エピローグ(その2)

「みんなには、直接お礼を言いたかったの」

 フーダは五人の前に歩み寄ると、ぺこりと頭を下げた。

「あんなに図々しかったのに、優しくしてくれて、助けてくれて、ありがとう」

 その言葉を聞き届けた龍野は、ゆっくりと話しかけた。

「まあ確かにな、最初は俺もムッとしたぜ。何なんだコイツは、ってな。

 ……けど、お前は成長したよ。フーダ」

「騎士様……!」

 フーダが、龍野に抱きつく。

 しばしの間、龍野はフーダの頭を撫でていた。



「さて、私もお邪魔するわね。フーダちゃん」

 ヴァイスもまた、フーダに抱きついた。

「別れを惜しみたいのはやまやまだけれど、先にすべき事があるの。

 龍野君、悪いけどフーダちゃんを私に預けて」

「あー、わかった。すぐ終わらせてやれよ? ごめんな、フーダ」

 龍野がフーダを、優しく離す。

 ヴァイスがフーダを抱きしめると、フーダの頭にそっと右手を乗せた。

 そして中指をとん、と首筋に押し当てる。

「お、お姫様……?」

「大丈夫。大丈夫よ、フーダちゃん(今回は小細工を入れる必要も、無いのですから)」

 ヴァイスが優しく囁きながら、要望を投げかける。

「告げましょう。


『貴女の怒りは、自らの意思で操る事叶うものである』と。

『貴女は立派な、名君になる存在である』と」


 それだけ告げると、ゆっくりとフーダを解放した。

「ヴァレンティアに来たばかりの貴女ではありませんわ。今の貴女は、“カンパニー”の主に相応しい器。フーダちゃん、自信を持って、“カンパニー”を導きなさい。

 ……また、会いましょうね」

 最後に自らのささやかな望みを挟み、ヴァイスはフーダの体を押した。



 その先は、シュシュであった。

「また会ったね、お姫様二号。いえ、シュシュお姉ちゃん」

「相変わらずですわね、フーダ」

 憎まれ口を叩き合う二人だが、お互いが笑みを浮かべていた。

「もう、最初の頃とは違うわね。凶暴で、その実臆病な様子は、もうどこにもないですわ」

「ふふっ、ありがとうシュシュお姉ちゃん」

「“カンパニー”の社長になったら、顔を見せて差し上げてもよろしくてよ?」

「うん、待ってるよ!」

 最初の頃の険悪な雰囲気はどこへやら、二人は仲良くハグを済ませた。



「さて、残すはおれだな」

「私もお邪魔しているけれどね。“元”敵のフーダちゃん」

 最後は、武蔵とリーゼロッテだ。

「ムサシ、貴方にはいろいろとお世話になったわ。

 そして、リーゼロッテさん。最初こそ敵同士だったけれど、最後はちゃんと味方してくれた。ありがとう」

「いや、おれは当たり前のことをしただけだ」

「そうよね。それに、ムサシの主は私の主。

 最初こそ戦いはしたけれど、まさかムサシが勝つなんて思わなかったわ」

 こうは言っているものの、既にリーゼロッテはフーダに心を開いていた。

「ムサシとリーゼロッテさんは、この後どうするの?」

「ん? ヴァレンティア王国に亡命だな。出来れば今すぐ飛ばしてほしいぜ」

「同感ね」

「出来るよ。けど、そっかぁ……」

「残念そうだな?」

「うん……」

 行く当てが無ければ、新生“カンパニー”に引き入れたかったフーダ。

 しかし既に行く当てを確保していたのは、安心した一方、少し寂しく思った。

「うぅっ……」

「どうした、フーダ?」

 と、様子の変わったフーダに、龍野が問いを投げかける。



「やっぱり、寂しいよお……騎士様、お姫様、シュシュお姉ちゃん、ムサシ、リーゼロッテさん……」



 王女としての威厳を捨て、別れを悲しむ子供になったフーダ。

「うええええええん、もっとみんなと一緒にいたいよぉ!」

 その様子に、居合わせた全員が目頭を熱くし始めていた。

「っ、そうだな……」

 龍野が悲しみをこらえながら、言葉を絞り出す。

「けどよ、俺達もずっといられるわけじゃねえ。厳しいが、それが現実だ」

 龍野から出た、久しぶりの厳しい言葉。

 フーダはしゃくりあげながら、それでも涙を抑えられなかった。

「だから、お前が立派な社長になったら俺達を呼べ。その時は、また一緒にいてやるからよ」

「うん……うんっ!」

 龍野の提案に、涙を流しつつも、笑顔で頷くフーダニット。


 と、龍野達の体を、光が包み込み始めた。

「お別れだ。これまでとは違う“カンパニー”を、創り上げてみせろ」

「大丈夫ですわ。この戦場で私達という味方がいたように、貴女には素晴らしい味方がいる」

「途中で投げ出したら、今度こそお仕置きいたしますわよ、フーダ!」

「だから、おれ達の事は思い出としてしまっていてくれ。いずれ、新しい思い出を作ってやるさ」

「何なら、私の義理の妹か娘にしてもいいのよ」

 五人のそれぞれの言葉を受けたフーダは、今度こそ、訪れる別れを受け入れる。

 そして最後に、こう言い残した。



「みんな、本当にありがとう……っ!」



 その言葉を聞き届けた龍野達は、ヴァレンティアへと帰ったのであった……。



作者からの追伸


 有原です。

 別れとは、必ず訪れるもの。

 しかし、いずれ再会することもまた、人生でしょう。ふふっ(山口県を眺めつつ)。


 では皆様、もう少しだけ龍野達の後日談(イフの話を含む)にお付き合い下さいませ。


 それでは、失礼致します。

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