第54話 一族の援軍
By: Sakura-shougen(サクラ近衛将監)
エディが到着したのは、その日の夕刻のことである。
エディことエドガルド曽祖父は、一個大隊を引き連れてやってきたのである。
ギルバートも驚いたのだが、それよりもカサンドラとヘルメスそれにリディアがもっと驚いたに違いない。
男女とも十代後半から50歳前後まで実にさまざまだが、実に500人を超える陣容でしかも全員が剣を携えていた。
その援軍の中に、シュルツとレイノルズもいたのである。
以前見たものとはけた違いに小さな機械を携えていた。
500人を超える異邦の集団は、ベリデロンでも一番大きな目抜き通りの広場を占拠した。
そうして全員がリンクを張って会議を開いたのである。
思念での会議は極めて効率が良いのだが、皆が勝手に話しだすと収拾がつかなくなる。
その場はエディが取り仕切った。
最初に襲撃を受けたヘルメスとカサンドラの受けた印象が思念で送られ、次に三人の子供たちの印象も送られた。
リディアは何も知らない状態であるので外されたが、ファルスロットの子供三人は証言を求められた。
そうして最後に、ギルバートの思念が送られた。
関連する情報が他の異世界で無かったか情報を募ったが、その場に集った全員から無いと明確な返事があった。
そうしてシュルツから、あくまで推測としながら、異界の怪物は、恐らくギルバートの持つ超能力を抑止する力と類似する力を持っているであろうこと、更には、超能力者を見分ける力を持っているであろうこと、また、その力がテレキネシスとは異なる何らかの力を生み出し、人の動きを極端に制限するものであること、一人よりも二人、二人よりも三人と協力し合うと威力を発揮するものであることを付け加えた。
その後で、ギルバートから各自に魔法の教授がなされた。
仮に超能力が使えなくとも魔法は効果があったからである。
但し、狙いが相手の能力の性で剃れる可能性があるので十分注意して使うようにと皆には付け加えた。
魔法の教授はテレパスの能力により一瞬で終えた。
一緒にリンクしているアダーニ夫婦とリディアそれに子供たちは目を丸くして驚いている。
それから、逃げた一匹のシュプールを追って、異次元世界の門を開いたのである。
試行錯誤の結果、遂に門は開いた。
だが、テレポートができない。
向うに何匹の怪物が居るのか不明ではあるが、どうやら結界に似た領域では超能力が及ばないらしい。
シュルツとレイノルズは、少し大きめのペンダントを全員に配り始めた。
このペンダントを機能させている限り、相手の超能力抑止の能力は無効にされるか若しくは著しく弱まる筈だと説明した。
全員に行き渡ると、今度はリンクしたまま魔法の力で、異次元界の探索を始めた。
テレポートはできずとも魔法の力で、異世界の様子をうかがうことはできた。
リンクしながらの探索であったので極めて早い。
異様な世界である。
そこは閉鎖空間であった。
重力はやや大きく、ヘイブン世界の1.2倍ほどもあるだろう。
地面はほぼ平らであるが幾分の凹凸はある。
空は真っ黒で星も無いのであるが、地面が燐光を帯びて明るく、夕暮れ時ほどの明るさがある。
ところどころに強い光を発する場所があり、その周囲には気味の悪い色合いの植物が密生している。
太陽光の様に紫外線から赤外線までの幅広いスペクトルを発しているのである。
川のような物はないが、中央に大きな湖のような水溜りがあり、その中央に熱源があって水蒸気が上がっている。
そのために大気は還流し、閉鎖空間の端で冷やされて雨となって地上に降っている。
低い部分は川と言うよりは、小さな流れの集まりである。
この世界には川ができるほどの領域が無いのである。
そんな中にも多種多様の生物は存在した。
そうしてその支配的生物がペリデロンを襲撃して来た怪物である。
彼らは、この異次元界の中でいくつかの部族にわかれて覇権を争っているが、固体総数は1万ほどである。
そのうちの勢力の強い一種族がヘイブン世界に侵攻したことが判った。
彼らの部族は総数で四千体ほど、対立する部族で二千が二つ、残りは千にも満たない弱小部族である。
何故、三体で異次元を超えたか理由は判っていない。
或いは初めての探検部隊であったかもしれない。
だが、種族の一部にしろ異次元を超えることができた以上、他の個体もできるかもしれないのだ。
特に、エディの一族と同様に高いテレパス能力を持っていれば彼らは瞬時にその知識を得ることができる。
更にはヘイブンとは異なる別次元に送り込まれた個体も存在する可能性も否定できない。
いずれにせよ、早い段階で措置を講じなければ手遅れになる可能性もあるのだ。
エディは決断した。
最初にエディと、ダイアナ、それにギルバートの三人が向うの世界に行って個体を捕まえ、彼らが何を画策しているのかを確認する。
その上で必要とあれば、種族を根絶やしにするしかない。
その場合は、待機している全員が出動するのである。
三人が先行するのは一族の中で最も超能力に長けているからにほかならない。
ギルバートを含む三人は目標を定めて、魔法を発動した。
デュスランは支障なく、異次元界へ三人を送り届けた。
既に超能力抑止装置は作動させている。
だが、三人の周囲凡そ二十エニルほどまでしか効果がない。
試しにテレキネシスで石を動かしたが、その境界で地面に落ちた。
従って他の能力も二十エニルが限界であろう。
その情報はヘイブン世界で待つ者たちに伝えられた。
その上で支配的部族の一員で他から離れている個体を探し当てた。
その三方に配置しテレキネシスで相手を動けなくさせてから、思考を読んだ。
やはり彼らはテレパス能力を持っていた。
彼らは、既に七つの異次元界へ斥候を送り込んでいる。
そのいずれでも、斥候は無事に戻り、異世界の様相を詳細に伝えていた。
だが八つ目で二匹が殺され、一匹は逃げ戻ったが、異世界の様子を伝えるに情報が乏しかった。
何しろ出現した場所が建物の中であり、斥候三体はその場で強者である超能力者の存在を嗅ぎ取ったので暴れまくったのである。
彼らにとって超能力者は、覇権を争っている他の種族と同義語なのである。
殺らなければ殺られる。
それがこの世界に生まれおちて以来の習性である。
だが驚くべきことに超能力とは別の力で押し返された。
カサンドラとアドニス師であった。
アドニスの弟子たちはその場にいなかった。
二人の繰り出す魔法が、ギルバートが駈けつけるまで何とか伯爵の一族を守ったのである。
それもしかしながら限界に近かった。
呪文を唱えることができなければ魔法はできない。
周囲の気を集めること自体がやや遮られていたのでどうしても発動が遅くなるのである。
ギルバートのように完全な結界域を持っていれば、彼らの力も封じ込められたに違いない。
だが、彼らの力はギルバートのそれに似て非なるものであった。
超能力を抑止しながら、なおかつ時間流を遅くする異能力である。
時間の遅れは極めて些細なものであるが、思念は別の流れにあるので、自らの動きが鈍くなり、なおかつ粘つくような感覚が張り付くのである。
彼らの種族モンディはこの世界の覇者になりつつあった。
そうしてその族長は更なる覇権を求めて、異次元を探していたようである。
未だ大規模な移住を行っていないのは、これまでの七つの世界が、彼らの望む世界では無かったからである。
彼らの闘争心を満足するような世界でなければ彼らを駆り立てる衝動が起きないのである。
三人の内二人までもが倒された世界こそ、彼らが願った修羅場である。
族長はそのために今出撃の準備を行っているところである。
今度は百人規模で戦士を送り込むつもりである。
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