vs 宇宙戦艦バーダクライド(その1)

「何だ!?」

 耳障りな轟音に、飛び起きる龍野。

「確認しましょう。龍野君、ついてきて」

 ヴァイスは膝枕の任を解かれると同時に、龍野をモニタールームへ案内した。


「おい、何だよアレ……」

 モニタールームに到着早々、龍野が愕然とした。



 そこには、三葉虫を想起させる巨大なナニカが、堂々とその姿を晒していた。



「分からないわ」

 ヴァイスは嘆息混じりに、現状を淡々と答えた。

「データが一切無いもの。

 けれどこれだけは言えるわ。


 アレを放置していては、私達どころかこの戦場全体が跡形も無くなるわね」


 ヴァイスの“死亡宣告”を受けた龍野は、ただ絶句する他無かった。


「ッ、お姉様! アレを!」


 と、シュシュの指示でモニターを見る。

 三葉虫が、小型のナニカを無数にばら撒いた。まるで、卵を産むように。


 その光景に危機感を抱いたヴァイスは、龍野を連れてすぐに屋敷へと戻る。

 そして居合わせた全員に、出せる限りの声で指示を出した。

「稼働可能な機体や戦力は全て出撃! 高高度に巨大な三葉虫と思しき物体を発見しました、先ほどの攻撃の発射源です! 放置しては、わたくし達は全滅します!」


 と、それを聞いたアルマ帝国陣営が眉を顰める。

「もしかして、それは“超戦艦バーダクライド”級では?」

 口を開いたのはネーゼだ。

「三葉虫の外見と言えば、思い当たる兵器はそれしかありません」

「その情報、わたくしとモニタールームのシュシュに詳しく教えていただけますか?」

「はい。皆様、心苦しい限りなのですが、わたくしは後方に徹します。ハーゲン少尉」

 ネーゼがハーゲンを呼びつける。

「はっ」

 ハーゲンが、ネーゼに向き直る。それを見たネーゼは、ハーゲンの瞳をまっすぐ見据え、告げた。


「わたくしのリナリアを預けます。皆様をお守りしてください」


「喜んで、お引き受けいたします」

 ハーゲンは見事な敬礼をすると、ゆっくりと引き下がり、ネーゼ専用リナリアへと駆けていった。

「では皆様も、各々の機体に! ララさん、貴女は生身で戦ってくださいませ!」

「はい、ネーゼ姉さま!」

 ララが駆けると同時に、居合わせた全員が準備を終えた。


     *


「おいおい、冗談かよ……」

 シュヴァルツリッター・ツヴァイに搭乗した龍野は、冗談のような光景に愕然とする。



 鳥、いやブーメラン達が、空を飛びまわっていたのだ。



『けど、さっきのどでかいのをブチかました三葉虫は、こいつら以上に厄介な存在だぜ……!』

『そうだね……。ところで、何だかボク、面白く感じてきたよ……!』

『悠長だな、遠山准尉。だが、その心意気、買おう』

 シュヴァルツリッター・ツヴァイの脇に立つダイバリオンと朱のリナリアが、眼前の“絶望”を見据える。

『諸君、聞こえるか?』

 と、女性の声が響いた。

『これより本艦ケイオンは、後方支援を行う』

 凛とした声が、屋敷の周囲に響く。艦長の女性エリザ・ローレンツの声だ。

『ネーゼ殿下のご命令で、動く事は叶わない。諸君、上空を飛行中のバートラスブーメラン達を適宜撃破しつつ、バーダクライド級を沈黙させてくれ』

『『了解!』』

 拠点である屋敷を防衛するように、集った全ての機体が、北向きの半周をぐるりと囲う。

 そして迫るバートラス達を撃破しながら、徐々に戦線を押し上げていった。


     *


 その頃、モニタールームでは。

「この数……出せるバートラスを全て出したのでしょうか? マユさん」

 ヴァイス、シュシュ、ネーゼ、マユ、ミサキは、戦況に焦りを覚えていた。

「おそらくは。ララさんが多数葬ってくれていますが、いかんせん数が……」

「(数?)シュシュ、バーダクライド級の周囲を映して!」

 何かに気づいたヴァイスが、シュシュにモニター画面の変更を依頼する。


 そこには、多数の銀色のエイ、それに黒いサメが三葉虫に合流しようとする様子が映っていた。


「まさか、この戦場を全て……」

 マユが唾を呑み込む。

「!」

 と、その場の全員が、眩い光に意識を向ける。



 龍野が“レジェンド”へ行った時に回収した容器――正確には、中にある手紙――が、光を放ち始めたのであった。



作者からの追伸


 さて、長らくお待たせ致しました。


 いい加減、この冗談のような戦争に決着を付けるといたしましょう!

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