預入請負

「……あら?」

 龍野がエリダーナ・セイバーを撃破した直後、一度ホテルから屋敷へと戻ったヴァイスは不思議なものを見た。

「こやっ、こやっ、こやっ。これはこれは、世話になっておるのう家主殿」

「あら、お早いお帰りで」

「ああ、少しあの黒騎士シュヴァルツリッター・ツヴァイの動きを真似てみての! こやっ、こやっ、こやっ!」

「うふふ、それはそれは。ところで、少し後ろを見ていただいても?」

「んや?」

 眞白に後ろを向かせるヴァイス。


 そこには、5機のロボットとそれに守られた避難民一行がいた。


「あの皆様……。もしや貴女が、お連れになったのですか?」

「し、知らんぞ!」

 覚えの無い眞白はうろたえ、必死に無実を証明しようとする。

「あら、お困りでしょうかヴァイスシルト殿下?」

 と、そこにネーゼが現れた。

「ネーゼ殿下……」

「まだ確認は取れておりませんが、わたくしでしたら戦力を待機させますわよ? 既に遠山准尉に、“ダイバリオン”という機体に搭乗させておりますわ」

「ええ。けれど、まずは目的を確認する必要がありますわ。直接出向かせていただきます」

「うふふ、止める為に話しかけたのではありませんわ。では、わたくしは万が一の為に、リナリアを召喚させていただきます」

「何かあった際は、お願いいたします。ネーゼ殿下」

「勿論ですわ、ヴァイスシルト殿下」

 そして二人の姫殿下は、各々の準備を始めた。


「皆様、わたくしはヴァイスシルト・リリア・ヴァレンティアと申します。如何なる用で参られたか、おはなししていただけますでしょうか?」

 たった一人で――実際は朱のリナリアとダイバリオンに守られた状態であるが――、堂々と避難民達の前に立ったヴァイス。

 と、目の前に筋骨隆々のが現れた。

「みんなを、助けてあげてほしい」

 低い、けれどまっすぐな声で、ヴァイスに伝える。

 それを受け止めたヴァイスは、ネーゼに念話で確認した。

『あの人が代表のようですね。嘘や害意は感じ取れますでしょうか、ネーゼ殿下?』

『一切感じられません。少し時間を稼いで下さい、今からアレをこちらへ差し向けます』

『ありがとうございます、殿下』

 念話を終えたヴァイスは、その女性に向き直った。

「わかりました。ですが、生憎屋敷はいっぱいです。こちらとしても助けたいのですが……一時預け入れさせていただく、という事でよろしいでしょうか、代表様?」

「うん。ところで、わたしは“代表”じゃない」

「あら?」

「ファラ。わたしのなまえ」

「これは失礼いたしました、ファラ様(さて、どこまで時間を稼げるかしら……ってあら、早いわね)」

 振動を感じ取ったヴァイスは、もう十分と判断した。

「では、に一時留まっていただく、という事で」

 ヴァイスが何も無い空間を指し示す。


 その直後、地中から戦艦……いや、特殊艦ケイオンが出現した。


「!?」

 避難民達が騒然とする。

「皆様、落ち着いて!」

「大丈夫です、敵意はありません」

「ほら、ネロもこう言ってるから!」

「あの女性の言ってる事に嘘はねえ! 俺が断言する!」

「だから、早くあそこにいこーよ! 僕が、僕達が守るから!」

 周囲を固めていた5機が、口々に避難民を落ち着かせ、誘導させる。

 しかし、これだけ早く話しているのに、避難民達は不思議と落ち着きを取り戻し始めた。

 その様子を見たヴァイスは、微笑みを浮かべる。

「ご理解いただき、ありがとうございます(あら、最近の機体は会話出来るのね。驚きたいところですが、ここでは触れない事にいたしましょうか)」

 それに続き、ネーゼも話を続ける。

「では、皆様。こちらへ」

 ネーゼがリナリアで、避難民達を先導し始めた。

「わたしたちはいい。戦いがある」

 しかしファラを含む数人は、別の目的の為に留まっていた。


 十分後。

「終わりましたわ、ヴァイスシルト殿下」

 リナリアから降りたネーゼが、ヴァイスに話しかける。

「ありがとうございます、ネーゼ殿下。助かりましたわ」

 既に全員が保護されるか立ち去った後の平原を見たヴァイス。踵を返すと、二人揃って屋敷へと戻る。

 ヴァイスが玄関を閉め、リビングへ戻る。


 と、ハラリと紙が落ちた。


「あら、いけませんわ」

 手早くかがみ、拾い上げる。

「ヴァイスシルト殿下、それは?」

 と、手にした紙をネーゼが見つめた。

「これ、ですか。小さい時に、手慰みで書いた話です」

「読ませていただいても?」

「ええ。お気に召すかはわかりませんが……何なら、差し上げましょうか?(データは保存しているから、ね)」

「では、遠慮なく」

 ヴァイスが紙を手渡すと、ネーゼは自室へ向かって読みふけった。

 すると、機体の着地音が響いた。

「あら?」

 ヴァイスが玄関を開けて確認すると、そこにはシュヴァルツリッター・ツヴァイがいたのであった。



作者からの追伸


 依 頼 遂 行 と 伏 線 設 置 完 了 !

 有原です。


 南木様の依頼により、避難民達を保護いたしました。


 ああ、そうそう。

 ヴァイスがネーゼ様に手渡した原稿の中身ですが、リンクを貼っておきます。

 気になる方はどうぞ。


https://kakuyomu.jp/works/1177354054886969210


 では、今回はここまで!

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