vs エクスクルード(戦闘者:ヴァイス&ヴァイスリッター・アイン)

「さて、ここまで戻ったわね」

 引き続き“ストライカー改”と“ハウリング”を装備ままフロストマシーンS号を屠った場所まで戻ったヴァイスは、周囲を見回す。

(……あら? 妙にぼやけて見える箇所があるわね……)

 発生源を仕留めたとはいえ、未だに吹雪は止まなかった。

 その中に、僅かな違和感を感じるヴァイスである。

(何かしら……)

『お姉様、回避を!』

『ッ!』

 キラリと光るものを見た直後、ヴァイスリッター・アインが飛翔した。


 その直後、何かが白煙を引いて通り抜けた。


(やはり、ね)

 ヴァイスリッター・アインの背後で、派手な爆発が起こる。

「どなたかしら? 名乗りなさい、狼藉者よ」

 “何か”が飛んできた方向に、“ストライカー改”の銃口を向けて告げるヴァイス。

 と、吹雪から声が響いた。


『フフハハハハ……実によく映える機体だな、そいつは』


『ドクター・ノイベルト!』

『おや、私を知っているのか?』

『ええ。既に戦いましたからね』

『ならば話は早い。勝負せよ、白き機体よ!』

 エクスクルードがメイスを構え、ヴァイスに、ヴァイスリッター・アインに呼びかける。

『勿論、お引き受けいたしますわ。お覚悟、よろしくて?』

 ヴァイスもまた、その呼びかけに答える。ご丁寧に、機体に剣礼(剣先を上に向け、眼前に捧げ持つ事)をさせて、だ。

「ただいま、J陣営の“ヴァイスシルト・リリア・ヴァレンティア並びにヴァイスリッター・アイン”と、❤陣営の“エクスクルード並びにドクター・ノイベルト”との決闘が成立いたしました。繰り返します。ただいま、J陣営の“ヴァイスシルト・リリア・ヴァレンティア並びにヴァイスリッター・アイン”と、❤陣営の“エクスクルード並びにドクター・ノイベルト”との決闘が成立いたしました。これよりカウントダウンを開始いたします。5, 4, 3...」

『「二度あることは三度ある」。よくもまあ、言ったものですわね』

『ああ。では、その機体を頂くとしよう』

『わたくしに勝ってからになさいな(見辛いですわね……。霊力を頼りに、位置を探るといたしましょうか)』

「2, 1, 0! 決闘開始!」


     *


 その頃、オペレータールームでは。

『進藤少尉、並びに遠山准尉。お姉様の所まで、出撃してくださいまし』

 シュシュが手を回していた。

『請け負った。しかし、“デュエル”には介入出来ないのでは?』

『元よりそうしていただくつもりはありませんわ。ただ……』

『ただ?』

『少々嫌な予感がしますの。兄卑は今、戦闘には行けませんし……』

 シュシュは苦々しく、言葉を紡ぐ。

『それならおっけー! ボクもダイバリオンも、そろそろ動きたかったんだ!』

 しかし玲香は、喜色満面といった様子で叫んだ。

『ところでシュシュ。おれの機体は、リーゼロッテの……リズとの戦闘で壊れていたはずなのだが?』

『ああ、それでしたらアルマ帝国の皆様に直していただきましたわ』

 シュシュはあっけらかんと告げた。

『それも、“二人乗り”に、ね。曰く、「失った時間を取り戻す為の装備」というものですわ』

『……』

 武蔵はしばし沈黙したが、やがて納得したように口を開いた。

『ならば行くとしよう。生まれ変わった“漆黒”の力、とくと見せてもらうとしようか!』

 武蔵は再び、自らの相棒を乗る事を楽しみにしていた。

『ムサシ! これからは改めて、よろしく頼むわね!』

 モニターの向こうでは、今や再び恋仲――そして龍野達の味方――となったリーゼロッテ・ヴィルシュテッターが笑っていた。

『では皆様、お願いしますわね』

 それを見届けたシュシュは、最後にそう告げてから通信を打ち切った。


     *


『参りますわ。お覚悟を』

 開始早々、ヴァイスが仕掛ける。

 “ストライカー改”の連射だ。

『フッ、愚かな……』

 エクスクルードに回避の動きは見られない。

 当然、弾丸は次々と命中する。

(どういう、事かしら……?)

 微動だにしないエクスクルードを見て、ヴァイスは訝しむ。

『フフハハハハ! 流石は私のエクスクルードだ、平然としているではないか!』

 ノイベルトは呵々大笑かかたいしょうといった様子である。

(重装甲、それに霊力による装甲強化ね……。道理で避けないはずだわ)

 “ストライカー改”は無効。

 それを察したヴァイスは素早く投棄を決定し、“ハウリング”に切り替える。

(彼我の距離は十分……。そして残弾は5。今の内に、撃ち尽くすとしましょうか。その機体の装甲がどれほどもつのか、見物ね)

 魔術師であるヴァイスだが、実弾兵器の利用は惜しまない。

『爆ぜなさい』

 その言葉と同時に、“ハウリング”が五度咆える。

 そして、エクスクルードの周囲に、そしてエクスクルードに、鮮やかな爆炎が広がった。

(さて……どうかしらね?)

 250mm弾が5発。並みの機体なら、いや下手をすれば軍用艦クラスでも沈むシロモノだ。

 ヴァイスの目に愉悦などは無く、ただ目の前の光景が映っている。

(もっとも、もう結果はいるのですけれど、ね)

 ヴァイスは撃ち尽くした“ハウリング”を捨て、氷剣を構える。


 爆炎が晴れた先には――無傷のエクスクルードがいた。


『つまらん手を打つものだな』

『あら、花火を眺めたくなっただけですわよ』

 軽口を叩きつつ、牽制の光条レーザーを連射する。

『はぁあっ!』

 そのまますれ違いざまに、斬撃を叩き込む。当然、魔力を纏わせた攻撃だ。

『弱いな』

 だが、やはりエクスクルードには大したダメージは見られない。僅かに傷が付いたものの、戦闘継続には何の支障も無かった。

『では、私もそろそろ反撃させていただくとしよう』

 メイスを構え、接近戦の体勢を取るエクスクルード。

『見せていただこうかしら?』

 ヴァイスもまた、エクスクルードに高速で接近する。が――

『!? !?』

 氷剣を振り抜くコンマ一秒前、エクスクルードが消えた。

『ぐぅっ!』

 その直後、ヴァイスを強烈な振動が襲う。

 霊力を纏ったメイスの一撃が、ヴァイスリッター・アインを捉えていた。

『もう一撃!』

 再びメイスが振るわれ、ヴァイスリッター・アインの翼をもぎ取る。飛翔用のブースターが砕け落ちた。

『お、お姉様……!』

『大丈夫よ、シュシュ。まだ動けるわ(障壁すら粉砕する!? 恐るべき膂力ね……!)』

 だが、三度は許さない。

 魔力を脚部から噴射し、ヴァイスリッター・アインは強引に距離を取った。

『正面戦闘では勝ち目は無いわね』

 ヴァイスが毒づくが、表情は笑みに満ちていた。

『お褒めの言葉、感謝しよう。ヴァイスシルト殿下』

『いえいえ。ところで、?』

 ヴァイスの体の周囲に、魔力の粒子が舞い始める。

 同時に、砕かれたブースターからも魔力の粒子が舞う。ブースターは、徐々にその形状を崩していた。

『待て、どなたも何も、……なっ!?』

『お、お姉様……!?』

 シュシュとノイベルトが揃って動揺する。

 無理もない。


 ヴァイスは残骸とはいえ自らの機体だった一部を削り、魔力とせんとしているのだから。


『さあ、“本物”の力、その目に焼き付けなさい……!』

 ヴァイスリッター・アインが両手を前に差し出すと、エクスクルードの足元に巨大な魔法陣が展開される。

『「この世にあまねく満ちるものよ、私に力をお貸しなさい。今は固く鋭い氷として」』

 と、魔法陣に変化が生じ始める。氷が生成され、エクスクルードの足を覆い始めたのであった。

『何だ!?』

『「忌むべきものを封じなさい。とこしえに、この地へと」……!』

 エクスクルードが、徐々に氷に覆われ始める。

『!? 何、を――』

 それがドクター・ノイベルトの最期の言葉となった。

 しかし、まだ決着は付いていない。

『仕上げですわね』

 ヴァイスはヴァイスリッター・アインを歩ませると、エクスクルードを閉じ込めた氷へと接触させる。

(固く、脆く……生まれ変わりなさい)

 自らの能力を用い、エクスクルードを包む氷を、脆弱なものへと変えた。

 そして――

『さようなら』

 魔術を解除して氷を砕くと同時に、エクスクルードに斬撃を叩き込む。

 低温による脆性を引き起こしたエクスクルードに、氷剣は耐えきれなかった。胸部を真一文字に両断され、二つに分断し――着地と同時に、バラバラに砕け散った。

「決闘終了。勝者、“ヴァイスシルト・リリア・ヴァレンティア並びにヴァイスリッター・アイン”。繰り返します。勝者、“ヴァイスシルト・リリア・ヴァレンティア並びにヴァイスリッター・アイン”。これにより、J陣営に1のアグニカポイントが付与されました」

『ふうっ……終わったわね』

 “目的達成の為に利用できるものは全て用いる”――それがヴァイスの信条だ。彼女は女神ではなく、将来の王である。その心構えで戦ったに過ぎなかった。

『けれど……この損耗では、最早戦闘続行は不可能ね……』

 ヴァイスは帰還も忘れ、シートにへたり込む。

『だ……大丈夫ですか、お姉様……?』

 と、シュシュから声が響いた。

『大丈夫よ……。機体も私も無事だから、見守っていてちょうだいな(と言っても、今晩には龍野君に魔力の補給を頼むでしょうね。この子ヴァイスリッター・アインから魔力を分けてもらっていなければ、今頃死ぬ一歩手前だったわね……)』

 その時、シュシュが息を呑んだ。

『ッ、お姉様……! 上を!』

 シュシュの指示で上を向くヴァイス。

 その時――ヴァイスリッター・アインのすぐ脇で、白煙が上がった。

『ぐぅっ……!』

 ヴァイスの視界には、凄まじい数の機動兵器が映っていた。

 あらゆる種類の機体が集まり、虹に似た彩りを見せている。

(今のこの子ヴァイスリッター・アインでは、戦闘は不可能……。逃走するにしても、大した速度は出せず、背中を集中攻撃される……。これはいよいよ、といった所ね。『カンパニー』から恨みを買い過ぎたかしら?)

『この機体群……! ♠️の改造型量産機……!』

 そう。

 異世界であるベルグリーズより集められた――おまけに原型機とは比較にならないレベルまで性能上昇の改造を施された――機体群が、ヴァイスを抹殺せんと集まっていた。

『お、お姉様……!』

『私はまだ諦めていないわよ?』

 ヴァイスが視線を移すと、ブースターの残骸が残っていた。

(とはいえ、この量では目くらまし程度の拡散しか出来なさそうね)

 しかし動かなくては始まらない。

 ヴァイスはブースターから魔力を受け取ろうと、意識を集中させ――


『待たせたな!』

『ボクのダイバリオンの出番だね!』


 ダイバリオンと漆黒の機体が、敵機群に突っ込んだ。

「え……?」

 ヴァイスは思わず、気の抜けた声を発していた。

(ダイバリオンは私が手掛けた機体……見覚えはあるわ。けれどあちらの黒い機体は何? 龍野君の“シュヴァルツリッター・ツヴァイ”でなければ、進藤少尉の“漆黒”でもない。あれは、一体……?)

 ヴァイスが茫然としている間にも、飛び入りの二機は瞬く間に敵機を殲滅していく。

『とどめだ!』

 漆黒の機体が大剣を突き立て、最後の一機を爆散させた。

『ふうっ、これで全部だね!』

『終わったわね、ムサシ』

『ああ。大丈夫か、ヴァイス?』

 2機から、の声が聞こえてきた。

『ええ。けれど拠点に戻るには、少々不都合が生じたわ。出来れば両脇から、抱えてほしいですわね(皆様……ありがとうございます)』

『わかったよ、姫様』

『承知した』

 ダイバリオンと漆黒の機体がヴァイスリッター・アインを抱えると、そのまま南へ向けて飛翔して行った。

(まさか……。シュシュ、貴女が二人、いえ三人を差し向けたというの?)

 ヴァイスは脱力した体をシートに預けながら、シュシュへの疑問を浮かべていた。



作者からの追伸


 有原です。

 久々に顔を出させるという事で、遠山准尉とダイバリオン、そして進藤少尉とリーゼロッテ少佐、加えて謎の機体を登場させました。


 謎の機体の正体ですが、次回発表いたします。

 では、今回はここまで! この後はショートバージョンの寸劇です。


     *


ブレイバ

「またかい、姫様(ちっさいララ様を抱き枕にして、頭を撫でてる……。それにしても、ララ様は気持ちよさそうに眠ってるなあ。何だかんだ言っても、姫様の体温や胸は落ち着くんだね)」


ブランシュ

「うふふ、叔母様……。もっとわたくしに甘えても、よろしいのですよ?」


ララ

「すぅ、すぅ……(何だろう、立場は私が上のはずなのに、どうもバカ姪ブランシュを前にするとその自覚が消し飛ぶ)」


ブレイバ

「さてと、僕は父さんに稽古をつけてもらうかな。それにしても、皇帝陛下になられてからは、随分と稽古をつけてもらう機会が減ったね……。まあ当然か」


---


ミサキ

「あらあら。羨ましいですわね、ララさん。私も、ブランシュさんの胸を枕に眠ってみたいですわ(法術で盗み見ていた)」

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