vs 最強DDD昇竜

『それじゃあ、後5kmだ。機体は大丈夫か?』

『うん!』

 玲香を一軒家に案内する龍野。

 だが玲香は、ハドロン改の機動力(強制的に減少した重量補正)に驚愕していた。

「すごいなあ……オリジナルのハドロン改じゃ有り得ない軽さだ! 地上じゃ鈍重なはずなのに、どうして!?」

 かつて搭乗した機体の変貌ぶりに、ひたすらはしゃいでいる。

「ッ……この気配は!」

 だが、突如表情を険しくした。

『龍野、止まって!』

『おお!?』

 唐突な指示にまたも驚愕した龍野だが、素直にシュヴァルツリッター・ツヴァイを止めた。


 目の前には、銀色と朱で飾った色合いの機体がいた。

『以前の雪辱を果たしに来たぞ、須王龍野……』

『ネルソン! こんなところにもいたんだ!?』

 ネルソンの存在に、玲香が最大限の警戒をする。

 同時に、レーザー通信が届いた。

『龍野、気を付けて。あいつは未来を読む。ボクは天才級に強いけれど、それでも勝てなかったよ』

『わかった。お前は近くで待ってろ。これは一対一がルールだからな(“未来予測”に関しちゃ既に知ってはいるが、わざわざ言うほどの事でもねえしな)』

『わかったよ……。龍野がそう言うなら、そうする』


『それに、まだネルソン・ガラナはいるわ』


「おわっ!?」

『えっ!?』

 シュヴァルツリッター・ツヴァイから、唐突にヴァイスの声が響いた。

『貴女は誰ですか?』

『わたくし? うふふ、将来共闘するものよ』

 玲香の問いをいなすように答え、協力を示唆するヴァイス。

『おいヴァイス、急にジャックすんじゃねえ! ビビったぞ!』

『あら、ごめんなさい龍野君』

 龍野がヴァイスに念話で抗議すると、ヴァイスはあっさりと謝った。

『話を戻すわ。今は私達の家に来なさいな。そのまま真南に5.5kmほどよ』

『龍野は?』

『いいの。彼は残して、戦わせるから』

『はーい』

 素直にヴァイスの指示に従った玲香は、龍野に『また後でね!』と告げると、一軒家へ向かった。


 残った龍野は、大剣を突きつけてネルソンに告げる。

『戦うつもりで来たのなら、その勝負、受けるぜ?』

『元よりそのつもりだ』

 龍野の言葉にネルソンが同意すると、アナウンスが響いた。

「ただいま、J陣営の“須王龍野並びにシュヴァルツリッター”と、♠陣営の“ネルソン・ガラナ並びに昇竜”との決闘が成立いたしました。繰り返します。ただいま、J陣営の“須王龍野並びにシュヴァルツリッター”と、♠陣営の“ネルソン・ガラナ並びに昇竜”との決闘が成立いたしました。これよりカウントダウンを開始いたします。5, 4, 3...」

 開戦直前に、ヴァイスから念話が響いた。

『龍野君。騎士の腕リッター・アーメ使

『おおう、遂に使えるのか!』

『けれど、詳細な使用タイミングは私が指示するわ』

『あいよ』

「2, 1, 0! 決闘開始!」

『行くぜ!』

 龍野は拡声機能をオンにし、ネルソンに改めて意思表示をしながら距離を詰めた。



「おっと……!」

 すれ違いざまの一撃を未来視して回避したネルソンは、素早く距離を取ってビームライフルを連射する。

 シュヴァルツリッター・ツヴァイの障壁に命中するが、直後にビームが蒸発した。

「どうやら、ただの飾りではないようだな……!」

 シュヴァルツリッター・ツヴァイも、二連装の光条レーザーで反撃する。

 先ほどのすれ違いざまの攻撃を含め、ヴァイスの未来視(既に鎧騎士と化している)によって命中精度に補正を得るも、全て浅かった。

『以前と同じと思わないで貰おう……!』

 そう。

 前回ネルソンと対決した際、ネルソンの機体は「火竜指揮官用」であった。しかし、今回はそれを遥かに上回るスペックの「昇竜」である(戦闘機に例えると、零戦とF-4ファントムを比較するようなものだ)。

『見えているぞ!』

 ネルソンは叫びながら、ビームライフルを連射する。

 が、障壁に弾かれた。

(ならば近づいた所を……!)

 ネルソンの目論見通り、シュヴァルツリッター・ツヴァイが急接近する。

 未来視でダメージを最小限にし、背中に向けてビームライフルを撃った。

(この距離ならば、あのバリアは弱まるはず……!)

 だが、近距離用に展開した障壁(保有者のシルエットに完全に合わせたもの。命中の0.1cm手前で、実弾は勿論熱や衝撃すら無効化する。隙は無い)に阻まれた。

(やはり剣、それも光剣でなくては……!)

 再び迫るシュヴァルツリッター・ツヴァイ。

 昇竜は光剣を抜き、シュヴァルツリッター・ツヴァイの双剣を盾と光剣で防ぐ。


『残念だったな……!』


 龍野の声に、動揺を覚えるネルソン。

(なっ……!? どういうことだ……?)

 盾が昇竜の側に横一文字に凹み始めたかと思えば、瞬く間に両断された。

『今よ龍野君! 騎士の腕リッター・アーメを、貫手ぬきてで胸に突き立てて!』

 ヴァイスからの指示が飛ぶ。

『待ってたぜ!』

 龍野が騎士の腕リッター・アーメに魔力を送り込む。

 と、マントが翻った。

『何を――』

 ネルソンが最後まで言葉を続ける事は出来なかった。


 何故なら背中から、二本の腕が飛び出したからだ。

 しかもその腕は、(龍野視点で)右側のはずなのに左手があり、(龍野視点で)左側のはずなのに右手があるという奇妙なものであった。


『がっ!?』

 二本の貫手が、昇竜のコクピットブロックを貫いていた。

 ネルソンは辛うじて意識を留めていたが、もはや機体の操作もままならなかった。

『とどめだ』

 龍野は右手の付いた騎士の腕リッター・アーメを一度引き抜くと、昇竜の右の肩関節を握力でもって粉砕し、物理的に切り離す。

『じゃあな。もう二度と出てくんじゃねえぞ』

 そして大剣でネルソンを両断し、撃破する。

 ベルも真っ二つに切り裂かれていた。


「決闘終了。勝者、“須王龍野並びにシュヴァルツリッター”。繰り返します。勝者、“須王龍野並びにシュヴァルツリッター”。これにより、J陣営に1のアグニカポイントが付与されました」


『終わったぜ』

 決闘終了のアナウンスを聞き届けた龍野は、一安心して戻ろうとする。

『龍野君。念のために、その機体のパーツを持って行きなさいな』

『ん、どういう事だ?』

 龍野が問いかけると、ヴァイスは『うふふ』と笑ってから告げる。


『もしかしたら、戦力を強化出来るかもしれないから。ね?』


『あぁ……フェオ君が可哀想になるぜ……』

『何を言っているのかしら? 開発は私の専売特許よ。ああそうそう、死体は取り除いてね』

『言われるまでもねえ』

 龍野は騎士の腕リッター・アーメでネルソンの死体を取り出す。

 二本の大剣で穴を掘り、死体を放り込むと、また穴を埋めた。

(『重量調節グラビティ』発動)

 そして昇竜の残骸の重量を0gにすると、主要なパーツ(頭部、胴体、両腕両脚)を全て回収した。



作者からの追伸


 有原です。


 遂に新兵器が使用されました。

 いやあ、想像するだけで恐ろしいですよ、騎士の腕リッター・アーメ


 何せ突然、背中から第三第四の腕が飛び出して来るのですから! おお怖い。


 当然ネルソンにとっては予想外(戦闘中、使用されるまで見えなかった。つまり完全な“初見殺し”)でしたから、未来視も意味はありませんでした。

 まあヴァイスの未来視では、「このタイミングで使えば確実に命中する」と出たからこそ、使用したのですけれどね。


 え、ところでエリア“ファクトリオ”のくだりは、って?

 すっかり忘れておりました!


 まあ、龍野の補給と、ハドロン改の改造後になるでしょう。


 では、今回はここまで!

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