vs 宇宙戦艦バーダクライド(その4)

「さあ、行こうぜ!」

 アルマガルム・アークエグゼを飛翔させた龍野は、迫るバートラス達を、手にする大剣で薙ぎ払う。

 バートラス程度の火力では装甲を貫くどころか傷すら与えられず、反対にアルマガルム・アークエグゼの一撃は僅かに掠めるだけでバートラス達を、原型を留めず粉砕する。

 正に鎧袖一触であった。

『龍野、邪魔な敵は全部やっちゃうよ!』

『そのつもりだぜ、ディノ!』

 龍野とディノ――もとい、アルマガルム・アークエグゼ――は、バートラス達を気にも留めず、軍艦の陣形へと突っ込んで行った。


     *


 その頃、ヴァイスとミサキはバーダクライドの中枢へと向かっていた。

『その奥ですわね。ん、止まってくださいませ』

『何か、罠でも?』

『ええ。如何に堅牢なヴァイスシルト殿下の障壁であろうとも、突破は叶いませんでしょう。別の道をお教えしますので、迂回を』

『はい』

 ミサキの指示に従ったヴァイスは、道中敵を“無力化”しつつ、確実に中枢へと迫っていた。


 そんなミサキだが、こっそりとほくそ笑んでいた……。


     *


『よし、アークレイズ級を一網打尽にするよ!』

『あいよ! “ドラゴンブレス(サンダーボルト)”、起動!』

 その頃、高度17,000mまで上昇したアルマガルム・アークエグゼは、邪魔な艦隊の駆逐艦アークレイズ級を一掃する準備を終えていた。

『いっちょ頼むぜ!』

『もちろんだよ、龍野!』

 アルマガルム・アークエグゼの顔面部にあるマスク状装甲が展開し、牙が剝き出しになる。

『やっちゃうよー!』

 ディノの号令で、、牙に紫電がはしる。

 そして――


 瞬く間に、アークレイズ級十七隻を爆発四散させた。


『ふぅっ……』

『よし、次はどうする?』

 龍野とディノは、既に次の獲物へと狙いを定めていた。


     *


『さて、ここですわね』

 中枢部へと繋がる唯一の道を切り抜けたヴァイスは、手前の空間で待機を指示されていた。

『ミサキ殿下、“待機”というのは一体……?』

『壁に手をお付きください』

 ヴァイスは指示に従い、壁に手を付ける。


 と、艦全体が急に揺れた。


『!? ミサキ殿下、これは……!?』

『うふふふ、うふふふふふ……♪』

 ヴァイスが確認を取ろうとしても、ミサキは妖しく笑っていた。

『ざまあみやがれと言うものですわ……うふふふふふ!』

 結局、ヴァイスはミサキを正気に戻すのに、数分を費やした。


     *


『おいおい、バーダクライド級に何か直撃したぞ……!?』

『隕石……これはアレだね、ミサキさんだ』

 その様子を、外から龍野とディノが見ていた。

『恐らく、破壊工作と憂さ晴らしだろうね』

『うわぁ……。そうだ、ヴァイスは?』

『バーダクライドの中から反応がある。恐らくは潜入中だろうね』

『無茶しやがって……ッ!』

 だが、龍野の脳裏には「ありがとう」の文字が浮かんでいた。

 ここでバーダクライドを案山子カカシにしてしまえば、龍野はさしたる負荷も無しに決着出来る――はずだった。

『けど、そんな偶然を当てにするもんじゃないよ龍野。試練は己で、乗り越えてこそ!』

『そうだな。それにそんなヤワなんじゃ、ヴァイスに顔向け出来ねえし、なあ!』

 龍野はシュヴァルツリッター・ツヴァイと同じ操作部分の半球に意識を集中させ、脳裏にイメージを浮かべる。

 そう。龍野の在り方は、龍野次第なのだ。

「どけ!」

 レーブル級をあっさりと叩き切った龍野は、着実に距離を詰めていた。


     *


「あら……」

 ヴァイスが待機していたすぐ脇には、大穴が空いていた。

 無論ヴァイスに直撃などしていないが(それでも破片は飛んだ。飛んだが、障壁で全て防御している)、それでも荒っぽいこのやり方には、優雅さなど欠片も無い。

「うふふふ……♪」


 そう。

 あるのは、愉悦だけだ。


(ミサキ殿下、ある意味私と似た部分がございますのね。話が合いそうですわ。

 もっとも、になりそうですけれど……少なくとも今は、味方として精一杯、戦わせていただきますわ)

 迫る猿人とトカゲ人間を次々と屠るヴァイスは、ようやっと、中枢部へとたどり着いたのであった。


     *


「どけ、エイども! てめえらに用はぇ!」

 自由自在に操ったの尻尾でレーブル級七隻を屠った龍野は、尻尾を一本に束ねると、更にバーダクライド級へと迫っていた。

「てめえかクソ野郎が! 俺が相手だ!」

『龍野、待って!』

『なっ!?』

 突如として、ディノが龍野の勢いを止める。

 そう。


 バーダクライド級の主砲が、アルマガルム・アークエグゼを向いていたからだ。


「おいおい本気かよ、この向き――」

『うん、オレ達が世話になった拠点だよ龍野!』

『クソッ……俺が、俺達が、盾になるしかねえのかよ……ッ!』

 龍野は歯噛みするが、アルマガルム・アークエグゼを主砲の前に向かわせた。


 けれどディノは、動きは止めず、ただ龍野の言葉を否定した。

『ううん、違うよ龍野』


『何だよ?』

『君だけじゃない。アルマガルム・アークエグゼのオレがいる。下で戦ってるがいる。

 そして何より――


 ヴァイスさんが、君にはいる』


 その言葉が、龍野の中に温かな熱を差し出した。

『だから、君だけじゃない。オレも一緒に、守るよ』

『ああ…………そうだな! じゃあ、全力出してもらうぜアルマガルム・アークエグゼ、いやディノッ!』

『うんっ!』


 そして、龍野がイメージを展開する。

 その直後、バーダクライド級の主砲が火を噴いた。


     *


「くぅ……ッ!」

 地上でバートラス達を排除していた武蔵とリーゼロッテ、玲香、ハーゲンは、再び放たれたバーダクライド級の主砲を見て、歯噛みしていた。

「あぁ、龍野達の拠点が……!」

「ネーゼ様……申し訳、ございません……」

『何を言っているの、ハーゲン?』

 と、ネーゼが精神会話をハーゲンに仕掛ける。

『ネ、ネーゼ様!?』

『世話になったお屋敷は無事よ、ハーゲン。見てみなさい』

 ネーゼの言われるままに、しかしバートラス達から注意は外さず――ハーゲンは、屋敷を見た。


 そこには、淡い光のドームが存在していた。


(……!?)

 いや、それだけではない。

 ハーゲン達の機体周囲にもまた、ドーム、いや球体が存在していたのだ。

『こ、これ、は……!?』

『我らが守護神のご加護よ。それにしても、まさかこのような所で……』


 ネーゼはアルマガルムの力を目の当たりにして、ただ茫然としていた。

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