失意

『ッ……クソがっ! 武蔵……!』

 何度通信しても、応答は無い。

 龍野は察してしまい、けれど認めたくなく、何度も通信を繰り返していた。

『クソッ!』

 怒鳴りながらコクピットの壁を殴り、荒く着席する。

 そして噴射する魔力量を増やし、強引に加速して一軒家へ帰投した。


     *


「帰ったぜ」

「ただいまー……」

「お帰りなさい、龍野君。あら?」

 いつものように優しい声で、龍野と玲香を迎えるヴァイス。

 だが、すぐに龍野の異変を察知した。

「悪い、部屋に来てくれ」

「珍しいわね、龍野君が私を部屋に連れ込むなんて」

 龍野に連れられたヴァイスは、リビングを後にした。

「……」

 玲香も玲香で、普段なら茶化していたのを、ただ黙って見送っていた。


 ところ変わって、龍野の部屋では。

「……ッ」

 龍野は涙を流しながら、ヴァイスの体にすがりつく。

 ヴァイスは何も語らず、ただ龍野の頭と背中を撫でていた。

「ヴァイス……俺は……俺はッ!」

 嗚咽に混ざり、自らの心情を吐露し始める。

「とんだ臆病者だぜ、クソがっ……。ハハハ、何が“騎士”だよ、笑わせんな! 身近な人一人さえ、守れねえってのに……!」

 ヴァイスのドレスを、くしゃくしゃになるほどに握りしめる。

「俺があの時、逃げなければ……ああクソッ!」

 なおも叫ぶ龍野。

 その感情を、ヴァイスはひたすら聞き続けていた……。


 40分後。

「悪い、汚しちまった」

「いいわよ、替えのドレスは用意しているもの」

「ならよかった。じゃあな」

 ひとしきり涙を流して感情をリセットした龍野は、部屋を後にした。

(進藤少尉が無事に戻ってきたら、覚悟を決めなくてはね……)

 一人残されたヴァイスは、ある事を思案していた。

 と、そこにノックの音が響いた。

「どなた?」

「お姉様、わたくしです」

 ノックの主は、シュシュであった。

「いらっしゃい」

 許可を出して部屋に招き入れる。

 と、沈鬱な表情でシュシュが入室してきた。

「どうしたのかしら?」

「お姉様……。この度は、わたくしの力が及ばず、進藤少尉を……ううっ……」

 そう。シュシュは武蔵のオペレーターを担当していたのであった。

「貴女の力不足とは限らないわ。けれど、事実としてはこうなった。それだけは噛みしめなさい」

「はい……」

 シュシュもまた、龍野と同じように涙を流したのであった。


     *


 武蔵とリーゼロッテが戦っていた場所に、特殊艦「ケイオン」が近づいていた。

「戦闘の形跡があるな……。ところでハーゲンは、無事だろうか」

「そう思いたいですね。けれども、もう少しで到着します。そろそろアカンサスに乗りましょう」

「賛成だ」

 ケイオンには、黒猫の男性獣人と赤毛の女性が乗艦していた。それぞれが身支度を整え、専用のアカンサスに乗る。

「それじゃ、行くか」

「ええ」

 ケイオンが到着すると、2機のアカンサスは戦場へと向かった――。



作者からの追伸


 有原です。

 次回は、改良型アカンサスのパラメータを自分なりに書いてみようと思います(性質上、内容はほぼ完全コピーとなります。ご了承ください)。


 さて、前回で派手に散った武蔵ですが、果たしてどうなるのでしょうか?

 では、今回はここまで!

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