夜襲

「さて、寝るか」

 ヴァイスとの「調節」を終えた龍野は、疲れ切った様子で目を閉じる。

「――!」

 が、何かを察知して飛び起きる。

 急いで服を着ると、地下の格納庫へと向かった。


「イヤな予感がするぜ……!」

 シュヴァルツリッター・ツヴァイを起動し、出撃後直ちにレーダーを確認する。


 そこには、赤色の矢じりがいくつも映っていた。


「案の定だ……! この数、本気で潰す気じゃねえか、クソッ!」

 双剣を構え迎撃態勢を整えるが、いかんせん1機では力不足になる可能性がある。

 魔力ゲージには、“50%”と表示されていた。

(だが、今起こしては全員の体調に支障をきたす……。しばらくは俺が……)


『騒々しいですわね、黒騎士。何が起きているのか説明なさい』


『!』

 ネーゼからの、突然の念話であった。

『もしもし、聞いているのですか黒騎士?』

『はっ、はい! 敵多数が接近中につき、迎撃準備を始めていた所です!(ヴァイスとは違った威圧感だな、おい……!)』

『なら、いくら貴方でも詳細不明の敵には対応しきれないわよね?』

『はい、ですが……』

『甘いわよ! 少し待っていなさい!』

 ネーゼが念話を中断し、声高らかに叫ぶ。


『来なさい、わたくしのリナリアよ!』


 一瞬遅れ、朱色に白のマーキングのリナリアが姿を現す。

『そ、その機体は……!? ハーゲンのリナリアとは、違うようですが……』

『わたくし専用のリナリア、“リナリア改”よ。ケイオンの二人と家の中にいるパイロットを全員動員するから、敵の様子を見張っていなさい!』

『はい!』

 龍野が高度を取り、接近する敵の大群の状況をモニターする。

 そしてネーゼは拡声機能をオンにし、周囲一帯に呼びかけた。

『非常事態です、迎撃の準備をお願いいたします! 繰り返します、非常事態です……!』

 と、ケイオンから2機のアカンサスが降りてきた。

『殿下、ただいま参りました!』

『エクリプス少尉に同じく!』

 コウとミハルが武装を整え、リナリア改の前に立つ。

『あの黒騎士を援護なさい。おや、続々と向かってきたみたいね。ハーゲン達が』

 ネーゼの言葉通り、次々とパイロット達が機体に搭乗する。

 と、龍野が叫んだ。

『敵大群、3kmまで接近!』

 それを確認したネーゼは、ゆるく微笑んだ。

『間一髪と言った所ね。ヴァイスシルト殿下、指揮を預かっても?』

『はい、ネーゼ殿下。今戦闘に限っては、わたくしは指揮下におります』

『では、遠慮なく。黒騎士は最前列で、敵の殲滅をお願いいたします』

『かしこまりました(ヴァイス……これは浮気に該当するか?)』

 龍野はささやかな不安を抱きつつも、双剣を構え、高度を上昇させた。


     *


『迎撃開始!』

 ネーゼの号令により、龍野が高高度に退避する。

 同時に、一斉砲撃が展開された。

『敵勢力、3割減少といった所ね……。黒騎士、こちらから指示を出すまでは自由戦闘を許可します』

『はい!(よし、行くか……!)』

 龍野は舌を噛んで眠気を誤魔化し、シュヴァルツリッター・ツヴァイを急降下させた。

『くたばれ、てめぇら……!』

 二本の大剣が空を走ると同時に、敵の機体群が残骸と化し始めた。


     *


「ど……どういう事だ!?」

 社長候補達による指揮を行う部屋に一人残ったソリティア・ウィードは、あらゆる陣営から鹵獲した無人機体群が殲滅されるのを目の当たりにしていた。

「これだけの数で……押し潰せないのか!? 1日目の包囲網より、数倍は多く揃えたはずだ……!」

 だが、モニターは『敵機が次々と撃墜される事実』のみを表示していた。

「っ……」

 あまりのショックに、へたり込むソリティア。

「頼む、妹よ……。俺に力を、幸運をくれ……」

 天井を仰ぎ見ながら、うわごとのように呟いていた。


     *


「おらあっ!」

 双剣を振るい、一度に2機を仕留める龍野。

 撃墜後、素早く空中へ離脱する。


「わたくしが戦えないとでも?」

 一方のリナリア改も、光剣で敵を両断すると同時にビームを放つ。

「なめられた……ものですわねっ!」

 たった一度の砲撃で、5機を同時に仕留めた。

「あら……もう、撤退なさるおつもりかしら?」

 ネーゼの言葉通り、敵の攻撃が衰えてきた。

 そして敵機群は徐々に距離を離し、一軒家から撤退した。

『総員、戦闘を中止して警戒態勢! 敵が退いていきます……!』

『はい!(よし、守った……!)』

 そして機体が、続々と帰投する。

 かくして、深夜の襲撃を防衛したパイロット達は、安心して眠りに就いたのであった。

「寝るタイミングをずらして正解だったぜ」

「まったくよね、エクリプス少尉」

 コウとミハル達、ケイオンの乗員を除いて。



作者からの追伸


 有原です。

 やっつけじみた一話となりましたが、これで日の出からの戦闘を展開する準備は整いました。

 もう、戦闘開始から2週間経ちましたね。龍野達も、ちょうど折り返し地点を過ぎた頃です。


 さて、巨大ロボットも自分の以外は尽きてまいりましたが……(『エネミー』は除く)、いい加減、敵を探さねば。

 最近書いたのは、アレな内容のを3連続、でしたからね。


 では今回はここまで!

 ってあれ、今回は電波ジャックが無かったな……?

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