vs ランフォ・ルーザ

「ぜ……絶対防御兵器って、どういうこった!?」

「まあ落ち着きなよ、龍野」

「落ち着かねえわ!(おいおい、無意識か意識かどっちだ!?)」

 龍野に抱きつきながらなだめるディノだったが、91cmのGcupという胸を押し付けられて冷静な男などそうそういない。

 いくら龍野がヴァイスという存在で女慣れしているとは言え、ヴァイスとはまた違った性格の女性に抱きつかれる事への耐性は弱かった。

「ほれほれ~♪」

「やめろ、襲うぞこら!」

「えー、やだよぉ~♪」

「じゃあ離れやがれ……!」

「それもやだなぁ~。オレに勝てるくらいの男だもんさぁ、しがみついてたいよぉ~♪」

「ぐっ……」

 想像以上に強気な性格に、タジタジになる龍野。

『龍野君、既に浮気を恐れる必要は無くなっているわよね? いいわよ、ディノさんが許すのであれば、彼女を襲っても』

『ヴァイス!?』

『とは言いたいのだけれど……無粋な闖入者ね。北東方向の空へと目を向けなさい』

 ヴァイスの指示に脊髄反射で従い、北東の空を見上げる龍野。


 そこには、翼竜の頭部を有する機体が砲口を向けていた。


「クソッ! 悪いなディノ、後だ!」

「えっ? うわっ!」

 急速移動に伴う衝撃に、体勢を崩してしまうディノ。

 その直後、土煙が派手に上がった。

「また奇襲か!」

『どうやら、敵の4陣営は本気で私達を抹殺したいようね』

『仕方ねえな! 迎撃するか!』

 龍野が大剣を構え、照準を合わせる。

 と、アナウンスが鳴り響いた。

「ただいま、J陣営の“須王龍野並びにシュヴァルツリッター”と、❤陣営の“アレグロ・ミズラ、ラルゴ・ミズラ、アンダンテ・ミズラ、並びにランフォ・ルーザ”との決闘が成立いたしました。繰り返します。ただいま、J陣営の“須王龍野並びにシュヴァルツリッター”と、❤陣営の“アレグロ・ミズラ、ラルゴ・ミズラ、アンダンテ・ミズラ、並びにランフォ・ルーザ”との決闘が成立いたしました。これよりカウントダウンを開始いたします。5, 4, 3...」

『誰だか知らねえが、覚悟決めろよテメエ!』

 拡声機能をオンにして怒鳴る龍野。

「2, 1, 0! 決闘開始!」

『先手必勝だ!』

 龍野が大剣からビームを連射する。

 が、小型機体故の的の小ささと高い機動力で、全て回避された。

「気をつけなよ龍野。ほとんど情報の無い機体だ」

「ああ、わかったぜ!」

 ディノからの激励を受けつつ、龍野はブースターに魔力を回し始めた。


     *


「ノロマだと思っていたが、なかなか厄介だな。飛んでくれ、ラルゴ!」

 ランフォ・ルーザの操縦士、アレグロ・ミズラは、シュヴァルツリッター・ツヴァイの反応速度を見て高度を取らせる。

「図体だけだろ、兄貴?」

 航空機関士であるアレグロの弟、ラルゴ・ミズラは、出力を調節して高度を取り始める。

「キャハハハハハ! あの黒騎士を操る人間の血、見てみたいなぁ!」

 砲手である一番年下のアンダンテ・ミズラは、兄二人をよそにライフルと背面砲の照準を合わせる。

「飛んだぞ、兄貴!」

「了解。機体は安定させたぞ、ラルゴ、アンダンテ!」

「オッケー! それじゃあ……死んじゃえ♪」

 アンダンテが魔力を火砲に、そしてコンテナにに送る。

 二門の大口径砲が火を噴き、同時に、コンテナが解放された。


     *


「来るぜ!」

「おう!」

 105mm砲を、機体を捻って回避する龍野。

 だが、76.2mmの直撃を受けた。障壁で受ける。

「大丈夫だ!」

「けど、まだあるよ! !」

「落ちるって……爆弾かよ! マズいな!」

 素早く大剣を構え、落下する爆弾に狙いを定める。

「障壁に頼りっぱなしは出来ねえんだよ!」

 剣先から光条レーザーを放ち、落下する8つの爆弾(1つあたり500lbポンド≒227kg)の内5つを葬り去る。

「龍野避けて!」

「ぐっ!」

 だが、当て損ねた3つの爆弾がシュヴァルツリッター・ツヴァイを直撃した。

「無誘導爆弾で機動兵器に当てるなんて……オレの予測を上回る使い手だろうね、こりゃあ」

 そんな状況でも、ディノは舌なめずりをしながら高揚していた。


     *


「キャハハハハハ……って、あれ? 全然効いてないよぉ」

「おいおい、冗談だろ……!?」

「こりゃあとんでもないバケモノに喧嘩売っちまったか、兄貴、アンダンテ……?」

 ミズラ三兄妹は、76.2mmと500lb爆弾3つの直撃を受けても平然としているシュヴァルツリッター・ツヴァイを見て愕然とした。

「けど、ビンイン様の命令だ。少しでもあいつの戦闘力を削ぐ……!」

「だね、兄貴!」

「えー? いっそ血も見たいけれどなぁ……。まあいいや、魔力の供給は任せて!」

 改めて意思を固めた三人は、嘴をシュヴァルツリッター・ツヴァイに向けた。


     *


「ディノ、頼みがある」

「何だい、龍野?」

「シュヴァルツリッター・ツヴァイの背中には、腕が二本ある。それを操ってくれ。魔力は俺が出すから、イメージしてくれれば十分だ」

「いいよ、わかった。手伝うさ」

「後、俺の膝の上に乗りな。そんな体勢(龍野を横から抱きしめる状態)じゃ、安定しねえだろ(ディノが嫌がらなけりゃ、問題はえしな。ヴァイスの許可も貰ってるし)」

「わーい! それじゃあ遠慮なく!」

「って、アイツの頭部に光が集まってるな!」

『全力で右に推進して!』

 ヴァイスからの指示が割って入る。

『あいよ!』

 龍野は素早く反応し、指示を遂行する。


 と、極大の白い光条レーザーがすぐ脇を通り抜けた。


『何だ、ありゃ!?』

『奥の手のようね。気を付けて、また撃ってくるわ!』

『あいよ!』

『それと龍野君。今回は頭部を狙いなさい』

『え?』

『“ベル”の位置が妙なのよ。頭部から信号が出ているわ』

『わかった、もういい。やるぜ』

『勝てるわよ。頑張りなさい』

『ああ』

 龍野は念話を打ち切ると、最大推力でランフォ・ルーザに迫る。

 が、嘴が光り始めた。龍野達の接近に合わせていたのだ。

「まずっ――」


     *


「かかったね! キャハハハハハ!」

 アンダンテが笑いながら、イメージを固める。

 そう、ビームによって黒騎士の頭部が吹き飛ぶイメージを、だ。

「終わりだよ……! 血をブチまけちゃえぇえええッ!」

 そして、嘴から極大の光が発されようとした刹那――


 重厚な衝撃が、コクピットブロックを揺さぶった。


「ぐっ!」

「がはっ……!」

「な……何!? ねえ……ッ!?」

 動揺するミズラ三兄妹。

 彼らには、が見えたのであった。


     *


「オレに任せな!」

 ディノが叫ぶと同時に、嘴に右フックが入る。騎士の腕リッター・アーメだった。

「助かるぜ、ディノ!」

 龍野は素早く、抱きしめの要領で両手の大剣での斬撃を見舞う。

 頭部は胴体から離れ、しかも両断されていた。

 生きた制御装置を喪失した首無しのランフォ・ルーザは、ゆっくりと高度を落としていった。

「決闘終了。勝者、“須王龍野並びにシュヴァルツリッター”。繰り返します。勝者、“須王龍野並びにシュヴァルツリッター”。これにより、J陣営に1のアグニカポイントが付与されました」

「終わったな。サンキュー、ディノ」

「こちらこそだよ、龍野」

「あー……ところで、下は無人だよな?」

 今更といったタイミングで、無関係な人間の心配をする龍野。

『大丈夫、無人よ』

 即座にヴァイスがフォローし、心のモヤを振り払った。

『あいよ。なら大丈夫だな……ん?』

 龍野は後方から迫るの反応に違和感を抱く。

「誰だ?」

『わたくしよ、兄卑!』

『その声は……!』

 声のした方向に振り向くシュヴァルツリッター・ツヴァイ。


 視界には――ヴァイスリッター・ツヴァイが映っていた。



作者からの追伸


 有原です。

 次回はシュシュに戦ってもらいます。


 ちなみにシュシュは『水』の魔術師です。

 水に関しては、(ヴァイス程ではありませんが)“生涯の友”といった間柄です。


 つまりどういう事か?


でシュシュが、ヴァイスリッター・ツヴァイが遅れを取る事は無い」って事ですよぉおおおおおッ!


 今回はここまで!

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