第13話 二度目の襲撃と根切の暗殺
by Sakura-shougen
その帰り道に、闇の襲撃があった。
ギルバートは、その襲撃を直前に感知し、馬車の中から忽然と消えた。
そうして闇に潜む刺客を次々に打倒して行った。
リディアを襲撃するために街道筋に展開していた刺客達は何が起きたかわからぬうちに全てが首を刎ねられて死んでいた。
慌てたのはリディアとメルーシャである。
目の前に居たギルバートが突然消えてしまったからである。
メルーシャが御者に言って何とか馬車を止めて貰い、二人が馬車の窓から周囲を見渡すが、どれほど目を凝らしても馬車の明かりだけでは遠くは見えず、ギルバートの姿など見えるはずもない。
そうしている間にギルバートが何事も無かったように馬車の中に姿を現した。
再び、二人の女性は驚いたのであるが、取りあえず一行は再び動きだした。
馬車の中で二人の女性からギルバートは質問攻めに遭っていた。
簡単に説明しても、中々に納得はしてもらえなかった。
仕方なく、ベリデロンの城塞に到着するまで、二人には刺客の存在などこれまでわかっていることを説明したのである。
リディアもメルーシャもその話に驚きを隠さなかったが、同時にギルバートが人知れず、リディアやクリスティナを守っていることだけは信じたようであった。
だが、リディアは一方で不安な気持ちをギルバートに伝えた。
「 お兄様も狙われているなんて・・・。
誰が背後に居るにしろ許せない人ですね。
でも、ギルバート様、お願いですから無理をなさらないで下さい。
相手は暗殺に長けたザッカレルなのでしょう?
私はギルバート様の御身が心配だわ。」
最近、富にリディアの関心がギルバートに移っている。
メルーシャもその事実に気づいているのだが、どうしたものかとメルーシャも迷っているところである。
いずれは、リディアの母であるイスメラルダに相談しなければならないのだが、ここのところの様子からはそれを早めにしなければならないとメルーシャは考えていた。
イスメラルダは、賢い女性である。
母として領主の妻として、メルーシャが進むべき道を示してくれるだろうと思っていた。
翌日、メルーシャはイスメラルダ侯爵夫人に目通りした。
人払いを願い出て、メルーシャは懸念を正直に話した。
それを聞いてイスメラルダは微笑んだ。
「 そう・・・。
リディアもそう言うお年頃になったのね。
メルーシャ、貴方の懸念もわかります。
伯爵令嬢としてのリディアが、何の爵位も持たない騎士にしか過ぎないギルバ
ート殿と結ばれるのは難しいと考えているのでしょう?」
メルーシャは堅い表情のままで頷いた。
イスメラルダは、真顔で続けた。
「 でもね、メルーシャ。
仮にギルバート様が居なかったなら、貴方もリディアもこの世に生きては居な
いかもしれない。
失うものが何もなければ、怖いものはないものよ。
私はリディアが幸せに生きてくれるだけでいい。
リディアが本当にギルバート様に恋をしているならば、母としての私はそれを
成就させてあげたいわね。
でも、・・・。
肝心のギルバート様がリディアの事をどう思っているかが一番の問題ですよ。
リディアも漸く大人の仲間入りをしたとは言っても、まだ15になったばかり
の世間知らずの娘に過ぎない、・・・。
あと数年もすればもっと女性らしくもなるでしょうけれど、まだまだ子供なの
ですよ。
果たしてギルバート様が、その子供子供したリディアを一人前の女として認め
てくれるかしらねぇ?
メルーシャ、貴方の目から見てギルバート様はどうお思いかわかりますか?」
「 いいえ、判りません。
でも、ギルバート様がリディア姫のためにわざわざ手ずから細工物を御造りに
なり、姫のお願いでアロン子爵令嬢の贈り物を造って差し上げたこともございま
す。
そうしたことから推測できるのは、きっと憎からず思っていらっしゃるだろう
ということでございます。」
「 そう、・・・。
あの見事な細工の贈り物はギルバート様自ら御造りになったのね。
とても素晴らしい出来映えでした。
私もあれほど見事なものは見たことが無いほどに・・・。」
「 はい、こ度のフローディア様へのプレゼントは、姫様のご依頼で出来上がった
品を出入り商人のクロアティに見せまして、その評価をしていただきましたが、
クロアティ曰く、金貨30枚以上の価値があるとのこと。
クロアティは是非とも入手先又は作者をお教え下さいと申し出ましたが、丁重
にお断りしました。」
「 何と金貨30枚以上ですか・・。
ギルバート様は、何でもお出来になるみたいですね。
リディアの話ではビュラスを弾けば楽師以上とか、ハインリッヒの話では剣の
腕では名高いキュロス殿の上を行くかも知れず、アドニス殿の話では希代の魔法
師の素質があるとか・・。
それにリディアの誕生日に見せたあの華麗な舞踏。
立派な衣装の所為もあるでしょうけれど、王族の子息かとも思わせるほど貴公
子然としていました。
リディアならずともあの男振りには若い女性は皆靡きましょう。
それに、少なくとも、生きて行くために必要な才覚は人並み以上にありそうで
すね。
私は、仮に二人が結婚を申し出て来たならば赦して上げるつもりです。
その様な時が来たならば、伯爵の方は、私が説得しましょう。
でも、そのためにはギルバート様の意向確認が大事です。
ギルバート様がリディアでは無く他の女性を選ぶ場合でも、それは受忍しなけ
ればならないでしょうね。
果たしてリディアにその覚悟があるのかどうか・・・。
それが心配。
今は恋しい男のことだけ思っているのかもしれないけれど、必ずしも自分の思
い描いているようには世界は廻らない。
まして、恋愛は片思いに終わることが多いもの・・・。
メルーシャ、それとなくリディアにはそのことも教えてあげて下さい。
結婚は一方の意思だけで決まるものではないと言うことを。」
メルーシャは、深々とお辞儀をして辞去した。
やはりイスメラルダにご相談して良かったと感じていた。
イスメラルダは先々のことに気を配られている。
さすがに、良妻賢母の鏡とまで言われた伯爵夫人だけのことはあると思ったのである。
それから2カ月ほどして、ロルム王国の北の領地を支配するラロッシュ伯爵が急逝した。
ラロッシュの城郭内に賊が忍び入り、ラロッシュ伯爵を殺害したのだが、伯爵は傷つきながらも同時にその男を打倒したらしく、伯爵は猛毒のジャメリアで死に、賊は伯爵の剣で突き殺されていた。
伯爵の世継ぎが伯爵領を受け継ぎ、ロルム王国を騒がせた事件は不可解なまま終結した。
だが、その裏では、ギルバートが黒幕であるラロッシュ伯爵を突きとめ、同時に仲介者であったミレルという男を探し出し、二人を殺めたのである。
ラロッシュ伯爵はジャメリアの手裏剣で傷つけられ、ミレルは伯爵の刀で殺された後に、城郭内のラロッシュ伯爵の居間に二人の遺体が放置されたのである。
そのことを知っているのはアドニスだけであった。
シュクラの里の長は、仲介役のミレルが何故にジャメリアの手裏剣を持っていたのか、また、何故に依頼主であろうラロッシュ伯爵を手に掛けたのかを不思議に思ったが、仲介役が無くなり依頼主からの督促が途絶えた時点で契約は切れた。
過去の慣例に習って、シュクラは依頼の一件を闇に葬ったのである。
同じ依頼が来ない限りは、シュクラが動くことは無い。
シュクラも既に今回の一件で30名を超える多くの手練れを失っており、手付金以上の喪失を出していたからである。
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