第49話 侵攻前
By: Sakura-shougen(サクラ近衛将監)
ヘルメスとギルバートは用意周到であった。
詳細な絵図面を広げ、クラシオンとハトラの上陸地点の防御策、更にネザールの第一城塞の内側及び第一城塞と第二城塞の間にあるトンネルの防御策を説明した。
二人はその日エルムハインツ殿下の館に泊まり、翌日ロルム国王や第一王子更には重臣の居る前で詳細な説明を行った。
これに呼応して既に貫通していると言う第一城塞と第二城塞の間にあるトンネルの入り口付近を隠密裏に調査させたところ。
確かに、トンネルらしきものが巧妙に隠されているとの事実を掴んだのである。
しかも、怪しい見張りが付いていることまで確認できたと言う。
ヘルメスとギルバートの持ち込んだ情報の信憑性が一挙に高まった。
さらに情報の確度を高めるために、交易船にシャガンドの軍港の様子を聞いたがこちらは確たる情報が得られなかった。
但し、海軍工廠での情報秘匿が従来よりも格段に高くなり、ロルム王国の船は元より、シャガンド王国の商船ですら中々に近づけなくなったという情報は得られた。
シャガンド海軍が何事かを秘している間接的な証拠と言えよう。
2週間後、最終的にヘルメスとギルバートの策は取り入れられ、ロルム王国内でも秘事が始まった。
最初にシャガンド出身の商人十四名が国外退去を言い渡された。
しかも期限は3週間以内であり、最も遠いベリデロンの商人二人は期限内に陸路での退去は難しく、海路でシャガンドかその他の国へと移るしかなかった。
その一人、デルジャニは通告されたその夜海軍工廠に忍び込んで捕えられ、そのまま身一つでロルム商船の一室に押し込められ、シャガンド国へ送還された。
海軍工廠に侵入したこと自体重大な罪であり、その場で死刑に処されても文句は言えないところであったが、罪一等を減じられて即時退去で済んだのである。
デルジャニは、一連の出来事をマレウスに報告したが、他にも十三名の商人が国外退去の措置を受けたと聞いてマレウスは一応安心した。
マレウスは、それよりもデルジャニが余計なことをしたことの方が気がかりであった。
海軍工廠はいずこの国でも秘密扱いであり警備は厳重である。
マレウスが期待したのは傍から見える情報で良かったのであり、功を焦ったデルジャニの動きは計画自体を危うくする可能性すら有ったのである。
マレウスはロルム王国がこちらの計画について何も知らないと推定していたが、総勢十四名に及ぶ国外退去者にマレウスが送り込んだ三名全てが含まれていたことが唯一気がかりではあったのである。
そうして3週間前になるとマレウスばかりではなく、シャガンド王国の全ての間諜組織からの連絡が途絶えた。
何かがロルム王国内で起きているようだが、それを探るには遅すぎた。
ウィグレス渓谷にしろ、カドラ往還にしろ、今から新たに間諜を送り込んでもサルメドスまで往復一カ月は掛かってしまう。
逆に新たな動きをすることで計画が漏れることを心配した。
2週間前からならば、仮に間諜組織が居ても通報させる手立てはないはずである。
少なくともシャガンドにマレウスの知っている魔法師は入りこんでいない。
居るとすれば魔法師では無い普通の間諜である。
2週間前には海路、陸路ともロルム王国からの入域は認めるが出域は全て差し止められる手筈になっている。
海路の軍勢10万と、陸路の軍勢10万はいずれも計画開始の2週間前から移動を始めるのである。
マレウスも陸路の軍勢と同行する手筈になっていた。
海路の上陸軍は余裕を持って、作戦決行日の7日前にフェリアル軍港を出航する。
作戦決行日の5日前には、陸路軍十万がシャガンド側第二城塞に集結し、作戦決行日から三日後にトンネル内に入りこむ手筈である。
三日は微妙な時期であるが、翌日にはロルム軍は南部戦線に掛かりきりになって全ての注意が南を向いているはずである。
従って、大軍が岩で隠されたトンネル入り口から外へ出るのは4日目になる。
軍勢はトンネル内で一夜を明かすことになるだろう。
トンネルは比較的大きく、騎馬兵士が乗ったままで通れるし、馬車も通れる幅があった。
床面の舗装まではしていないが、行軍に支障はないと言う報告を受けている。
マレウスは馬車で移動する予定である。
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