vs ダンクル(戦闘者:シュシュ&ヴァイスリッター・ツヴァイ)
『シュシュ、どうしてここに?』
『交代という事よ、兄卑』
ヴァイスリッター・ツヴァイから響く声に、龍野はただ茫然としていた。見かねたディノがたしなめる。
「龍野、あの子の言葉に甘えなよ」
「ああ……。けど、一つだけ確認したい事がある」
ディノとの会話を一度止めると、龍野は念話でシュシュに確認した。
『なあ、シュシュ』
『何かしら?』
『“交代”って、どういうこった?』
『ああ、それね。お姉様からの命令よ。曰く、「シュシュ、龍野君の代わりに戦闘なさい。龍野君には、少し大事な用事があるから」とね』
『あいよ……(何となく察しちまったぜ……)』
『そういう事。早く撤退して』
『わかった』
念話が終わると同時に、シュヴァルツリッター・ツヴァイが南へと飛翔した。
*
「さて、行ったわね。お姉様曰く、『クリスタルレイク』に反応を探知したから、向かって頂戴』と。ではわたくしも、参りましょうか……」
数分後。
「反応はこの辺りね」
クリスタルレイクのギリギリにまで接近するシュシュ。
「え?」
と、視界に違和感を覚えた。
次の瞬間、ヴァイスリッター・ツヴァイを衝撃が襲った。
「な、何ですの!? やだっ、引きずり込まれる……!」
一瞬の内に、ヴァイスリッター・ツヴァイは湖底へと沈み始めた。
『シュシュ、聞こえるかしら?』
と、ヴァイスからの念話が飛んできた。
『何でしょうか、お姉様!?』
『ヴァイスリッター・ツヴァイの内部への浸水を懸念する必要は無いわ。もっとも、コクピット周辺に深刻な損傷を受ければ話は別ですけれど』
『わ、わかりました……』
『それに、水中での不利を心配する必要も無いわ。ただ、魔力の
『はい、お姉様!』
ヴァイスとの念話を終えたシュシュは、自らを、ヴァイスリッター・ツヴァイを水中に引きずり込んだ張本人を発見した。
『狼藉者は貴方ですわね! 決闘を申し込みますわ!』
拡声機能で告げると同時に、アナウンスが響く。
「ただいま、J陣営の“シュヴァルツシュヴェーアト・ローゼ・ヴァレンティア並びにヴァイスリッター・ツヴァイ”と、❤陣営の“カズヤ・ミツルギ、ショーコ・ミツルギ、マリコ・ミツルギ、並びにダンクル”との決闘が成立いたしました。繰り返します。ただいま、J陣営の“シュヴァルツシュヴェーアト・ローゼ・ヴァレンティア並びにヴァイスリッター・ツヴァイ”と、❤陣営の“カズヤ・ミツルギ、ショーコ・ミツルギ、マリコ・ミツルギ、並びにダンクル”との決闘が成立いたしました。これよりカウントダウンを開始いたします。5, 4, 3...」
『水中に引きずり込んだからと言って、勝てるなどと思わない事ですわね!』
ダンクルへの怒りをぶつけるシュシュ。
「2, 1, 0! 決闘開始!」
『先手必勝ですわよ!』
水中で魔力を噴射し、強引に加速する。
既存のあらゆる船舶でも出す事の叶わない速度で、ヴァイスリッター・ツヴァイは移動した(流石にマッハには到達していないが)。
*
「さて、うまく引きずり込んだな。ところであの白い機体に乗ってるのは女の子のようだけど、巨乳だろうか……イテッ!」
ダンクルの操縦士であるカズヤ・ミツルギは、ヴァイスリッター・ツヴァイを駆る者の姿を妄想しようとして蹴飛ばされる。
「変態兄貴。そんな事考えてる暇があるなら、ちゃんと動かしなさい!」
カズヤを蹴飛ばした張本人、マリコ・ミツルギは、自慢の胸を揺らしながら怒鳴りつける。
「やめてあげて、マリコちゃん。カズヤお兄ちゃん、攻撃は任せてね♪」
そんなカズヤを庇うのは、3人の中では真ん中の年齢であるショーコ・ミツルギであった。
「ところで、あの白騎士は? って、いたいた」
蹴飛ばされた後頭部をさすりながら、カズヤがヴァイスリッター・ツヴァイの位置を捕捉する。
「ショーコ、今だ」
「りょーかい。カズヤお兄ちゃん。やっちゃうよー♪」
ショーコがイメージを
「いっけー!」
8発の魚雷が、同時にヴァイスリッター・ツヴァイへと向かいはじめた。
*
「遅いですわね!」
だが、シュシュもただ水中を漂っているだけではない。
手持ちの大剣を向け、
「その程度!」
あっという間に、8発の魚雷は全滅した。
(とはいえ、流石に遠距離からの魔力照射は効果が薄くなりそうですわね……。やはり、接近して決着させるといたしましょうか!)
再び魔力を噴射し、ダンクルとの距離を詰め始めた。
*
「うわー、すごいよー! やられちゃった、カズヤお兄ちゃん」
「ショーコ姉さん、次は62cm(魚雷)を。幸い、あの白騎士は近づいて来てます(姉さん、今日も可愛い……。血を吸いたい、いやそうじゃなくて性的に食べたいよお……! 頼むから、早く撃沈されちゃってよ白騎士……!)」
脳内の妄想を必死に押しとどめながら、ショーコに
「仕留められるはずですが、もしダメでしたら……変態兄貴、覚悟はいいかしら?」
「“近づけ”ってんだろ? りょーかい」
マリコの冷静なオペレートに対し、素直に受け止めるカズヤ。
「撃っちゃうよー!」
そんな二人をよそに、ショーコは外付けの魚雷を6発放つ。同時に魚雷を搭載していたポッドを投棄した。
*
「厄介ですわね……!」
自ら被弾率の高い近距離まで近づく事となったシュシュは、毒づきつつも
5発は無力化したが、最後の1発を撃ち損ない、直撃を受けた。
「ぐっ……! けれど、この程度で障壁は貫けませんわよ……!」
そして氷剣の間合いに入る。
「覚悟!」
魔力を噴射し、素早く振り抜く――はずだったが、左手のクローに掴まれる。
「なっ!?」
驚愕するシュシュだが、右手のクローが迫る。
腕の中心からピックが伸び、ヴァイスリッター・ツヴァイを刺し貫かんと――
「くっ!」
素早く剣から手を放し、全速力で回り込む。
ダンクルの右手のクローは、虚しく水中を通り抜けた。
「ふう……どうにか回避しましたわね」
『シュシュ、連絡が遅れてごめんなさい』
と、ヴァイスからの通信が来た。
『お姉様?』
『背面に回り込んだわね。徒手空拳でいいわ、人間で言う肩甲骨の辺りに推進機関があるから破砕して!』
『わかりましたわ!』
爪先に魔力を纏わせ、一気に蹴り抜く。
ガヅンという鈍い音が響いた後、ダンクルの推進機関を沈黙させた。
「もう一撃!」
残った機関も、蹴り抜いて沈黙させる。
衝撃によってか、ダンクルが氷剣を取り落とした。
『よくやったわ、シュシュ! 操縦席は頭部よ……!』
『ありがとうございます、お姉様! さあ、その剣、返してもらいますわよ……!』
取り落とした氷剣を、急速潜航で回収するシュシュ。
『シュシュ、胸部には注意しなさい。ビーム砲が搭載されているわ。欲張らずに、後ろから仕留めるのよ』
『分かりました』
シュシュは素早く氷剣を回収すると、再び急速浮上する。
「終わりですわね!」
*
その頃、ダンクルのコクピットでは――
「クソ変態兄貴! 何やってんのよ!」
「仕方ねえだろもう、あんな強いなんて知らなかったんだよ!」
マリコがカズヤに食ってかかっていた。最早精神状態は最悪である。
「ふぇえ、もうビームしか無いよぉ……」
「それだ! 正面を向いてビームを撃てば……!」
「う……うん! ッ!?」
と、激しい振動が三人を襲った。
ダンクルの胸部を、氷剣が貫いていたのだ。
*
「さて、これで残すは――」
氷剣を引き抜き、頭部を狙うシュシュ。
『い……嫌! こんな所で……!』
(!?)
と、ダンクルから女性の声が聞こえた。
『死にたくない……! まだ十数年ぽっちしか生きてないのに……! クソ変態兄貴、あんたのせいよ!』
ドガッという音が聞こえる。
『ちょ、お前、何すんだよ!?』
男の声が聞こえるが、被さるようにアナウンスが響いた。
「決闘終了。勝者、“シュヴァルツシュヴェーアト・ローゼ・ヴァレンティア並びにヴァイスリッター・ツヴァイ”。繰り返します。勝者、“シュヴァルツシュヴェーアト・ローゼ・ヴァレンティア並びにヴァイスリッター・ツヴァイ”。これにより、J陣営に1のアグニカポイントが付与されました」
(何をやってるのかしら……。ところで、今の声はあの機体から、ですわよね?)
シュシュは慎重に、ダンクルに近づき始めた。
*
『あーあ……。マリコちゃん、やっちゃった』
『っ……! ショ、ショーコ姉さん……!』
もう一人の女性の声も聞こえる。最初に聞こえた声より幼い印象だ。
『って、おい、動かねえぞコイツ……!』
『沈むの……? カズヤお兄ちゃん……?』
『だ、大丈夫ですショーコ姉さん、水中用の機体ですから、沈むはずは――』
『ダメだ! 深度計の数値が、大きくなってる!』
『私たち、ここで終わっちゃうのかなぁ……。ね、カズヤお兄ちゃん?』
『くっ……! 誰でもいいから、何とかして……!』
だが、三人の意思に反してダンクルはどんどん沈み始める。
『脱出は、お兄ちゃん?』
『ダメだ、動かない! チクショウ、底まで沈んだらどの道酸欠で死ぬ……!』
シュシュの攻撃で脱出装置も機能しなくなった。
『ああクソッ! 一度でいいから、マリコのでけえおっぱいにいろいろしてもらいたかったぜ!』
『ッ、クソ変態兄貴……! でも……私も、ショーコ姉さんとデート、したかったなぁ……』
『それを言うなら、私だって……! 私だって、カズヤお兄ちゃんとデートしたかったんだよ!?』
最早これまでとばかりに、各々の思いをぶつける。
『なあ、ショーコ、マリコ』
『何、カズヤお兄ちゃん?』
『何なのよ、クソ変態兄貴』
カズヤの呼びかけに、疑問符を浮かべるショーコとマリコ。
『どうして俺たちは、こんなにすれ違ってたんだろうな』
『ね。ちゃんと言葉にしておけば、こんな事にはなってなかったと思うし』
『まったくです、ショーコ姉さん。遅かったんですよ、私たちは……』
問いかけに、肯定の意思を示す二人。
そして、全てを諦めたように目を閉じ――
『遅くなんてありませんわよ、あなた方!』
ヴァイスリッター・ツヴァイが、手を伸ばしてダンクルを捕まえる。
『わたくしがあなた方を助けます! どうにか、踏ん張っていてくださいませ……!(わたくしも、まだまだ王族としては未熟の極みですわね。あんな会話に、情にほだされるなんて……)』
強引にダンクルを持ち上げ、湖の中から脱出する。
地上まで上昇し、ダンクルを引き倒したヴァイスリッター・ツヴァイは、
*
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
「い……生きてるの、かなぁ? カズヤお兄ちゃん」
「頬をつまんでみますね、ショーコ姉さん。イタッ……生きてます」
「イテテ……生きてるぜ」
「ほんとだ」
ミツルギ三兄妹が、自らの生を実感する。
『皆様、ご無事かしら?』
と、ヴァイスリッター・ツヴァイから声が響いた。
「貴女は……!」
『今、参りますわね』
ヴァイスリッター・ツヴァイから、蒼髪をツインテールにした少女が降りてきた。シュシュである。
「残念ながら、巨乳ではありませんが」
「いえいえ……! しかし、ありがとうございました! えっと、その……」
「“シュシュ”とお呼びくださいませ。カズヤ様」
「シュシュ、さん……」
命の恩人の姿に、茫然とするカズヤ。
「ありがとう、シュシュさん!」
「えっと、その、ありがとうございました……!」
ショーコとマリコも、カズヤに続いてお礼を述べる。
「礼には及びませんわ、皆様。そうだ、わたくしの拠点へ来ませんこと? そこでなら、忌まわしきくびきを取り払えますわ」
「くびき……?」
「恐らく、“血の契約”の事かと。ショーコ姉さん」
その言葉で、ハッとするショーコ。
「そうだ、私たちには……!」
そう。
ビンイン陣営であるミツルギ三兄妹には、主であるビンインの意思一つで死ぬ
「幸い、今はそれを解除しうるお方がおりますわ。それに部屋も一つ余らせておりますから、そこで過ごしなさいな。そうだ、今まで我慢していた思いをぶつけてみてはいかがでしょうか?」
「え、えっ……」
三兄妹が、同時に顔を真っ赤にする。
(マ、マリコのおっぱいを好き勝手に出来る……)
(カ、カズヤお兄ちゃんといっぱいデート……)
(ショ、ショーコ姉さんとイチャラブデート……)
それぞれが煩悩に包まれていたが、シュシュは敢えて遮った。
「さあ、このヴァイスリッター・ツヴァイの上に乗りなさいな! 落ちないようにしますから、ちゃんと捕まっていてくださいませ!」
「「は、はい!」」
こうして、クリスタルレイク周辺での激闘は幕を閉じたのであった。
作者からの追伸
有原です。
妙に期待されていたので、ミツルギ三兄妹は敢えて生存ルートで進めてみました(山口県の方角を向きながら)。
次回に舞台裏で契約解除された後、部屋でたっぷりしっぽりイチャコラ……といった具合ですかね。描写はしませんが。
さて、次は龍野とディノ視点です。
ディノの熱情は、龍野に届くのでしょうか? まあ結果はわかりきっていますが。そういう内容にしておりますし、何より今までが今までですからね。フフフ。
この二人の行動とミツルギ三兄妹の熱情が相まって、拠点である一軒家が滅茶苦茶ピンクピンクしい事になります。
最早テロの領域です。
ちなみに、時間差でハーゲンとネーゼ様もその雰囲気にあてられます。
さて、ここまで派手に予告した所で終わりとしましょうかね。
では、今回はここまで!
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