか......アレ。
「リートー!アンジェおねーちゃーん!お稽古お疲れ様ー。お昼ご飯一緒に食べよー!!」
屋敷で弁当でも作ってきたのだろうか?巨大なバスケットを両手で装備したシェリアがこちらに駆けてくる姿が見える。それを見るなり槍を放って、全速力でシェリアに向かっていくアンジェ姐さんは
「ありがとう、シェリアちゃん。重かったでしょ?大丈夫?お手手痛くしていないかしら?」
シェリアの手をさすり声を掛けながら、ランチの入ったバスケットを肩代わりする。いかん、俺の仕事がなくなってしまう。急いで二人の元に足を向ける。
「ありがとな、シェリア。......もしかしてこのランチお前が作ってくれたのか?」
「えへへー。アンジェおねーちゃーんに教えてもらったサンドイッチを頑張って作ってみたの!やっぱりみんなでご飯食べた方がおいしーもん!見て見て!!」
言いながら俺とアンジェ姐さんの腕をとって、修練場そばのベンチに腰を落ち着けるシェリア。その横に置かれたバスケットから漂ってくる芳ばしいパンの香り。
「どれどれ......」
「んふー、自信作なのです!食べて食べて!」
「シェリアちゃんは本当に料理が上手になったわね。お姉ちゃんとしても鼻が高いわ。」
「今日はね、グロ爺のところで出来たてのパンを貰ってきてね。そのまま厨房を借りて具をいっぱい挟んできたの!ベーコンでしょ、トマトでしょ、あとね玉子とレタスも!」
開けられたバスケットの中から、微かに湯気を立ち上らせるバゲットサンドが細長いシルエットを露にする。......これは一人一本って感じだな。最近は力のせいか、やたらと腹が減るからこれくらいならば全然食べられる。
ふわりとそよ風に乗ったパンの匂いが食欲を刺激する。やべ、涎出て来ちゃったよ。
『ねぇ......』
『......シェリア』
『私たちも......』
『......それ食べて』
『『みたい。。』』
突然、脳内に少女......というかもっと幼い感じの声が響く。シェリアもそれを感じたのか、俺とほぼ同時に蒼天に眼を向けた。
太陽を中心にくるくると回る二羽の鳥の影。......さっき見かけたあの鳥か?......そうだ、野鳥にしてはあの影の大きさは縮尺がいささか不自然だ。もっと巨大な何かが......
「あーーっっ!その声!!もしかして!?」
二つの影を見上げたシェリアが出し抜けに大きな声を上げる。
『へん...』
『...しん』
『とうっ。。』
再度、脳内に届く二つの声。その瞬間......
太陽を中心に輝く二つの光。瞳に焼き付いた鳥の影がそのかたちを変えながら徐々にこちらに近付いてくる。......あぁ、この先の展開には覚えがあるぞぅ。
『おなかが......』
『......へった』
『『食べさせて。。』』
逆光をその身に浴びて、
親方......空からすっぱだかの幼女が......
果たして地上に立った幼女二人は互いの胸をピタリと合わせ手を握り合って目の前のシェリアに向き直り、
「ひさしぶり......」
「......シェリア」
「「会いたかった。。」」
風鈴の音を思わせる透き通った声を、地上に響かせた。
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