vs ララ・アルマ・バーンスタイン

「ではこれより、


『“ヴァレンティア王国が騎士”須王龍野』対

『“アルマ帝国が最強戦力”ララ・アルマ・バーンスタイン』


 以上二名による対決を始める!」


 ヴァイスが氷剣の切っ先を地面に突き立てながら、高らかに宣誓する。

 龍野とララの間に、紫電がはしった。アルマ帝国の面々がざわめく。

(ララさん、思いがけず本気を出す気配ね。どう見ますか、マユさん?)

(ええ。あの須王龍野という騎士の体を心配します)

「ぴよよ、ぴーよ!(ララさんが勝つに決まっているでしょう!)」

「おいおい、大丈夫か龍野?(御前試合で私を蹂躙されたお方だぞ……!)」

「心配になりますね、ハーゲン。相手はあのララ様ですよ? 鋼鉄人形や戦闘人形に乗っても勝てねえのに、パンゼみてえなパワードスーツくらいで……」


 そんなアルマ帝国の面々の様子を、ヴァイスは静かに聞いていた。

(まあ、当然の反応ね。前評判を圧倒的に上回るお力で、ララ殿下はこれまで戦ってきていらっしゃった。くらいですもの。。さあ龍野君、全力でぶつかって、貴方の持つ金剛の石を磨き上げなさいな)

 ヴァイスは氷剣を握る手に力を込めながら、龍野の戦いを見ていた。


     *


つえぇ……! しかもテレポートありかよ、あっという間に障壁が軋みやがった!)

 龍野はララの初撃をいなすも、脂汗をにじませる。

 漆黒の鎧を纏ってこそいるが、最早装甲としての役割を期待してはいなかった。

(おまけに一瞬でカーボナードの剣が砕け散っちまった……。しゃあない、魔術戦で対処するか!)

 素早く思考を切り替え、龍野は右手をかざす。


 一方のララも、多少表情に緊張を宿していた。

(どの程度か試す為に少々本気を出したが……やはりというか何と言うか、いなされてしまった。剣とバリアのようなものを砕いたが、少々力及ばなかったか……いや、これ以上は考えるまい。だが、あれでいっぱいいっぱいのようだな。仕方ない、一つ揉んでやる必要があるな……! おっと?)

 龍野の挙動を不審がったララは、素早くダッシュする。

(ッ!)

 が、素早く跳躍して回避した。

 次の瞬間、カーボナードの塊が次々とララのいた空間を通り抜けた。


     *


(外したか……)

 龍野は素早く魔力を噴射し、大剣を再生成する。

(おっと!)

 爆発的な速度で迫るララを、魔力の噴射方向を微調整して回避する。

 が、ララの振るった拳が、龍野の鎧の右肩のパーツを掠った。


 次の瞬間、右腕全体の装甲が砕け散った。

 右胸部や右腹部に亀裂が及びすらしている。


「あっぶねぇ……!」

 これには思わず、龍野も叫び出した。

 無理もない。今までそうそう貫かれなかった装甲を、いとも容易く粉砕されたのだから。

(けど、邪魔だからって脱ぐ訳にもいかねえんだよな……!)




 そう。

 龍野の纏っている鎧はただの鎧ではなく、魔術で組み上げた鎧だ。剣先から光条レーザーを放つ攻撃があるが、あの照準や未来予測などを行い、必要とあらば体を姿

 勿論遠距離攻撃だけに特化している訳ではない。兜のアイバイザーから見る視界は、「巨大ロボットのコクピットモニター」のそれである。つまり遠距離は勿論の事、近距離でも敵との距離や仕掛けられた攻撃の方向を予測して回避をアナウンスする機能などが備えられている。

 それだけならば「兜だけ装備していればいいだろう」と思うだろうが、最大の特性が一つだけある。それは「兜と鎧はワンセットで分離不可」という特性である。




「ぐっ……!(魔力より先に体力が尽きるぜクソ……! 何なんだよこの重さは……!)」

 だからこそ、装甲は勿論だが、構成自体がガタガタになっても、自分から鎧兜を脱ぐ訳にはいかないのだ。

(けど、パターンは掴んだ……! やっぱアレだな、瞬間瞬間で加速してやがる……!)

 ここに来てようやく、龍野の思考が回り始める。

 ララの圧倒的な攻撃力は、龍野の推察通り、「攻撃直前の加速」を用いたものだ。速度をそのまま拳に乗せ、一撃で相手を粉砕するララのスタイルは、数手凌げば見破れる事であった(そもそも通常なら、数手あれば完全に決着が付いている)。

(となると……待てよ、加速中に方向転換って、出来んのか? ッ!)

 龍野の疑問に対し、「試してみろ」と言わんばかりのタイミングでララからの攻撃が迫る。

(やってみっか……!)

 素早く重量調節グラビティを発動し、全身の重量を0gにする。

 接地している左足から魔力を噴射し、ララと斜めにすれ違って回避する。

(やっぱ、難しいみてえ……ぐっ!?)

 が、衝撃が龍野の左肩を襲った。

(なっ……何だ、よ!?)

 目線を向ければ、ララが空中でを振り抜いていた。

 更に、砕けた装甲も視界に映った。

いてぇ……ッ! 小細工は無駄だな……なら!)

 龍野は態勢を整えると、すぐさま呼吸を整える。無駄な力を抜き、一点に集中する為だ。


(む?)

 ララもまた、龍野の気配が変わった事に気づいた。

(成程な。覚悟を決めたか。ならば私も、それに応じなくてはな!)

 真正面に龍野を見据え、拳を握りしめる。正拳突きの拳だ。

(さぁ……来い!)

 目の前の勇士りゅうやに意識を集中させ、呼吸を整えた――。




「行くぞオラァ!」

 龍野は自らを奮い立たせる為に、叫び、拳を構える。

「来い、ヴァレンティアの騎士よ……!」

 ララも迎撃の構えを取る。

「はぁああああああッ!」

「今――ッ!」


 互いの拳が、正面から激突する。


「ぐっ……!」

「くっ……」

 互いの力の衝撃に、お互いがうめいた。

「だが……俺はッ!」

「その意気や良し! 全力で来いッ!」

 二人が更に、拳を押し込まんとし――


「そこまで! 双方武器を収めなさい!」


 ヴァイスの声で、素早く構えを解いた。

「お疲れ様でした、お二方。この後は、ごゆるりとお休みくださいませ」

 ヴァイスが二人に歩み寄り、微笑みとねぎらいの言葉を掛ける。

「ちょ、ちょっと待てよヴァイス!」

 が、龍野が食ってかかった。

「なあ、どういう理由で、このタイミングで止めたんだ?」

「あら」

 ヴァイスが微笑みを崩さぬまま、龍野に迫る。

 そして龍野の顔をまっすぐ見据えると、豊かな胸を押し当てつつ、静かにこう告げた。


。わかるかしら?」


「あ、ああ……」

『まあ龍野君の気持ちもわかるのですけれどね』

 突如念話に切り替え、公言するには憚られる事を伝えるヴァイス。

『けれど、それでも今回は止めさせてもらったわ。無理に必要も無いはずよ』

『そうだな。変に恨みを残すワケにもいかねえし、な』

 ヴァイスの言わんとする事を納得した龍野は、部屋へ向かう事となった。

「ん、そうだ龍野君」

「何だ?」


「私を膝枕か、抱き枕にしていいわよ?」


「ハァッ!?」

「あら、不満かしら?」

「いや不満じゃねぇが! 不満……じゃねぇ、が……」

 ヴァイスと再会して一年。

 龍野は未だに、ヴァイスおとめの心を掴みかねていた。


     *


「ふうっ、終わった終わった。マユ姉さま、バケツプリンはありませんか?」

「あら、随分と食べるのですねララさん」

 一方のララもまた、自らの体を休める事にした。

 もっともララからすれば、この龍野との戦いは、腕立て連続20回程度の運動でしかなかったが。

「わたくしも、ご一緒させていただいても?」

 そこにネーゼも加わる。

「いいですわね、ネーゼお姉様。姉妹三人で――」


「四人ですわよ」


 更に、いつの間にかいたミサキ――アルマ帝国第三皇女、ミサキ・アルマ・ホルスト――も加わる。

「あら、いたのねミサキさん」

 ネーゼは驚く素振りも見せず、ただ言った。

「ええ、ネーゼお姉さま。ヴァイスシルト殿下がフロストマシーンS号吹雪野郎を撃破してくださった時には、既にこの屋敷にいさせてもらいましたわ」

「となるとミサキお姉さま。私がヴァイスリッター・アインに運ばれた時には、来られていた、と?」

「ええ。それよりも四人で、バケツプリンを食べるとしましょうか」

「いえ、わたくしは――」

「私もちょっと、このサイズは――」

 ネーゼとマユの表情が青ざめる。


 そこには、のバケツプリンが2つ、既に準備されていた。


「ソフィア、ネーゼ姉さまとマユ姉さま用のプリンを」

「かしこまりました」

 そんな二人に配慮しつつも、きっちりプリンを“皇女四人で”食べようとするララであった。


「ぴよよ!(まったくもう、ララさんの体躯たいくに似合わないプリンだなあ。私なら10個くらいは食べられるけれど、ララさんだったら15個は軽いんだろうなあ)」

 そんな様子を間近で見ていたヒナ子もまた、嬉しそうにアルゴルの干物をついばむのであった。



作者からの追伸


 はい、コラボの記念に対決させました。

 もっとも、ララ様に全力を出されると、戦場全域が跡形も無く消滅しそうでしたので、何とか全力の1億分の1に手加減してもらいましたが。

 いつもイジられている溜飲を下げようと思ったのですが、果たしてララ様は……ん、何かリズミカルな破裂音が聞こえるな?


---


ララ

「このっ、このっ! ああまったくもう、憂さが晴れんではないか!(ブランシュとグレイスの尻をひっぱたきつつ。なお、手が真っ赤)」


ブランシュ

「あぁっ、叔母様ぁ❤(恍惚の表情。なお、尻が真っ赤)」


グレイス

「もっと、もっとぉ❤(恍惚の表情。なお、尻が真っ赤)」



(部屋の外にて)



ブレイバ(ブランシュの夫)

「まずくないか、あれ? なあ、ハルト君」


ハルトムート・ゼクス(グレイスの婚約者)

「これは間違いなくまずいですね、義父とうさん。姫様(グレイス)のお尻と性欲が、大爆発しそうです」


ブレイバ

「僕の姫様(ブランシュ)もまた、同じような感じなんだよ。早く何とかしてあげたいんだ。ねえ、そこの仮面の……」


仮面の男(有原)

「うん、まずいどころの騒ぎじゃありませんねお二方。緊急事態です。ですから私はララ様を、ここに運んできた特大プリン(バケツプリンより更に一回り大きいシロモノ。給食用ワゴンの上に乗っている)でおびき寄せます。二人はその間に各々のパートナー姫様を部屋に担ぎこんで、あげてください」


ブレイバ

「わかった!」


ハルトムート

「姫様(グレイス)、今助けます!」


仮面の男(有原)

スリートゥーワン……Goゴー!」



(部屋の中)



ララ

「む、これはプリンの匂い……! どこだ!」


ブレイバ

「(小声で)今だ、ハルト君!」


ハルトムート

「(小声で)はい、義父さん!」


ブランシュ

「あっ、叔母様……あら、騎士様(ブレイバ)?(蕩けきった表情)」


グレイス

「ああっ、大叔母様……あっ、騎士様(ハルトムート)!(蕩けきった表情)」



(先ほどの部屋より、100m離れた別の部屋にて)



仮面の男(有原)

「はい、ララ様。プリンでございます(さて、頼むから救出活動を終えていてくれよ……!)」


ララ

「ふん! お前から施しを受けるというのは……(目がキラキラしている)。いただきます! んん~っ、美味しい~♪」


仮面の男(有原)

(しかしこの表情……。こりゃあ帝国全土やブランシュ、グレイスが抱き枕にしたくなる訳だ。可愛い)


---


 リズミカルな破裂音の正体は、ララ様の憂さ晴らしによる「尻への連続ビンタ」でした。

 まあこんな男有原におもちゃにされているのですから(例:『くっころ』抱き枕)、そりゃあ憂さも溜まるでしょうね、フフフ。


 今回はいろいろと、カオスな一話となりました。

 次回も別の意味で、カオスになりそうです。

 では、今回はここまで!

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