宇貫さんと僕
現夢いつき
宇貫さんはかく語りき
しかし、実際のところ彼女はその人柄の良さで有名になったのではない。むしろ、容姿や成績などの外見を除いたある部分――具体的には性格――が壊滅的であったがゆえに、その悪名を校内に馳せたのである。
破綻した性格というと、むしろ、昨今流行っているおかしな美少女として人気になりそうなものであるが、宇貫さんは度が過ぎていた。
曰く、母親の産道に常識を置いてきた。
曰く、東に病気の子供があれば、行って遊んでやり、西に疲れた母親があれば、行って仕事を増やしてあげ、南に死にそうな人があれば、行ってお経をあげてあげ、北に喧嘩や訴訟があれば、行ってもっとやれと煽ってあげる。
――宇貫さんはそんな人物である。
ちなみに、僕はそんな彼女を面白い人だと思って眺めていた。だが、眺めているだけならばまだよかったかもしれない。僕はあろう事か、彼女と接触を持ってしまったのだ。
猛獣は檻の外から眺めるのが最もよいふれ合い方であって、間違っても、檻の中でふれあってはならないのだ。僕はそのことを重々承知していた気になって、実際は知らず知らずの間に彼女の間合いにはいってしまっていたのである。
ゆえに、こうなってしまった原因は僕にあるのだ。いくら、加害者が彼女であろうと、漂う危険なかおりに誘われた僕は被害者とは言えない。痴漢冤罪を狙う女みたいなものである。
とはいえ、この状況は、痴漢冤罪を狙っていたら、本当に痴漢されてしまって声も出せない状況に陥ってしまったといった感じであろう。
あれ? 僕、ただの被害者じゃない?
ともあれ、現状整理はここまでにしておいて。僕は彼女に訊いた。
「どうして、こんなことをしたんですか……?」
「ごめんなさい。やばいと思ったんですけど、内から湧き出る欲望にを抑えることができなかったんです!」
全く悪気もない、むしろ
「ふざけないでください! これは、あなたどころか僕の将来にも大きな影響を与える行動なんですよ!? なに、僕が寝ている間に勝手にやってるですか!?」
「えっ! 起こしてたら、よかったんですか! 今度はそうしますね」
「二度目はありませんから! というか、もう二度としないって誓ってください!」
「無理です☆」
「うっぜえ!」
語尾に☆をつけるな! 宇貫さんのようなクレイジーサイコガールは間違ってもしてはいけない行為である。
「まあまあ。将来のことなんてどうでもいいじゃないですか? 今が楽しければそれでいいんです。……今は、この余韻に浸りましょう?」
そのような余裕はないので、謹んでお断りいたします。
「あ、大丈夫ですよ。もちろん、危険な日は避けましたから!」
「その行為に及んだ時点でアウトなんですよ!?」
僕は彼女の思考が一切理解できなかった。全く納得ができないのである。結局、理解することを放棄した僕は彼女をキッと睨みつけ目の前の惨状を指さして言った。
「どうして、僕の下宿先が燃えているんですか!?」
「ごめんなさい。放火したいって感情に逆らえませんでした! ……でも、誰もいない安全な日なので、誰も怪我してないと思いますよ?」
「そりゃそうですよ。あのアパート、住んでいるの僕と宇貫さんだけなんですから!」
ちなみに、その物件は彼女が保有しているのだが、それはまた別の話。
「ああ、これではオウチなしですね。私達」
まさか、これを言いたいがために、ここを燃やしたんじゃないよね、この人……。
宇貫さんと僕 現夢いつき @utsushiyume
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