第22話 覚醒
By: Sakura-shougen(サクラ近衛将監)
シュルツが言った。
「 実験終了。
中和装置は一応機能しているようだ。
ギルバートの近くでも超能力が使えたからね。
エディ、それにダイアナ大伯母さん、次はお二人の出番です。
中和装置は作動したままです。
今なら、僕等にもギルバートのオーラが見えますが、どちらかと言えば蜃気楼
のようなオーラですね。
サイコバリアーは、やはり、少しギルバートの持っている力とは違うのかもし
れませんね。
中和装置なら完全に中和しなければいけないはずですけれど、僕らの見過ごし
ているものが他にもあるのかもしれません。
確率は98%と申しましたが、不確定要因が20%近くあるかもしれません。
あくまで推測ですが、8割程の成功保証しかできません。
それで次の段階に進んでもよろしいかどうか伺いたいと思います。
僕らとしては試してみたいのですが・・・。」
「 8割ねぇ・・。
ギル、どうする。
確率が減ったぜ。」
「 健康面で問題が無いなら進めて下さい。
どうせ、できるかできないかの問題です。
確率50%でも同じでしょう。」
「 なるほど、そう言う見方もあるわけだ・・。
博士号を8つも取った男にしては随分と大雑把な考え方だが・・。
まぁ、いいだろう。
冒険してみるか。
成功すればお前さんの貴重な体験が、一族にとっても大きなメリットになるか
らな。
何しろ、我々にも魔法を教えてもらえる。」
エディとダイアナは頷き合って、ギルバートの方へ近づいた。
エディはギルバートに床に座りなさいと言った。
ギルバートが床に胡坐をかいて座ると、同じようにエディとダイアナが正三角形を形作るように座った。
「 これから、始めるのは超能力者に対する覚醒の試練とほとんど同じものなんだ
が、お前さんの場合、大きく違うのは事前の訓練無しに行うことになる。
これまでの経験から言えば、事前の訓練が長ければ長いほど副次的な反作用効
果は少ない。
だから、お前さんの場合は、最終的な覚醒の際の副次効果が怖いねぇ。
ダイアナや私に匹敵するほどのオーラの可能性があるから余計にね。
それと、中和装置が作動している状態では、少し状況が変わる。
普段ならばオーラの道筋を探して広げるだけなんだが、この装置は君のオーラ
の道筋そのものをある意味でせき止めているお前さんの超能力の発現を抑止して
いる特殊な装置だ。
シュルツとレイノルズは、他にオーラの道筋があるはずだと言っておる。
だから先ずその道筋を探し出すしかない。
そいつが見つかれば、お前さんは超能力の抑え込みと超能力の発現と両方がで
きるようになる。
但し、両方一度には難しいかも知れんな。
いずれにせよ、お前さんのオーラに触れながらの微妙な調整を行うことになる
んでな。
普段より結構時間がかかる。
おまけにシュルツとレイノルズが煩いほど細かい方法を指示して来た。
それと、一応、この船の中に居る超能力者全員にお前さんを精神的に支えにな
るよう言ってあるんだが、・・・。
果たしてどこまで持つかそれが判らん。
いずれにせよ、一発調整しかできない。
始まれば、お前さんにも負荷がかかる。
覚悟しろよ。」
エディはそう言うと左手を伸ばしてきた。
ダイアナも右手を伸ばす。
「 手をつないでいた方が、仕事がしやすいんだ。
普段はしないが、お前さんの場合は特別だ。」
三人は車座になって、手をつないでいる。
するとその周囲に多数の人が出現した。
ギルバートの知っている顔も見える。
確か女神の子ティナの筈だ。
「 始めるぞ。
ギル覚悟しろよ。」
エディがそう言った途端、ギルバートは暖かいものに包まれた。
熱では無いが、そう感じさせる何かである。
初めての経験である。
自分の身体がその温かいものでピッチリと覆われた。
それから30分ほどもその状態が続いたろうか。
ふいにギルバートに圧力がかかった。
強烈な力がギルバートに作用していた。
一つはギルバートを内側から破裂させようとする力であり、今一つはギルバートを支えようと抗する力である。
どちらも、微妙に拮抗しながら、徐々に力が増大してゆく。
やがて内破しようとする力が徐々に上回り始め、ギルバートはあらん限りの力で抗しはじめるしかなかった。
必死に耐えている時間は、さほど長い時間ではなかったはずだが、ギルバートには永遠に続く地獄のような気がしていた。
そうして遂に終局が訪れた。
ギルバートはその瞬間に意識を失っていた。
目が覚めた時、女神の子ジュディスが介抱をしてくれていた。
『 大丈夫?
無事に終わったわよ。』
ジュディスは口を開いては居なかったが、彼女の思念がギルバートに届いていた。
『 これが、テレパス?』
『 ええ、そうよ。
ようやく貴方も、一族の仲間入りね。
具合はどう?』
『 疲れました。
エディとダイアナのお二人が目いっぱい苛めてくれたようですから。
今は、とにかくゆっくりと眠りたい。』
『 そうね。
でももう少し待ってね。
貴方をこの船の中には置いておけないの。
貴方が眠るときは、近くの無人惑星で寝てもらうことになったわ。
ベッドが一つだけだけれど、それで十分のはず。』
ジュディスがそのままでギルバートをテレポートしたのがわかった。
ギルバートは、ベッドに寝ていた。
周囲は夕焼けで間もなく夜に入る。
辺りは植物も生えていない荒涼とした地形である。
それらを見てとった後、猛烈な睡魔に襲われてギルバートは眠りに落ちた。
目覚めた時も傍らにジュディスがいた。
「 大丈夫?
無事に終わったわよ。」
ギルバートは眠る前にも同じようにジュディスに声を掛けられていた。
そうして眠った場所は名も知らぬ惑星の荒涼とした原野におかれた粗末なベッドの上だったはずだが、今は立派な部屋の中に寝ている。
それに、ジュディスの周囲に多数の小人がいた。
「 やぁ、ジュディス伯母さん。」
ギルバートは、エディと女神の子であるジュディス達には伯母さん伯父さんと呼びかけていた。
彼らは見かけ上殆ど年を取らない。
ダイアナの若返りの措置を受けたわけではない。
女神の子は不死といっても差し支えないほど長寿である。
ジュディスは女神の子の中でも一番先に生まれたし、いわゆる人の子よりも先に生を受け、エディの子孫では長女なのだ。
エディが19の時の子と聞いているから少なくとも70歳ぐらいになるが、人の子では長女になるグレース大伯母さんが5歳の頃には今と同じ容姿だった聞いている。
祖母のエリザベスはエディの第7女で、13番目の人の子であるから、ジュディスにおしめを替えてもらった口なので頭が上がらない相手でもある。
「 周囲に随分と小人さんが居るけれど、ジュディス伯母さんのお知り合い?」
「 あら、見えるのね?
知りあいではあるけれど、皆妖精や精霊なのよ。
ギルバートに御挨拶に来たのでしょう。」
途端に小人たちから一斉に挨拶の思念が押し寄せた。
その一人一人の思念をより分け、その一人一人に声をかけて一度に挨拶をした。
ギルバートはそうした多元的な思考ができるようになっていた。
以前から監視設定をした場所について、同時進行の異なる事象を簡単に把握できる能力はあったが、少なくとも一度に多数の者に異なる話しかけをしたことは無かった。
だが、それが苦も無くできる自分に少々驚いてもいた。
「 あら、まぁ、・・・。
さすがに凄いわね。
普通、聞きわけはできても、複数の者に異なる会話をするのは難しいはずなの
だけれど・・。
うーん、さすがに星一つを壊すことだけのことはあるかな。」
「 え、星一つって・・・?」
「 寝ている間に、ギルバートは惑星を壊しちゃったのよ。
見たい?」
そう言ってジュディスは思念で記憶を送ってくれた。
記憶の転送は一瞬であったが、実際の経過時間は12時間以上にもなる。
ギルバートが眠りに落ちてすぐに超常現象が始まった。
空気がイオン化し、ギルバートの周辺で強烈な放電現象が始まった。
それは徐々に範囲を広げ、数十ケイメルが半球状の放電場を形成した。
それが唐突に停まると今度は空間が捻じれ始めた。
既存の物質でこの空間の捻じれに対抗できるものはない。
岩山は砕け、大地は裂けた。
大気には巨大な渦が発生し、強烈な雨風を引き起こした。
その範囲は数百ケイレメルを超えていた。
その暴風雨の中でギルバートの身体は浮き上がり、地上から10レメル程の高さで停止した。
ギルバートの身体は金色の繭で覆われ、そこから空間をも揺るがず波動のエネルギーが小刻みに放出され始め、やがてそのエネルギーに抗しきれなくなった物質が、原子崩壊を始めた。
核分裂では無い。
原子核が壊れ、中性子、陽子、電子が飛び交い、それすらもクオークに崩壊する。
終焉の時には惑星一つが跡形も無く消えて、ギルバートの身体は宇宙空間に浮かんでいた。
その間、ダイアナとエディが必死の思いでギルバートの生身の身体を保護しようとしたらしく、金の繭が薄れて漸くカルムル二号に収容した時には、二人とも疲れ果てていたらしい。
無論ジュディス達残りの者が手を出すことはできなかった。
一族では最強の超能力者である二人がどうにもできない事態であっただけでなく、
一時は船の高次空間バリアーさえも危うくなるほどだったのである。
ギルバートは収容されてから二時間後に目覚めたのである。
エディとダイアナは疲労困憊で二人共に寝込んでいるという。
これまでで最大の覚醒の嵐であったようだ。
但し、いくらジュディスに詳細な記憶を送りつけられても、全く自覚がない。
それでもエディとダイアナには随分とお世話になったのはわかった。
少なくとも副次的効果が停まった時に誰かが宇宙空間から空気のある場所に戻してくれなければ、ギルバートは間違いなく死んでいただろう。
通常介添人が傍にいるのが普通であったが、今回はそれができないというのがダイアナの予知でわかっていたようだ。
その後数時間で、エディとダイアナは起きて来た。
ギルバートはエディとダイアナに魔法の方法をテレパシーで教えた。
その代わりエディからはこれまでわかっている汎用的な超能力を伝えてくれた。
エディに魔法が使えるかどうかはわからない。
だが彼に利用できなくても他の誰かが使えるかもしれない。
エディは皆にも知らせようと請け負ってくれた。
ギルバートには新たな超能力があるかもしれないが、エディとダイアナにはわからないと言う。
そもそもが超能力を封ずる力そのものが超能力であったはずである。
ギルバートは汎用的な超能力は使えるはずだと言われた。
但し、使う際には加減をしないと周囲が迷惑するかもしれないよと注意を受けた。
確かに、惑星一つを消してしまったのだから、その点には十分注意しなければならない。
おまけに通常の3倍から4倍ほど副次効果が長引いたことも今回の超常現象の特徴である。
シュルツとレイノルズがヘイブン帰還の準備を済ませ、ギルバートはカルムル二号を後にした。
シュルツが異世界への小さな穴を開けた時、ギルバートもその方法が判っていた。
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