第53話 新たなる脅威

            By: Sakura-shougen(サクラ近衛将監)


 ギルバートとリディアの間には三人の子がいる。

 長子のフレデリック8歳、長女で第二子のハイディ6歳、二男で第三子のラングストン4歳である。


 そうして、ヘルメスとカサンドラの間にも三人の子がいた。

 長子のアルベルト7歳、二男で第二子のケヴィン5歳、長女で第三子のビエラ3歳である。


 この6人の子はいずれも超能力を有する魔法師であるのだが、その事実は親とそれぞれの家に手伝いで入っている女神の子しか知らぬことである。

 ファルスロット家にはメラニーが、アダーニ家にはエリカが養育掛かりとして収まっている。


 6人の子たちは仲が良い。

 時折互いの家を訪ねる時には子たちも連れて行くが朝から晩まで6人の子が遊んでいる。

 幼いラングストンとビエラでさえも馬車で半日ほどかかるベリデロンとウェルブールの距離を難なくテレパスで話ができるから、いつでも兄妹同然で会話をしているのである。


 その日、フレデリックがギルバートのもとへテレパスで緊急事態を告げた。

 アダーニの三兄弟と急にテレパスの連絡が切れたと言うのである。

 それも、話をしている間に途切れたと言うのである。


 ギルバートは急いでヘルメスとカサンドラに連絡を取ろうとして取れなかった。

 さらに驚くべきはベリデロンにテレポートしようとして、できなかったのである。

 何かの結界が邪魔をしている。


 ギルバートは、メラニーにエディやダイアナに連絡するよう告げて、久しぶりに転移魔法であるデュスランを試した。

 デュスランによる移動はできたのである。

 ギルバートが出現したのは、ベリデロンの謁見の間である。


 修羅場であった。

 多くの兵士が血を流して倒れており、王座にはデメトリオス、その脇にイスメラルダがおり、その前でヘルメスとカサンドラが大勢の兵士に混じって、剣を抜いて異形の者と戦っている。


 周囲に武器を構えた兵士がいるのだが、兵士は無論のことヘルメスやカサンドラですら普段の剣の冴えがない。

 まるで何かに縛られているように身体の動きが緩慢なのである。

 異形の者は3体いた。


 身長は高くヘルメスよりも2ニルほども高いであろう。

 手足が長く、異様に発達した筋肉をもち、頭部が以上に長い。

 さらに額が張り出している上に後頭部がヘルメットの様に背後にせり出して頸部に垂れさがるような形状をしている。


 その怪物のような異形の者が反りの大きな半月刀を振り回して兵士たちを切り倒しているのである。

 兵士の持つ長い槍も役には立ってはいない。

 素早い動きで槍をかわし、超人的な跳躍力で高所から攻撃するのである。


 ギルバートも姿を現した途端に異様な力に捕われた。

 腕や足に何かが絡みつくような感覚で動きを妨げるのである。

 テレキネシスを使おうとしてできなかった。


 一体がギルバートを襲ってきた凄まじい太刀筋である。

 抜身の剣でかろうじて受け流した。


 カサンドラが叫んだ。

 「 ギルバート様、力は使えない。

   魔法ならば使えます。

   でも、呪文を唱える暇がないのです。」


 悲痛な叫び声である。

 ギルバートは、瞬時に魔法で炎を呼び出し、三体に投げつけた。

 三体の内、一体がまともに受けて炎に包まれ、暫し荒れ狂って、目が見えないのか傍にいた同じ仲間に斬りつけた。

 一体はかろうじて炎を避けたが、一体は仲間の半月刀で胴体を半ばまで斬りつけられ、その場に転がった。

 その途端にギルバートは、身体を縛る異様な力が弱まったのを感じ取っていた。


 炎に包まれた怪物が床に崩れ落ちていた。

 ヘルメスが盛り返し、すぐに異形の怪物目がけて鋭い切り込みを掛けたが、残る一体は俊敏に動いてこれをかわし、そうして瞬時に消えた。


 ギルバートはその際に相手が次元を超えたことを知った。

 しかも、一族が異世界に旅立つ際に使う方法とは異なる次元移転である。

 一族が使う異世界への移転は並行世界への移動である。


 だが、異形の怪物が用いたのは全く異なる方法であった。

 ギルバートはその移動方法が判ったと思った。

 だが、今は無暗に追いかけるべきではない。

 カサンドラが腕に浅い傷を負っていたし、ヘルメスもあちらこちらにかすり傷を受けている。


 三人の幼子達はデメトリオスとイスメラルダがかばっており、無事だった。

 謁見の間にはそれでも多くの死傷者が倒れていた。

 ギルバートはすぐに息のある者達の治療を始めた。

 この際、ギルバートの力が人に知られても仕方がない。


 何しろ大勢の兵士がいる目の前に忽然と出現し、高熱を発する炎を出現させたのだ。

 今さら隠しても仕方がないのである。

 最後にカサンドラの腕の治療を施して、後始末を終えた。

 床には異形の怪物二体と二十名を超える兵士たちの遺骸が残された。


 怪物の一体は酷く焼け焦げて炭化している。

 元の顔かたちが判らないほどである。

 もう一体は、紫色の液体を大量に流していた。

 この紫色の液体が彼らの血液なのであろう。


 「 一体何があった?」

 ギルバートが尋ねるとヘルメスが答えた。


 「 わからん。

   ラシャ大陸の使節が帰路の途中で父上に挨拶に見えていた。

   その応対をしている最中に突然この怪物が現れた。

   大使は、真っ先にその怪物に殺されたよ。

   使節で生き残ったのは夫人と従者一人だけだ。

   ギルバートの来るのがもう少し遅かったなら、生きている者は居なかったかも

  しれない。

   お前さんが現れた途端に呪縛が少し弱まったからな。

   そうして二匹が倒れたら、本当に呪縛が半減した。」


 「 そうか・・。

   ン・・・。」


 ギルバートにエディから連絡が入った。

 瞬時にギルバートはこれまでわかっていることをエディに知らせた。

 エディは、「 判った。準備を整えてからそちらに行く。」とだけ伝えて来た。


 異常な現象ではあるが、見知らぬ異生物がこの世界に攻撃を仕掛けてきたことだけは確かである。

 何故、ベリデロンを攻撃したのかはわからない。


 だが、あの場面では伯爵よりもヘルメスとカサンドラを狙っていたような気がした。

 それにあの粘りつくような異様な力は何だろうと思った。


 或いは、ギルバートが超能力に覚醒する以前に周囲に発していた超能力を抑える力かもしれない。

 テレポートもテレパスも遮断する力となればそれしかギルバートは思いつかなかった。

 ギルバートが超能力を覚醒してからはその力は意図的に発現していない。

 ヘルメスもカサンドラもギルバートのすぐ近くで力を使えるからである。

或いはあの力が必要かもしれない。


 先程は意識していなかったので発動していないのだが、ギルバートはその力が調整できるようになっていた。

 但し、発動するとその分超能力の力が弱まることになる。

 以前サンファンに出向いた時は、超能力半分、抑制する力を半分で周囲に群がる兵士たちの攻撃や魔法を抑止したのである。


 或いはあの方法がいいのかもしれない。

 仮に粘りつくような何かの力があの怪物の発する超能力であるならば、逆に抑止力でそれを抑え込めるかもしれないのである。

 但し、それを試す時は命がけの場面になることだろう。

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