第一章 エピローグ Ⅱ ハートビート ハートブレイク
EX 02 ハートビート ハートブレイク
(おいおい、メイ本部長の前鬼相手に互角以上って......ウラシマのヤツいよいよ化け物染みてきてないか?)
(あれで
(もう完全に
リート君が前鬼ちゃんと手合わせを初めてから、すでに一時間。そろそろ趣向を変えてみようかしら......そう、これはあくまでリート君を思ってのこと。
あの子の額に僅かに滲む血や汗に、少し、えぇほんの少しだけ我慢出来なくなってしまったとかそういうことでは決して無いの。......だからね、
「リート君、そろそろ身体は暖まってきたかしたら?ここから先は私と前鬼ちゃんの二人を同時に相手にしてもらいます。拒否も反論も許しません。」
目の前に迫る前鬼ちゃんの金棒を片手でさばきながら、こちらに目を向けるリート君。
「アンジェ姐さん!そりゃ、いくらなんでもスパルタ過ぎませんかね?!」
「言ったでしょう?拒否も反論も許しません。大丈夫、お姉ちゃんも全力は出しません。この前みたいなことにはならないから安心して。........................たぶん。」
「語尾にさらっとたぶんとかつけないで!!」
こちらと会話をしているものの、しっかりと目の前の前鬼ちゃんへの意識は途切れさせていない。やっぱり可愛い子。本当に鍛え甲斐があるわね。それに、シェリアちゃんと一夜を共にしてから、リート君の動きも格段によくなってきてる。......迷いが無くなった拳、体さばき。まだまだこの子は伸びる。......なら行き着くところまで鍛えてあげる。
「......さあて、行くわよ。リート君。お姉ちゃんをがっかりさせないでね。」
しっかりと槍の柄を握りしめて、土煙の舞う修練場の中心に一息で移動。私の参戦の意図を感じ取った前鬼ちゃんが、リート君を中心にして挟み込むような位置取りをした上で大上段から、両手で構えた金棒を振り下ろす。私もそれに合わせて地面スレスレのところから、あの子の膝に狙いを定めて勢いそのままに刺突を見舞う。その二つの衝撃が修練場の地盤を揺るがし、砂塵を噴き上げる。
......けれど、
「......いや、マジで死ぬかと思いましたよ。流石にアンジェ姐さんと前鬼の二人がかりってのはやり過ぎな気が......」
「あらあら。平然と私達の一撃を止めておいて、口にする台詞がそれ?」
「............!」
前鬼ちゃんも少しだけ怒ったのかしら。一度静止した力の均衡を崩そうと、大気中の
メイちゃん曰く、[
肌の色が赤銅色に変化して、前髪の間から覗いていた一本角が倍ほどの大きさに膨れ上がる。綺麗に手入れをされた爪が音を立てながら厚く鋭く形を変えて、彼女の片眼に鬼火が灯る。
さぁ、ここからどう立ち回るの?リート君。
「おや、差し入れを持ってきたと思えばまた随分面白いことになってるね。まさか、前鬼が[弐の装]まで使うなんて。これも君たちの影響かな?」
......いつもこういうタイミングになるとメイちゃんは決まってやってくるわね。ここから先がいいところなのに。
「まぁ、そうイヤそうな顔しないでよ。アンジェリカ。そろそろお昼だし一回くらい休憩してもバチは当たらないんじゃないかな?」
メイちゃんは修練場に満ちた三人分の闘気など、意に介さず組み合ったままの私達の前までやってくる。
「どうしたのかしら、メイちゃん。珍しいわね、こっちに顔を出すなんて。」
「いや、君たち......というか前鬼の様子が気になってね。ちょっとした親心かな?...それともう一つ用件はあるんだけどね。」
メイちゃんの登場ですっかり毒気を抜かれてしまった私達はそれぞれの得物をしまい、目の前のメイちゃんの様子を伺う。
「さっき皇女殿下からの使者がやって来てね。」
「クレスからの使者?......なんだろ、パンツ一枚でからかったのがお偉いさんにバレちまったのかな?」
「......そこにいるバカ弟子のしでかした事についてはおとがめ無しなんだけど、今回の皇女殿下の護衛任務の功績を讃えるための叙勲式典を明後日執り行うことになってね。アンジェリカとリートにそのことを伝えに来たんだよ。」
「あらあら。私達だけってことはないわよね?」
「あぁ、まだん君の身柄を直接確保したルネッサは当然として、保護している間、何かと皇女殿下の世話を焼いてくれたセレナも同行させるつもりなんだけど......。ルネッサとセレナは今何処にいるんだい?」
「その二人ならもうじき帰ってくると思うわ。実戦経験の乏しいセレナちゃんの指導役としてルネッサがマンツーマンで先生をやっているのよ。リート君の時もそうしていたから。」
「へぇ、中々面白い組み合わせだね。少し興味があるかも...」
「なら、ここでお昼でも食べながら二人が帰ってくるのを待っていましょうか?」
「そうだね。こんなに天気のいい日だ。たまには外で食べるのも悪くないかもしれない。」
そう言って眩しそうに空を見上げるメイちゃん。そのスカートの裾が少し強めの風に煽られてふわりとめくれ上がる。
「.........メイちゃん。下着は?」
「あぁ、苦手なんだ。下着。」
恥じらうこと無く、そう言い切ったメイちゃんの綺麗な黒髪が陽光を浴びてキラキラ光る。......式典に行く前にメイちゃんの下着も選んであげなくちゃ。そう心に決めてメイちゃんから手渡された飲料水で私は喉を潤した。
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