そして結末は描き足された
――どれほどの時が経ったか、もはや数えるのも億劫だ。
すべては過去となり、空虚な現在をただ生きるだけ。
七口を数える頃には味がわからなくなっていた。
絵を愛し、愛された人だった。そう思う。
いつの間にかこの屋敷は彼の絵画展の様相を呈していたし、私もそれを止めるつもりはなかった。
あの最後を絵を除いては。
結局、絵は完成することはなく。
最後の一筆だけが入れられぬまま、題名だけはしっかり記されていて。しかし肝心の絵の意味が理解できずに。もはやそれを作者へと問う術などなく。
茶器の中身が半分になった頃には自由を失い。
珈琲を飲めば貴方に近づける筈。それなのに、飲めば飲むほど貴方との時間は過去になってしまう――――
最後の一口を含む頃には既に意識は無く。
『珈琲は好きではないけど、決して悪くはないんだよ――』
『――ええ、そうね……。』
蜘蛛は一本の糸を伸ばした。
誰かが語った。
曰く、街の外れの屋敷には誰も何も居なかったのだと。
曰く、そこにあったのは一本の糸のみであったのだと。
そしてその糸は天を目指すかのように、どこまでも上に向かって伸び続けていたのだと。
こうして誰も知られることのない昔話は、誰に知られることもなく終わりを迎えた。
天を目指した糸 カピ @kapibarara
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