第5話 ヘイブン世界の様子

   by Sakura-shougen


 ギルバートが滞在するヘイブン世界で文化的に面白いのは、魔法が身近なものとして根付いていることである。

 魔法はヘイブン世界に生まれ育った者ならば誰でもそれを利用する能力がある。


 但し、その呪文や手法は無暗には知らされてはいないし、使う者の能力に応じて威力が異なる。

 女性はそのほとんどが癒しの能力を持っているが、ギルバートの見るところ、これは魔法ではなく、むしろヘイブン女性に備わった超能力のようである。


 ギルバートが感知できるものではないからである。

 そのためかどうか、女性は魔法師にはならないのが普通である。

 但し、男の療法士が使う癒しの術は魔法のようであり、誤って落馬した騎士の手当てをする療法士の呪文と手法はギルバートにも明確にわかった。


 どのような力を利用しているのかは皆目不明であるが、怪我をした箇所或いは部位に対して一定の力を集めることに拠り、癒してしまうものであった。

 女性の癒し、療法士の癒しどちらの場合も、癒しの程度としては低く、瀕死の重傷を負った者をすぐに元気にさせるほどの力はない。


 ギルバートの血族で高名なバーバラやサブリナは、正規の優秀な医師であるが、同時に非常に強力な癒しの超能力を持っている。

 その能力は瀕死の重傷者を直ちに回復させてしまうほどの力を持っている。

 だが、このヘイブン世界で左程の能力を持っている者はいないようであるが、どちらの癒しであっても痛みを軽減し、出血を止め、治癒を早める効果は確実にあるものである。


 そのため、ギルバートには助けられないと思われた従者をリディアやメルーシャが助けることができたのも、一つには止血の力と治癒を早める効果である。

 女性達の癒しの能力には再生能力は含まれていなかったし、悪性癌などの病気の治癒もできないようだ。


 但し、古の療法士には切り落とされた腕などの再生まで行えるものが居たと言う話が残っているようだ。

 無論長い時間を掛けての再生のようであるが、現在はロルム王家お抱えの療法士にもそれほどの魔法が使える者はいないと言うことである。


 ギルバートは、折につけ療法士が行う療法の過程を観察し、その呪文と手法を記憶に止めるようにした。

 ギルバートのこうした魔法の感知能力は非常に高く、ヘイブンに来た当時は精々周囲100メレムほどの範囲であったものが、1カ月経った時点では300ケイメルの範囲ならば、確実にその存在を感知し、その呪文と手法がわかるようになっていた。


 更には、800ケイメルまでならば呪文も手法も漠然とはしているが、少なくともその方向と大凡の距離が判るまでになっていたし、その範囲であれば既に承知している魔法であれば何の魔法を使ったのかも察知できるようになっていた。

 日々その能力は向上しており、いずれヘイブン世界全域に渡って誰かが魔法を使った場合の探知ができるようになるだろう。


 ヘイブン世界の惑星は直径がおよそ3000ケイメルほどしかないからである。

ギルバートの生まれ育ったボルデニアンでは皇都惑星モレンデスの標準時間を踏襲して使っているが、一日を30時間に分け、その1時間を50分、1分を50秒に分けている。


 このヘイブンでは左程の正確さはないものの、ゼンマイ式の時計もあって、一日を12時間、1時間を60分、一分を60秒に分けている。

 ナップザックに持ってきた小型の光電池式デジタル時計でヘイブンの太陽の南中時を計測してみたが、ヘイブン世界の一日は、モレンデスのおよそ22時間に当たる。

 従って、ヘイブンの一時間はモレンデスの概ね1.8時間ほど、ヘイブンの1分はモレンデスの1.5分、ヘイブンの1秒はモレンデスの1.2秒ほどの時間になる。


 ヘイブン世界の自転はボルデニアンよりも早いが公転周期は遅く、1年は420日ほどになる。

 1年の時間は、ボルデニアン時間で概ね9240時間であり、ボルデニアンの1年9300時間とほぼ拮抗している。

 従って、このヘイブン世界の年齢はボルデニアンの年齢とほぼ一緒と考えて差し支えないだろう。


 因みにリディア姫は14歳、来月エレナム月の18日には15歳になるそうだ。

 一月は概ね30日であり、14カ月で1年になる。

 3年に一度閏年があり、一カ月31日が一年の最初の月、ハネル月に当てられることになる。


 ヘイブン世界の距離の単位も非常にボルデニアンのものに近い。

 ボルデニアンの1メレムは4フォート、1フォートは成人男子の足の大きさから来ているらしいが、個人によってまちまちの単位は大雑把な時代には通用しても、精密な機械を作り上げる時代には使えない。


 そこでモレンドで度量衡制度が決められた際に惑星モレンドの赤道円周から割り出した数字を基準にそれまでの1メレムに最も近い長さになるよう整数分母を決め、その長さが1メレムとされ、更にその四分の一の長さを1フォートとしたのである。

 1フォートの五分の一を1レフォート、さらに五分の一を1セフォート、以下その十分の一ごとにデフォート、デレフォートなどの単位がある。


 ヘイブンでも同じように足の長さから1ニルが決められその4倍を1エニルと言い、その4千倍をケニルという。

 逆に1ニルの百分の一が1メニルというがそれより小さな単位は通常使わない。


 一応の目安として1メニルの百分の一を1ミレニルと言うようになってはいるが、実際問題としてヘイブンではそれほど小さな物を計測する方法が無いはずである。

 いずれにせよ、モレンデス世界の1メレムはヘイブン世界の1エニルに非常に近い。

 1エニルは大凡1.1メレムほどになるのである。



 ギルバートの滞在するベリデロン城は、伯爵の配下にある魔法師の一団によって恒常的に結界が張られているが、これもここの魔法師の超能力によるものではなく、呪文と特殊な技法によって、固定化された結界である。

 一旦固定化された結界は、破られない限りその場所に存続するし、その維持に体力を浪費することも無い。


 ギルバートはその結界の存在も感知できたが、その作り方はまだ分からない。

 アドニスなど魔法師の一団の誰かが新たな結界を造るようなことがあれば、ギルバートにもそれが判るかもしれない。


 城は二重三重の結界が張られており、ベリデロンの街にも重要な場所には結界が張られていた。

 結界は魔法に対する防護壁の意味合いを持っており、防護壁の外側から内部へは魔法を掛けられないのである。


 但し、内部に入り込んだ者はその内部で魔法を使用することができるが、魔法師達に大魔法として知られているような一群の魔法は掛けることができないとされている。


 リディアには姉と兄がいる。

 姉のクリスティナは、ベリデロン伯爵領に隣接するハトラ侯爵領のベネディクト・ケイアンズ子爵と結婚している。

 ベネディクト子爵は、その父であるカルロス・ケイアンズ侯爵の跡継ぎである。


 一方、リディアの兄のヘルメスは、ロルム王の近衛騎士団で目下修行中であり、もう半年ほどで年季明けとなるそうである。

 ヘルメスはベリデロン伯爵領の跡継ぎとして、近衛騎士団で三年の修業を積んだ後、子爵となることが決まっている。


 健康である限り、伯爵が60歳になるまではヘルメスに伯爵領を相続できないことになっているらしい。

 因みにヘルメスはギルバートと同じ21歳である。

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