vs アル・デリアス・ベノム(試作型)
「何だここは?」
これまでの雰囲気から一転、場違いな程に未来的な工場地帯が龍野の視界に映った。
「稼働中らしいな……。報告も兼ねて、見てみるか」
手近な場所に機体を降ろすと、龍野は工場の中へ入った。
「どうなってやがる?」
拍子抜けするほど、あっさり入れてしまった。
(セキュリティがまともに機能してないのか? っと!)
通りがかる人影を見て、慌てて脇の通路に隠れる。
(見つかったら、殺さずに無力化するか)
龍野が構えるが、人影はわき目も振らずに通り抜けていった。
(しかし、今の男……“ドワーフ”ってやつか? いやに気力がねえな。首は前に突き出て、背中は曲がってやがる)
なるべく音を立てずに潜入を続ける龍野。
彼が見たものは、何かに憑りつかれたとしか思えないような目つきのドワーフ達であった。
(っと……そろそろまずいな)
往来が激しくなってきた。
ほとんど見つからないし、見つかっても騒がれなかったが、それでもあまり目立ちたくはない。
潮時と判断した龍野は、撤退を開始した。
「さて、ひとまず戻ったな……ん?」
シュヴァルツリッター・ツヴァイに戻った龍野。
視界には、見慣れぬ何かが遠くに映っていた。
「何だあれは……!」
大剣を構え、機体を飛翔させる。
『龍野君、近づいてはダメ!』
そこに、ヴァイスからの念話が飛ぶ。
『どういうこった!?』
即座に逆方向に魔力を噴射し、“何か”から距離を取る。
すると、大出力ビームがすぐ脇をかすめた。
「うおっ!(どうしてこう、先制攻撃を仕掛けてくる敵ばかり……いや、むしろそれが当たり前か!)」
『龍野君、通達するわ! 聞いて!』
引き続き、ヴァイスからの指示が飛ぶ。
『あの敵――“アル・デリアス・ベノム(試作型)”の半径50m以内には、絶対に入らないで!』
『どうしてだ?』
『魔力や生命力を吸収されるからよ。龍野君にとって速度はそれ程でもないでしょうけれど、魔術師が魔力を切らしたら――』
『オーケイ、皆まで言うなヴァイス。厳守しよう』
『今データリンクで、機能を追加するわ! 50m以内に近づいたら警報が鳴るようにしたから、もし鳴ったら直ちに範囲内から脱出して!』
『あいよ!』
ヴァイスとの念話が終わると、龍野は拡声機能をオンにしてアル・デリアス・ベノムに呼びかける。
『そっちが売った喧嘩、買うぜ! かかってこい、トカゲ野郎!』
龍野が啖呵を切ると、アナウンスが響く。
「ただいま、J陣営の“須王龍野並びにシュヴァルツリッター”と、♦️陣営の“アル・デリアス・ベノム(試作型)”との決闘が成立いたしました。繰り返します。ただいま、J陣営の“須王龍野並びにシュヴァルツリッター”と、♦️陣営の“アル・デリアス・ベノム(試作型)”との決闘が成立いたしました。これよりカウントダウンを開始いたします。5, 4, 3...」
カウントダウンを聞いた龍野は、一気に工場から離れ、アル・デリアス・ベノムを誘導しようとする。
「2, 1, 0! 決闘開始!」
しかしアル・デリアス・ベノムは、龍野の方向に向き直らずに工場へ進んだ。
『おい、てめえ!』
照準を合わせて
そして、工場の中心に陣取った。
(おい、半径50m以内は生命力を吸収されるって、まさか――』)
『まさか! 龍野君、すぐにあの敵を撃破して!』
『言われなくてもそのつもりだ!』
最早工場の被害など、構っていられない。
龍野は素早く、大剣から
(……ッ!)
工場から脱出したドワーフが、もがき苦しみながら倒れる。
(ッ……空気に毒を撒いてんのか!?)
更に見ると、アル・デリアス・ベノムの口の真下にある施設が溶解されている。
(口元には強酸まであんのかよ……!)
龍野の奮戦空しく、虐殺は現在進行形で行われているのであった。
『いい加減こっちを向きやがれ、このクソトカゲ野郎がぁああああああッ!』
大剣から連射された
流石に(あくまで“気を惹く”レベルではあるが)効果があったらしく、ゆっくりとシュヴァルツリッター・ツヴァイを見た。
(よし、後は工場から離れさせれば……!)
だがアル・デリアス・ベノムは、ただシュヴァルツリッター・ツヴァイを見続けた。
(何のつもりだ……?)
『いけない! 龍野君、
『……ッ!』
ヴァイスの注意空しく、アル・デリアス・ベノムの眉間からビームが放たれた。
「ううあぁあああああああああッ!」
機体を急転させ、強引にビームを回避する。
障壁は出なかった為に回避には成功していたが、遠くで爆発が起きた。
「お、おい……!」
虹色の泉が沸騰し、辺りに毒の水を撒き散らしていたのだ。
(どうにか回避したが……次はどうする!?
『次が来るまで30秒よ!』
『ああ、わかった!』
しかし、このままではほぼ膠着状態だ。
(ジリ貧ってやつになりそうだな……!)
龍野は覚悟を決め、一瞬だけ通り抜ける。
ビーッビーッと警報が鳴り、視界に“魔力吸収領域・直ちに脱出せよ”と表示される。
「鬱陶しいんだよ……! すぐ抜けるっつの……!」
大剣に魔力を纏い、喉元を切りつける。
(浅いな……!)
鱗にも十分有効であったが、流石に一撃では仕留めきれなかった。
(よし、脱出…………ッ!?)
その時、後ろで轟音が響いた。
アル・デリアス・ベノムが爪を振り下ろし、工場を粉砕したのだ。
龍野はひと呼吸すると、ヴァイスに念話を入れた。
『ヴァイス、先に言っとくぜ。ごめん』
『龍野君?』
『お前の気持ちだが、無駄にしちまうぜ』
『えっ、龍野君まさか――』
ヴァイスの言葉を聞き終える前に、念話を打ち切る。
(悪いな。ここまでしてくれたのに。俺の身を案じて、シュヴァルツリッターを改造してくれたのに。けど――)
大剣に、いや機体全体に濃密な魔力を纏わせ――
(それでも俺は、こういう事を見て平然とはしてられねえんだよッ!)
瞬時に超音速まで加速する。
「ッぁああああああああああああ! このッ!」
アル・デリアス・ベノムの反応よりも速く、眉間と背中を切り裂く。
素早くUターンし、背中に乗って滅多打ちにした。
尻尾がムチの様にしなっているが、シュヴァルツリッター・ツヴァイに命中する前に障壁で弾かれる。
「死ね、この虐殺者がぁああああああッ!」
激情に呑まれた龍野は、魔力の消耗も気にせずアル・デリアス・ベノムを切り刻み続ける。
流石に耐えきれなかったのか、咆哮して振り落とそうとする。
「効くかってんだよオラ! 大人しく、くたばりやがれぇええええええええッ!」
そして、左手の大剣が心臓を、右手の大剣が頭部を貫く。
「決闘終了。勝者、“須王龍野並びにシュヴァルツリッター”。繰り返します。勝者、“須王龍野並びにシュヴァルツリッター”。これにより、J陣営に1のアグニカポイントが付与されました」
だが、龍野はアナウンスにも耳を貸さなかった。
「いつまで原型残してやがるッ! いい加減、細かく千切れろよこの野郎ぉおおおおおッ!」
『龍野君』
「しぶといんだよこのクソがッ! とっとと消えろッ! いい加減消え去れよッ!」
『龍野君!』
ヴァイスが必死に念話で呼びかけるが、龍野には届いていない。
無線通信に切り替え、大きく息を吸った。
『龍野君ッ!』
「ぐっ……! ヴァ、ヴァイス……?」
『もう、怒る必要は無いわ。戦いは終わって、アル・デリアス・ベノムは死んだ。死んだのよ』
厳密には生物ではないため、“死んだ”という表現は適切ではない。
しかしヴァイスは龍野を落ち着けるために、敢えて分かりやすく告げたのだ。
『龍野君、命令を下すわ』
「何だよ」
激情の反動で、気力が落ちている。龍野の声を聞いたヴァイスは、そう判断した。
『一時撤退し、私の部屋へ来なさい』
「わかったよ」
龍野はシュヴァルツリッター・ツヴァイを飛翔させ、一気に南へ向かった。
作者からの追伸
有原です。
今回は、龍野が壊れました。
それを見たヴァイスが、「
そう言えば龍野、何気にカンパニーの人的資源と経済にダメージを与えておりますね? 全体からすれば、果たしてどれだけの割合となるのやら。
まあそれはおいおいわかるでしょう。
では、今回はここまで!
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