第21話 被験者ギルバート

            By: Sakura-shougen(サクラ近衛将監)


 シュルツとレイノルズがヘイブンを去ってから四カ月後、その二人が再度顔を出した。

 そうして今度は、ギルバートに二日ほど遠出をして欲しいという。

 その間のベリデロンの守護は、一族の者が手助けをするという。

 そのために、五人の男女が助っ人にやって来ていた。


 リディア、デメトリオス、イスメラルダ、ヘルメスの四人に個別にガードマンが張り付き、全体指揮を執るために女神とエディの間に生まれたブライアンが一緒に来ていた。

 彼ら五人はいずれも超能力を持っているし、武術も相応の力を持っているから十分に留守を託せる人達であった。


 ギルバートは彼らを伯爵の家族に紹介し、二日不在の間、彼らが警護に当たる旨を伝えた。

 リディアには15歳のナタリーが、デメトリオスには18歳のエルリックが、イスメラルダには16歳のクレイモアが、そうしてヘルメスには18歳のケンドリーが専属でついた。

 彼らのいずれもが美男美女であることから城郭内でも噂にはなるだろうが、一泊二日だけの警備である。

 さほどの問題にはならないだろうと思われた。


 彼らに後を託し、ギルバートはシュルツとレイノルズとともにベリデロンを後にした。

 最初に大南洋の深海底に眠る航宙クルーザーに行き、そこから密かに宇宙へ飛び出し、120光年ほど彼方に停泊している航宙母艦カルムル二号へ向かったのである。

 広大な宇宙から見ればちっぽけな航宙船であるが、全長5ケイメレムの船はそうそうには無いものである。

 初代カルムル号は30年ほど現役だったが、現在はカルムル世界の造船所のある惑星の格納庫で眠っている。


 余程のことがなければ動くことはないだろうと思われている。

 いずれにしろ全長70ニルほどの航宙クルーザーは巨大な航宙船の格納庫にすっぽりと収まってしまった。

 そこからエディ曽祖父が待っていると言う居間に辿りつくまでが大変であった。


 シュルツとレイノルズはテレポートすれば簡単に行けるが、テレポート能力の無いギルバートは、最初に魔法で船の内部構造と歴史を知り、その上で位置を確認し、それからデュスランで移動する。

 格納庫に着いてから、居間に移動するまでに10分ほど掛かることになった。

 居間にはエドガルドとダイアナが待っていた。


 シュルツとレイノルズは居間にはいなかった。

 エドガルドの妻達も無論一緒にいる。

 以前に6人の美人の若妻を持つ若い男性の気持ちはどんなものだろうと考えたことがあるのだが、何だかハーレムに紛れ込んだ様で妙に尻が落ち着かないものである。


 ダイアナを含めて、若くて、とびっきりの美女ばかり7人の中に男はエドガルドとギルバートの二人だけである。

 しかもギルバートは正真正銘の22歳だが、目の前に居るのは22、3歳の顔を持った老人達である。

 エディの一番若い妻のミレアですら59歳であるはずだ。

 この中では比較的若い部類に入る大伯母のダイアナが64歳、最年長のエディは89歳で、エディの他の妻は62歳から88歳であるのである。


 顔を合わすなりエディが言った。

 「 よう、変人ギル。

   格納庫からここに来るのに随分と時間がかかったね。

   もう少し待って来ないようなら、迎えに行こうかと思っていたところだよ。」


 昔から、エディ曽祖父はギルバートのことを変人ギルと言うのが口癖である。

 一族の中で唯一超能力を持たないギルバートを比喩しているらしい。

 彼が言うにはかなり大きなオーラを持っているのに超能力を発揮できないギルバートは変わり者であるからだという。

その呼ばれ方にもすっかり慣れてしまっている。


 「 お久しぶりです。

   長老。」

 小さな頃から負けず嫌いだったギルバートは、そう揶揄するエディに対しては長老と呼んで対抗していた。


 「 奥様たちも皆さまお変わりなく、御元気の様でなによりです。

   ダイアナ大伯母様も・・・。」

 女達がそれぞれにこやかに一言ずつ挨拶を寄越す。

 ひとしきり挨拶が終わると、エディが言った。


 「 わざわざここまで来てもらったのは、シュルツとレイノルズがお前さんを分析

  した結果、超能力の発現を阻害している原因を何とかできそうな目途がついたか

  らなんだ。

   お前さんの周囲では超能力が封印されてしまうのはお前さんも承知の通り。

   私やダイアナの力でさえかなり減少することが判っている。


   で、実のところその力がお前さんの超能力も封印しているのではないかという

  仮説を二人は立てた。

   九分九厘間違いないという結論を持って私のところに来たのが1週間前だ。

   彼らが新たに造った装置は、超能力を封印するある種の力場を発生することが

  できる。


   その元になったのはお前さんの周囲にある場の解析だ。

   まぁ、電子的な部品と若干の生体ポジトロニクスが装置の中枢なんだが・・。

   そちらの方はともかく、その過程で、彼らは逆にその場を中和させる装置も開

  発した。

   で、一つはその装置を使ってお前さんの発する場を中和できるかどうかの実験

  と、もう一つはお前さんの変人の名を返上させることができるのじゃないかと二

  人は考えたらしい。


   但し、それをするためにはどうしてもわしとダイアナの二人分の力が必要らし

  いんでな。

   わしらがお前さんのところに行っても良かったのだが、別の問題もあったの

  で、悪いがお前さんにここへ来てもらった。


   わしもダイアナも医者じゃないが、これはある意味で治療のようなものだ。

   そこで仮にそれができるにしてもお前さんの同意が必要だ。

   因みにギルの両親、祖父母には事前に了解をもらっている。


   聞けば、お前さんは超能力なしに魔法で同じようなことができるらしいから、

  必ずしも必要性を感じては居ないかもしれないが・・・。

   どうかな、お前さんに備わっているはずの超能力の発現を試みてみるかい。

   お前さんが望まないならしないよ。」


 「 あの、どうするのかは知りませんが、その治療と言うか措置と言うか・・。

   失敗しても特にデメリットは生じないのですか?」

 「 シュルツとレイノルズ曰く、物理的に健康面で障害の残る心配はないそうだ。

   精神面では失敗することで若干のストレスは残るかもしれないが、医学的に考

  慮する必要性の無い程度だそうだ。」


 「 成功の確率は?」

 「 98%。

   2%の不成功は、わしとダイアナの力不足の場合だそうだ。

   その98%の確率を更に上げるために、実はダイアナと二人でシュルツとレイ

  ノルズに1週間前から特訓を受けて来た。

   まぁそれで、何とかできそうだと言う目途がついたんでお前さんに来てもらっ

  たわけだ。」


 「 なるほど。

   では、・・・。

   危険がないなら、お願いしようかと思います。


   今居る世界でも、魔界の降霊術を始めそうな娘がいるので気にはなっているん

  です。

   魔物でも呼び出された日には、魔法ではとても対応ができそうにありません。

   それに兄弟が持っているような能力があればボルデニアンへの行き来も楽です

  からね。


   長老が先ほど仰ったように、本当に初めてのところでは、予め詳細な位置を知

  っているという別の要因が無い限り、調査をしてから移動するまでにかなり時間

  がかかります。

   それに助けを求めている人がいて、本当は助けることができるのに、それを知

  らずに見過ごすということが悔しいので・・。

   できれば僕にも渡りに船の提案だと思います。」


 「 わかった。

   じゃあ、やってみよう。

   最初にシュルツとレイノルズの中和装置の確認からだな。」


 エディは立ち上がり、手を差し出して行った。

 「 シュルツとレイノルズは道場の方だ。

   ここではちょっと狭いのでな。

   道場に機器を設置して待っているから、道場まで一緒にテレポートする。」

   ギルバートがエディの手に触れた途端、テレポートしていた。


 カルムル二号の道場は広い。

 200メレル四方ほどの広さで、天井高さも25メレルほどある。

 ほぼ中央に6角形の形状を取るように機器が設置されている。

 何やら巨大なスピーカーを思わせる箱型の機械である。


 その一つの機器の傍らにモニター群があり、シュルツとレイノルズの二人が付いていた。

 到着するとすぐに、機器のほぼ中央に立たされた。

 エディとダイアナは機器の外側に位置している。


 曽祖母達はついてきていない。

 彼女達はいつもエディと一緒ではあるのだが、きちんと居るべき場所を弁えている人たちなのだ。

 この実験場は彼女達が居るべき場所では無いと考えているのだろう。


 シュルツが声を掛けて来た。

 「 ギルバート、良ければ始めるけれどいいかな?」

 「 ああ、だが、僕は何をすればいいんだい。」


 「 特には何も、そこに立っていてくれるだけでいい。」

 「 いいよ。

   じゃ、始めてくれ。」


 「 じゃ、始める。

   もし何か異常を感じたら言ってくれ。

   すぐに止めるから。

   中和装置始動。」


 レイノルズがスタートさせたようだが、ギルバートは何も感じなかった。

 シュルツが尋ねた。

 「 どう?

   何か異常を感じられるかい。」

 「 いや、何も・・・。

   ちゃんと動いているのかい?」


 「 一応は動いているはず。

   じゃ、ちょっと中和装置が効いているかどうか試す。」


 シュルツはポケットからコインを取り出して、それを空中に浮揚させた。

 シュルツまでの距離は12メレルほど。

 恐らくは境界ぎりぎりだろう。

 そうしてシュルツはそのコインを浮揚させたまま、徐々にギルバートに接近させている。

 数秒でギルバートの手元まで移動して来た。

 そうして突然コインが消えた。


 コインはシュルツの手の中にテレポートで戻っていた。

 シュルツとレイノルズがこぼれんばかりの笑顔を浮かべた。

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