撤退戦、再び

『またてめえか、リーゼロッテ!』

 レヴァレアスに心当たりのある龍野は、声量全開で叫ぶ。

『リーゼロッテ? ねえ龍野、それって誰? そしてあの機体は?』

『敵だ! そしてあいつは「レヴァレアス」。悔しいが、まともな情報を持ち合わせていない今、どうしようもねえんだ……!(そういや玲香にとっちゃ、初見だったな……!)』

 こうしている間にも、レヴァレアスは2機に迫っている。

『ぐっ、当たるなよ! こんなところで、ちてたまるかってんだ!』

 ビームの放たれる射線を避け、時には直接ビームを障壁で防ぐシュヴァルツリッター・ツヴァイ。

『いい加減、決闘に応じてほしいわね黒騎士シュヴァルツリッター!』

『それだけは止められてんだよ、レヴァレアスのパイロット!』

 正面を向きつつも、全力で後退する。

『ボクも援護するよ! 龍野、下がって……ッ!? こんな時にの反応!?』

 驚愕する玲香。

『あいつか……!』

『待て、あの機体は……!』

 龍野とリーゼロッテも、同時に驚愕する。


 そこには、“漆黒”が飛翔していたのであった。


『龍野! ここはおれに任せ、退却しろ!』

『武蔵か! いけるか……!?』

『やるしかないだろう! 退け!』

 当然、搭乗者は武蔵である。

『逃がさないわよ、黒騎士シュヴァルツリッター!』

 突然の乱入者を無視し、シュヴァルツリッター・ツヴァイに迫るリーゼロッテ。だが――


『進藤武蔵、白き機体に勝負を申し込む!』


 力強く宣言した武蔵は、レヴァレアスにアサルトマシンガンを乱射する。

『ッ! この……!』

 レヴァレアスも腕部からビームを連射する。

 と、アナウンスが響いた。

「ただいま、J陣営の“進藤武蔵並びに漆黒”と、♦️陣営の“リーゼロッテ・ヴィルシュテッター並びにレヴァレアス”との決闘が成立いたしました。繰り返します。ただいま、J陣営の“進藤武蔵並びに漆黒”と、♦️陣営の“リーゼロッテ・ヴィルシュテッター並びにレヴァレアス”との決闘が成立いたしました。これよりカウントダウンを開始いたします。5, 4, 3...」

『くっ、小癪な手を!』

『さあ、掛かって来いレヴァレアス!』

「2, 1, 0! 決闘開始!」

 決闘開始のアナウンスと同時に、シュヴァルツリッター・ツヴァイとダイバリオンは全速力で撤退した。


     *


『さあ、死合おうか。レヴァレアスのパイロットよ』

 決闘を仕掛けた武蔵は、アサルトマシンガンを(“漆黒”の)左手に持ち替える。そして右手で、斬機刃を抜いた。

『このっ、よくも黒騎士シュヴァルツリッターとの戦いを邪魔してくれたわね……! 私の“完璧”を崩し去った代償、高くつくわよ……!』

 リーゼロッテも、殺気立っている。

 コンマ数秒の間に、殺しかねない雰囲気であった。

『なあ』

 と、武蔵の声音が優しくなる。



『久しぶりだな、リズ』



『ッ!』

 リーゼロッテの愛称。

 しか呼ばないはずの、リーゼロッテ・ヴィルシュテッターの唯一の愛称。

 それを、進藤武蔵は呼んだのである。

『まさか……お前は、進藤武蔵!』

『ああ。久しぶりだよ。なあ、お前はどうして、そっちの陣営についたんだ?』

『そんなの……陣営のトップである、とある女性に頼まれたからに……』

『違う。社長候補達の争いとは関係無い。俺達“帝国”を侵略する、そっちの陣営だよ』

『それは……ッ!』

『言えないのか?』


『ああッ、うるさい! もう、黙ってよお!』


 子供のような声を上げ、泣き始めるリーゼロッテ。

『やっぱりだな。お前は昔から、俺に対してだけは弱みを見せた』

『うるさいうるさいうるさいッ! 仕方ないじゃない! 家の方針で、無理やり貴方と……ッ!』

 ビームを撃つが、ろくに狙いを定めていない。

 当然“漆黒”も微動だにせず、ビームは勝手に外れたのである。

『本当は、貴方と別れたくなんてなかった……! けど……!』

『けど? けど、何だというのだ? なあ、リズ』

『どうしようもなかったのッ!』

『それでも、おれ達はこうして出会った。違うか?』

『う……』

 武蔵の指摘に、言葉を詰まらせるリーゼロッテ。

『なあ。だったら、一緒に逃げないか?』


『ごめん。ごめん、ムサシ』


 リーゼロッテは弱弱しく、しかし確たる意思を以って武蔵に伝えた。

『私は契約してしまったの。モナリザ・アライという社長候補と、ね。だから、それに逆らうのは許せない』

『おっ、ようやくおれの名前を呼んでくれたな、リズ』

『ッ……! まあ、そういう訳だから、戦わないといけないの……。本当にごめんなさい、ムサシ』

 か細い声で、リーゼロッテは武蔵に敵対を宣言する。

『だろうな。所詮俺達は、そういう関係だったらしい。なら、死合おうか』

『ええ』

 そして、2機との間に実弾と光条が飛び交い始めた――。


     *


 数分後。

「頼む、武蔵……!」

「よく知らないけど、死なれたら困るよ……!」

 龍野と玲香は、それぞれのコクピットで武蔵の勝利を祈っていた。

「……ん?」

 龍野のレーダーを見る顔が、だんだん青ざめる。

「まさか……っ!(嘘だろ!? おい!)」

 そして、龍野は顔をこれでもかと通信を入れた。


『武蔵! 聞こえていたら応答しろ! 武蔵ッ!』


 シュヴァルツリッター・ツヴァイに響き渡る、龍野の怒号。


 そのレーダーは、武蔵の機体“漆黒”の反応をロストしていた――。



作者からの追伸


 有原です。

 今回は、オリジナルキャラの因縁にフォーカスいたしました。


 今回にて、武蔵は一時離脱となります。


 次は一軒家にて、補給大会です。

 けれど、こんな状態ではいたせませんね……?


 まあ、そこはお待ちあれ。


 ああ、そうそう。

 ハーゲン少尉ですが、この話の終わりにイフのルートを複数作るでしょう。

※これに関しては許容範囲か疑わしいので、何かございましたら応援コメントにお願いいたします。


 例えば、「くろきしとひめさま」の「くろきし」と化すとか、ね。


 またはネーゼ殿下やハーゲン少尉に関わりのある、の性格を転換させたり、ね。


 はっきり言わせていただきましょう。


 ご厚意、感謝いたしますッッッ!


 では、今回はここまで!

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