第38話 リディアとカサンドラ
By: Sakura-shougen(サクラ近衛将監)
ギルバート、リディア、カサンドラの三人が現れたのはエルトリアの西端であった。
付近に人家は無く、草原で野宿をすることになったのである。
カサンドラはそこで初めてリディアと名乗り合った。
リディアが北の大陸であるシェラの西方の国の一領主の娘であることを知ったのはその時である。
そうして、ギルバートが一国の王ではなく、リディアの警護役であることを知って驚いた。
デュスランを使う大魔法師とばかり思っていたからである。
カサンドラにデュスランは使えない。
それにデュスランで供の者まで一緒に移動できるなど文献にも載っていなかったから、余程の大魔法師に違いないと思っていたのである。
人ばかりでなく、馬も荷馬車もそっくりと移動できるようなデュスランを使えるほどであるから、あれほどの兵士と魔法師が束になっても抵抗できないとばかり思っていた。
そうして、カサンドラが目にしたこと聞いたことは誰にも話してはならないと約束させられた。
何故、ベリデロンに戻らないのかと聞くと、ギルバートは笑いながら言った。
「 ここが夕暮れ時と言うことは、ベリデロンはもう夜になっている。
夜に旅をするわけには行かないからね。」
「 え、あの、・・・。
ベリデロンとここでは時が違うのですか?」
「 ああ、さっきクロボスでは午後も半ばだった筈。
でも、ここでは今夕暮れだ。
ならば更に西にあるベリデロンは夜だよ。」
わけがわからなくてカサンドラは聞いた。
「 何故、そんなことが起きるのですか。」
「 あのね、この大地は平たい土地じゃない。
空に掛かるお月様の様に丸いんだ。
ただ、地上に居ればものすごく大きいから平らに見えてしまう。」
「 でも、でも・・・。
大地が丸ければ反対にいる人は落ちてしまうじゃないですか。」
「 うん、大地は物を引きつける力を持っている。
だからその上にいる物は何でも平らな大地に対して垂直に立つことになるん
だ。
だから反対側にいる人でも下に落ちることにならない。
但し、カサンドラの頭の中で考えている下であって、実際に丸い大地の上にい
る人にとってはいつでも大地が下にある。
そうして大地に光を照らすお陽様は、同じ位置にいるから反対側では間もなく
朝を迎えることになる。」
ギルバートは地面に木片で図を描き、丁寧に説明をしてくれた。
いずれにせよいきなり説明を受けても理解しがたいことは確かであった。
東から昇って西に沈む太陽は、目に見えない馬車に載せられて天空を駆け巡っているとばかり思っていたのに、何も無いところに太陽が浮かんでおり、その周囲を丸い大地が回っているなんて信じられるはずも無かった。
但し、その回転運動のお陰で四季が巡ってくると言う理屈は不思議に納得できたのである。
夕闇が迫る頃、草地に敷物を広げて三人は横になった。
カサンドラとリディアは隣り合って、ギルバートは少し離れた場所にいた。
カサンドラは気になっていることを聞いてみた。
「 リディア様、ギルバート様とリディア様の関係はどうなのですか。
単なる主従関係とは違うように思うのですが・・・。」
リディアはカサンドラに顔を向けるように横になった。
「 気になる?
正直に言っておくわね。
ギルバートは、私の大好きな殿方。
できれば妻にして欲しいと思っている。
でも、私が18歳になるまでは待たなければならないの。」
「 そのことはギルバート様も御存じなのですか?」
「 ええ、彼も知っているわ。
私が18歳になった時、お互いに慕い合う間柄ならば、彼か私が結婚を申し込
むことになるでしょうね。」
「 ふーん、やっぱり、そういう仲なのですね。
ちょっとがっかり。
でも、お二人が結ばれるように祈っています。」
「 あ、と言うことは、カサンドラもギルバートが好きなんだ。」
「 え、・・・。
好きと言うか・・・。
とても素敵な人ですね。
そんなに知っている方じゃないのに、何故か信用がおけるお人だって思ってい
ます。
そうして、リディア様も同じく信用のおける人だって。
あ、予め申し上げておきますけれど、私を恋敵として見る必要は有りません
よ。
だって、リディア様とてもお綺麗だし。
それに私、一族に特有の病気で、余り長く生きられませんから。
多分、早くて2年、持って4年かな。
今のところ重い症状は出ていませんけれど、症状が出始めたら早いか
ら・・・。
私の親友は症状が出始めてから半年しか持ちませんでした。
だから、御側に仕えるのもいつまでできるか判りません。」
「 うん、貴方の病気のことはギルバートから聞いて知っている。
でも、ギルバートが貴方をサンファンから連れだしたのは理由があるわ。
ベリデロンに着いたら、貴方の病気を治す手配をするみたいよ。
だから、きっとあなたは長生きできるわ。」
「 え・・。
じゃぁ、もしや、ギルバート様は伝説の黒魔法で闇の力を引き出した御方なん
ですか?」
「 ううん、違うわよ。
サンファンではそんな作り話が伝説になっているのね。
あのね、多分関連する全ての文書は無くなっているはずだけれど、仮にそれが
残っていたにしても、貴方の病気は黒魔法では治らない。
黒魔法ができるとしても、魔界の卷族を呼びだすことができるだけ、魔界の卷
族は自分よりも力なき者には従わない。
能力なき者が何かの間違いで呼び出してしまえば、呼び出された瞬間に相手を
殺して魔界へ戻ってしまうでしょうね。
そうして仮に力があるものであれば、そのものの指示で動く従僕にはなるでし
ょうけれど、貴方の病気を治すようなことはしない。
魔界の卷族は、性質が粗暴で残虐らしいわ。
この世界に引きとどめられる代わりに血の代償を要求することになる。
仮に主となったら、定期的に生贄を差し出さなければならないでしょうね。
羊や牛などの家畜じゃ彼らは満足しない。
人の血を啜り、肉を食らう悪鬼なのよ。
だから、これまで魔界の卷族を召喚できたものはいないはずよ。
仮に居れば、その主は死んでも従僕は永遠に近い命を持っているから、この世
界で大いなる災危が襲うことになる。
でも、そんな話は聞いたことが無い。
だから、伝説の黒魔法なんて無いのよ。
それと、・・・。
カサンドラ、貴方は綺麗よ。
だから、正直言って、貴方がギルバートの身近にいるとちょっと心配。
ギルバートを取られちゃうかもしれないから。」
「 あの、そんなことありません。
仮に、ギルバート様が助けて下さって、私が長生きできるにしても、私は別の
殿方を見つけますから、心配なさらないでください。
恋のできる殿方に巡り合う。
そんなことが夢見ることができたら本当にいいなと思っています。」
「 うん、きっと夢じゃなくなるはずよ。
さぁ、もう寝ましょう。
明日は明け方には出発よ。
ベリデロンには夕刻までにはつけるはず。」
「 はい、ありがとうございました。
御休みなさい。」
「 お休みなさい。」
二人はお休みの挨拶を言って目を閉じた。
カサンドラは一つ年上のリディアと知り合えたことが嬉しかった。
リディアとは仲の良い友達になれそうと予感していた。
それに、リディアの言っていたようにもし病気が治れば、色々とやってみたいこともあった。
恋もその一つだし、勉強もである。
この二人のカップルの傍にいればその両方が叶うのではと淡い予感も有ったのである。
幸せな気分でカサンドラは眠りに着いた。
澄み切った満天の星空が野営の草原を包んでいた。
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