vs レギオン・クイーン

「さて、着いた着いた。一度見てみるが、何にも無さそうだな……?」

 機体を“レジェンド”前に降ろした龍野は、地上の入り口から入る。

「ここの王族である皆様方には悪いが、入らせていただく」

 一礼をすると、城内へと入った。


     *


 その頃。

 白と赤の毒々しい斑模様の蛙が、エリア“ソーゴ=オーエン”より出現。

 そして北へと進んでいるという噂が、“美術城イクリプス”周辺の住民に広まっていた。


     *


「何だか、急に雲が増えてきたわね……」

 自室にいるヴァイスが、エリアの様子をみて呟く。

 すると、ノックが三度響いた。

「どうぞ」

「失礼します、お姉様」

 来訪者の正体は、シュシュであった。

「あら、シュシュ。どうしたの?」

「いえ。ただ、お姉様と触れ合いたく」

「こちらへいらっしゃい」

 シュシュがヴァイスの胸に飛び込む。

「あんっ。こら、シュシュ。もう少し、ゆっくり来なさい」

「ごめんなさい、お姉様。ああ、温かい……」

 ヴァイスの温もりを味わうシュシュ。

(……あら?)

 と、部屋に近づく足音を聞きつけるヴァイス。

 間もなく、足音の主が姿を現した。

「シュシュちゃ~ん♪」

 玲香だった。

「お姉様……!」

 ヴァイスに助けを求めるようにしてすがりつくシュシュ。

「あら、仲睦まじい事は良い事よ。遠山准尉も飛び込むかしら?」

 だが、助けはしなかった。

 それどころか、玲香を誘ったのだ。

「遠慮させていただきます……けど! シュシュちゃ~ん!」

「もう、わたくしはヴァレンティア第二王女なのよ!?」

「ああもう、シュシュちゃん可愛いよシュシュちゃん!」

「話を聞きなさーいッ!」

 結局玲香もヴァイスに飛び込み、温もりどころか暑苦しい状況となったのであった。


     *


「さて、屋上だ……ん?(魔力? それにしても、いやに天気が悪いな……。どうしてゲリラ豪雨が多発してやがる?)」

 屋上に到着した龍野は、魔力の残滓ざんしを感知する。

(ここか……)

 位置を特定し、庭園に咲く花をかき分ける。

(この土だな。少し掘るか)

 すると、不自然に盛り上がった土があった。

 肘から先だけ鎧を纏い、手で掘り進める。

「よっと!」

 魔力の残滓ざんしの発生源は、カプセルのような入れ物であった。

「さて、開けてもいいが……。こういうのはヴァイスが詳しそうだからな。このままにしとくか」

 龍野は入れ物を持ちだすと、庭園から魔力を噴射し、直接シュヴァルツリッター・ツヴァイの肩に着地する。

(それじゃ、行くか……!)

 シュヴァルツリッター・ツヴァイを飛翔させ――異様な光景を見た。


 あちらこちらに、ゲリラ豪雨が発生している。

 一部には、雷雨までもが混じっていた。


「何だよありゃ……!」

 雷雨の発生源を突き止めようとするが、比較にならない規模の土砂降りが発生した箇所が1か所あるのを見つけた龍野。

(あっちが先だろうな……!)

 進路を変更し、発生源の調査に向かった。


     *


「何だこいつらは……!」

 その頃、別行動をとっていた武蔵は奇妙な生物に囲まれていた。

「撃てども撃てども、湧き続ける蛙か……! 一連の黒き雨は、この蛙どもが原因と見たぞ……! そして流石に弾薬が足りるか、不安になってきたな……む?」

 レーダーに、高速で通り抜ける味方を発見する武蔵。

「手は打っておくか」

 信号弾を打ち上げ、龍野、あるいは別の誰かの反応を信じていた。


     *


「ん?」

 龍野の視界に、閃光と赤い煙幕が映る。

「誰かいるのか?」

 発生源は城下町の外れからだった。

 機体を向かわせる――と、見慣れた機体を見つける。

『おい! そこにいるのは武蔵か!?』

 拡声機能をオンにし、呼び掛ける。

『そういうお前は龍野か! 助かったぞ!』

『後で状況教えろよ!』

『ああ!』

 シュヴァルツリッター・ツヴァイは二本の大剣を、漆黒はアサルトマシンガンを構え、迎撃態勢を整える。

『来るぞ!』

 迫って来たのは、1.7m程度の巨大な蛙達であった。

 武蔵が叫び、龍野に警告する。

『おう!』

 龍野は躊躇せず、光条レーザーを連射する。

 同時に武蔵も、マシンガンを連射した。

『どういう化け物だよ、こいつらは!』

『わからん! わからんが、伸びてくる舌には気をつけろ! 建物すら貫くぞ!』

『あいよ!』

 互いの背後を守りながら、蛙達の数を減らす。

 と、一匹の蛙が舌を伸ばした。

『おっと!』

 武蔵がかわすが、シュヴァルツリッター・ツヴァイの障壁に命中する。

『気にすんな、俺と違って障壁持ちじゃねえからな!』

『恩に着る!』

 “漆黒”が飛翔し、舌の届かない高度から掃射を行う。

 龍野は地上に残り、接近してくる蛙を切り捨てた。

『おっと、雨の勢いが……』

『弱くなってきたな。畳みかけるぞ、龍野!』

『おうよ!』

 “漆黒”が斬機刃短刀型を左手に装備し、蛙の群れに突っ込む。

 シュヴァルツリッター・ツヴァイも付近に残存していた蛙を、両手の大剣から放った光条レーザーで薙ぎ払った。

『この辺は一掃したか……?』

『みたいだな。雨も止んだ』

『おっと……一軒家の辺りに雨雲があるな。先に行っている、お前はこいつらの生みの親を捜せ!』

『生みの親……? あいよ!』

 あっさりと蛙を一掃した2機は、別々に行動し始めた。

『どいつだ……? もしや、あのでかい雨雲か……?』

 龍野はひときわ巨大な雨雲の真下へ、シュヴァルツリッター・ツヴァイを向かわせた。


     *


「まずいわね! 玲香さん、帝国軍の皆様へ搭乗依頼を伝えて!」

「はい!」

 その頃、ヴァイス達が待機している一軒家には、雨雲が迫っていた。

 正確には、雨雲の発生源である蛙――レギオン達なのであるが。

「シュシュ! わたくし達もヴァイスリッターで迎撃するわよ!」

「はい、お姉様!」

 一軒家は、瞬く間に緊急配備状態となった。


     *


「あいつか……? おっと、卵を産み落としたな。あいつだ……!」

 龍野は女王クイーンと思しき個体を見つける。

「しっかしよお、随分なサイズだな……。流石にシュヴァルツリッター・ツヴァイが大きいとは言ってもよ、あれ、8mは超えてんじゃねえか?」

 人間と比して圧倒的な巨体を誇る女王クイーンレギオンを見た龍野は、素早く視界の範囲内に回り込む。

『よお、女王様!』

 女王クイーンが反応し、舌を伸ばす。

『あぶねっ! 随分な挨拶だなオイ!』

 70mは伸びた舌だが、シュヴァルツリッター・ツヴァイを捉える事なく空を切った。

『ならば宣戦布告と捉えさせてもらう! 決闘だ、女王様!』

 龍野の怒号の直後、アナウンスが響いた。

「ただいま、J陣営の“須王龍野並びにシュヴァルツリッター”と、❤陣営の“レギオン・クイーン”との決闘が成立いたしました。繰り返します。ただいま、J陣営の“須王龍野並びにシュヴァルツリッター”と、❤陣営の“レギオン・クイーン”との決闘が成立いたしました。これよりカウントダウンを開始いたします。5, 4, 3...」

『行くぜっ!』

「2, 1, 0! 決闘開始!」

 決闘開始の合図と同時に、龍野は二本の光条レーザーを放った。



「グオオオオオン!!」

 しかし、光条レーザーは表皮で蒸発する。

(チッ、効いてねえな……!)

 素早く距離を取り、舌の間合いから外れる。

(ん……?)

 と、雨に当たった老人が弱っていく様子を見た龍野。

 女王クイーンもその様子を見ており、のっしのっしと近づき――

(おい、まさか――)


 老人を、舌で即死させた。


『この野郎がぁああああああッ!』

 龍野は拡声機能がオンであるのも忘れ、罵声を浴びせる。

 しかし女王クイーンは意に介さず、老人から血液を吸い始めた。

『くたばり、やがれぇええええッ!』

 シュヴァルツリッター・ツヴァイの大剣が輝き、女王クイーンに振り下ろされようとする。


 しかしそれよりも一瞬早く、女王クイーンがシュヴァルツリッター・ツヴァイに飛び掛かった。


『ッ!』

 障壁のお陰でダメージは無いが、攻撃のタイミングを完全に外された。

「グオオオオオン!!」

 耳障りな咆哮を上げ、更に肉薄せんとする女王クイーン

『させるかってんだよッッッ!』

 龍野は大剣を地面に突き刺すと、支点にして機体全体を持ち上げる。

「キュイイイイン!!」

 狙い通り、勢いを殺しきれなかった女王クイーンは剣に突っ込み、自ら右前脚を切断しに行った。

「グオオオオオン!!」

 しかし、圧倒的な再生能力で即座に再生する。

(クソがっ、斬撃もダメか……!)

 その間にも、女王クイーンは卵を産み落としていた。

 既に黒い雨と産み落とされた卵によって、城下町“エピック”、そして難民キャンプ“コモン”は壊滅状態一歩手前であった。

(それでも……!)

 龍野はシュヴァルツリッター・ツヴァイに魔力を込め、最大推力で女王クイーン目掛けて突っ込む。

 舌が伸びてくるが、障壁で弾き飛ばした。

『効くかってんだ!』

 素早く女王クイーンを真っ二つに両断する。

 しかし、“ベル”には達していなかったらしく、再生を始めた。

『まだくたばらねえのか……!』

 毒づく龍野。

 しかし女王クイーンが振り返るのを見て、ある事実に気づいた。

(もしや……背面は完全な死角、か?)

 振り返りに合わせ、跳躍で背面に回り込む。

 一瞬だけ映りこんだ事によって舌が飛んでくるが、わざわざかわすまでもなく外れた。

(覚悟……しやがれってんだ!)

 龍野は息を大きく吸う。

 そして女王クイーンが振り返ろうとしたその時――


『はぁあああああああああああああああッ!』


 素早く魔力を噴射し、大剣二本を持ったままの乱舞を始めた。

『いい加減、くたばりやがれぇええええッ!』

 再生速度も十分にあるが、龍野は完全な撃破を目的としていなかった。

『ひっくり返りやがれオラァアアアアアアアアッ!』

 弱点である腹部をあらわにし、直接急所を貫こうとしたのだ。

 そして、シュヴァルツリッター・ツヴァイは勢いよく女王クイーンを蹴飛ばした。

「キュイイイイン!!」

 悲痛な叫びを上げるが、龍野は意にも介さなかった。

『年貢の納め時だテメェ!』

 両前脚に大剣を地面ごと突き立て、縫い付ける。

『この距離なら、外しようがねえだろうなぁ!』

 そして前かがみの姿勢を取り、魔力をシュヴァルツリッター・ツヴァイに纏わせた後――


 大剣を握り、全力で解き放ち続けた。

 原型を留めなくなるまで、魔力を放射し続ける。


 斑模様の皮膚にはダメージが無いが、大剣から伝導した魔力で内側から破壊される女王クイーン

「キュイイイインッッッ!!」

 断末魔の悲鳴を上げ、辺り一帯の卵ごと姿を消した。

 当然、ベルなど欠片も残っていなかった。


「決闘終了。勝者、“須王龍野並びにシュヴァルツリッター”。繰り返します。勝者、“須王龍野並びにシュヴァルツリッター”。これにより、J陣営に1のアグニカポイントが付与されました」

「終わったか……」

 大剣を地面から引き抜き、安堵する龍野。

「さて、次は……」


『龍野君! 一軒家を守って!』


『ヴァイスッ!?』

 突然のヴァイスからの念話に、慌ててシュヴァルツリッター・ツヴァイを向かわせる龍野。



 その頃、一軒家には蛙の群れが迫っていた……。



作者からの追伸


 有原です。

 レギオン・クイーンは撃破したので、「ヴィラン」希望の依頼は行います。


 ただしレギオンどもとの戦いはこれからです。

 というよりも、レギオンの被害は戦争終了まで残存するでしょう。

 ん、何故って?


 簡単です。

 (つまり女王クイーンとなる可能性のある個体が残存している)からです。


 ちなみに女王クイーンは、これでもかという程卵を産み落としているので、エリアにはレギオンが無数に残存しているでしょう。


 そんなレギオンどもを駆逐するのが次回です。

 では、今回はここまで!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る