包囲陣形突破

「冗談じゃねえな……!」

 地上に降りたシュヴァルツリッターは、大剣と盾を構えて迎撃態勢を整える。

『遅くなったぜ……!』

『今乗ったわ……!』

 ハーゲン、ネーゼ、リオネの三人も、全員機体に搭乗した。

『ヴァイス、敵だ。ただ、“代理”じゃねえぜ』

『どういう姿かしら?』

『待ってろ、今データを送る』

 メインカメラでスキャンした敵の画像を、モニター室に送る。

『照合するわ……出たわね。龍野君が送ってくれた中では、全機「エネミー」よ』

 素早くデータ照合を終える。

 一致した機体は、「重装型・近接格闘型・高機動型混成のアカンサス」「ブルー・オレンジ混成のネクサス」「火竜(通常型)」の計6種だ。

 その機体群が、半径1kmの円状をずらりと並んで包囲している。最早壁と言って差し支えなかった。


     *


『この数……兄卑達を抹殺する気!?』

『むしろ、謀殺されそうな気もするわね』

『シュヴァルツリッターのレーダーを見せてもらったが、“キューブ山”に行ってからの動き……明らかに、罠だったな』

 シュシュ、ヴァイス、武蔵の三人が、現在の状況に驚愕する。

『包囲陣形を組み上げるのであれば、罠として薄い箇所を作る……。北側に、1か所だけあるわね。集まった所を袋叩きにするつもりかしら』

『逆に、比較的厚い層は南東側、ですわね……』

『決まりだな。突破させてそのまま帰投、か』

『ただ、敵を連れて来る訳にもいきませんから……。思い切って別の方角に逃げるか、それとも全滅させるかの二択ですわね』

『ならば迂回させよう。東から逃げ、ある程度距離を離したら南下させる……どうだ?』

『それで行きましょう』

『特に問題はありませんわね』

 武蔵の提案に、姉妹揃って同意する。

 同時に、ヴァイスが念話を入れた。

『龍野君、聞こえるかしら? 今からその包囲を、突破してもらうわよ』


     *


『龍野君、聞こえるかしら? 今からその包囲を、突破してもらうわよ』

 ヴァイスからの念話が来る。

『わかってるけどよ……。やっぱりまあ、それしか道がねえか……』

 げんなりした様子だが、闘志は十分にある。

『ところで、どこを目指せばいいんだ?』

『東ね』

 ヴァイスが指示した方角を見る。

 層の厚さは中間、といったところであった。

『あいよ、きっちり突破して帰るぜ』

 龍野も意気揚々、といった様子である。

「あの、すみません。お名前を……」

「そういや言ってなかったな。俺は須王龍野だ。好きな呼び方でいいぜ」

「では、龍野さん。お願いが、一つ」

「何だ?」

「鋼鉄人形のメンテナンスのために、1、2機ほど敵機を鹵獲ろかくしてくれませんか? 最悪、装甲板だけでいいですから」

「あいよ。やるだけはやってみるぜ」

 龍野はフェオに答えると、意識を眼前の敵――いや、に集中させた。


『聞こえているな? これより敵機を迎撃する』


『もちろんだ、龍野』

『ええ』

『当然よ』

 ハーゲン、リオネ、ビアンカが答える。

 戦意は十分と見た龍野は、号令を掛けた。

『行くぞ!』

 そしてわき目も振らず、一気に東へ直進した――。


     *


 高度9,800mより、戦域を見下ろす機体があった。

 その機体は、いやに巨大な輸送機から戦域を最大望遠で眺めていた。

「流石ね、黒騎士シュヴァルツリッター。並の機体を数百機揃えても、躊躇せずに突撃するとは。けれど、所詮あの機体群は『エネミー』。おまけにデータを見た限りでは、私の“レヴァレアス”の足元にも及ばないわ」

 戦況をひとしきり眺める女性。リーゼロッテ・ヴィルシュテッターであった。

「まあ、突破されるでしょうね。この戦力ならば」

 他人事として眺めているが、彼女の目には闘志が宿っている。


「さて。面白い事を思いついたわ」


 妖しく微笑むと、彼女は無線のスイッチを入れた――。


     *


「オラァ!」

 盾を叩き込み、ゼロ距離で最後のロケット弾を放つシュヴァルツリッター。アカンサス格闘型は、一発も機体を殴れずに沈黙した。

「はああっ!」

 リナリアも霊力を纏わせた剣で、火竜と重装型アカンサスを一振りで同時に沈黙させる。

「鬱陶しいのよ!」

「ハーゲン以外は問題外よ!」

 リオネとビアンカも奮戦し、高機動型アカンサスとネクサス達を撃ちとした。

『これで近辺の敵は、ほぼ撃墜したな』

『おう。後は追撃してくる敵を追い払うだけだ』

『ん、待て! センサーが……っ!』

 一気に東へ突破しようとした直前に、シュヴァルツリッターのセンサーが反応した。

『全機その場で踏みとどまれ!』


 龍野の怒号と同時に、龍野達の進路へ白い機体が着地した。


『初めまして、黒騎士シュヴァルツリッター。私はリーゼロッテ・ヴィルシュテッター。そしてこの子は“レヴァレアス”。以後、お見知り置きを』

 拡声機能をオンにして語り掛ける、リーゼロッテ。

『なっ、何だあの機体……!』

『尋常じゃない大きさ(全高29.8m)だぞ……!』

『今のゼクローザスじゃ、とても……!』

『に、逃げないと……!』

 恐慌状態に陥る一行。

 龍野は気力を振り絞り、声を上げる。

『邪魔するな!』

『貴方以外には手出ししないわよ。ほら、早く通りなさいな』

 リーゼロッテが促すが、誰も通ろうとしない。

 その間に、龍野がフェオに脱出を促した。

「なあ、フェオ」

「はい」

「お前、ゼクローザスに移れ」

「わかりました」

 フェオが承諾する。

『リオネさん、乗せてください』

『いいわ。緊急事態だもの。けれどなるべく急いでね?』

『はい』

 念話でのやり取りを終えると、コクピットハッチを解放するシュヴァルツリッターとゼクローザス。

 すんなりと乗り移ったのを確認すると、2機はコクピットハッチを閉じた。

『さて、お前ら』

 拡声機能をオンにして告げる龍野。

『行け。こいつは俺に用があるらしい』

『わかった』

 ハーゲンの返事が返り、そしてリナリア、ゼクローザス、インスパイアが東へ進み始めた。

『言っておくが、俺はあるじから厳命されてるんだ。「戦うな」とな』

『あら、知らないわよそれ』

 レヴァレアスが、両腕を前に突き出す。


 同時に、二本のビームが時間差で生じた。


『ッ!?(問答無用で引きずり出すつもりか!?)』

『龍野!』

 その時、武蔵からの通信が入った。

『そのレヴァレアスとは! いいな!』

『そのつもりだぜ武蔵、ただこいつは違うらしいがな!』

 龍野は魔力を纏わせた盾を突き出しながら、レヴァレアスのビームを防御する。

(ぐっ、盾の耐久50%!)

 必死に耐え凌いでいる龍野だが、限界が刻一刻と近づいて来ていた。

 その時。

『龍野君、帝国軍の皆様が東の離脱地点まで行ったわ! 逃げて!』

『待ってたぜ!』

 素早く上昇すると、背を向けて一目散に進する。

『逃がさないわよ!』

 レヴァレアスも飛翔するが、速度の上昇と限界はシュヴァルツリッターが上のスペックだ。加えて高度上昇も桁違いに速い。

 戦闘力ではいざ知らず、全力の撤退ではレヴァレアスは格下であった。

『ふん、逃げたわね……。まあいいわ、今日ではないという事よね』

 追跡を止めると、その場で高度を上昇させ、輸送機まで戻って行った。


 その頃。

 ひたすら北進した龍野は、追跡を撒いた事を確認すると、エリア“レジェンド”の手前でUターンして南進していた。


     *


『何だったんだ、あの機体は……』

 その頃。

 転進地点まで進んだハーゲン達は、レヴァレアスの存在に驚愕していた。

『あんな人形、見たこと無いわ……』

 ネーゼも同様である。

 そもそも、帝国内には存在しないのだから、当然と言えば当然なのであるが。

『けれど、騎士様が相手をしてくださったお陰で、無事にここまで逃げられましたね。そうでしょ、フェオ?』

『ええ! 僕なんて、助けていただきましたからね!』

 龍野に感謝しきりのリオネとフェオである。

『あっ、あれ!』

 ビアンカが、一点を指し示す。


 そこには、シュヴァルツリッターがいた。


『待たせたな!』

 機体を着地させ、拡声機能をオンにして呼び掛ける龍野。

『早速で悪いが、俺の姫様から命令があってな』

『何だ?』

『俺達の家に連れて来い、とさ』

 どよめく一同。

『これ以上は知らん。悪いな』

『行かせてもらいますわ、黒騎士!』

 龍野が説明を終えると、いの一番にネーゼが飛びついた。

『ネーゼ様!?』

『いいですね、私も!』

『ちょ、リオネまで!?』

『私も連れて行きなさいな!』

『ビアンカ!?』

 ハーゲン達帝国軍陣営が騒がしくなる。

 それを見た龍野が、一言告げた。

『決まりだな!』



 こうして、一時間後。

『ヴァイス、予定通りだ!』

『ええ。今行くわ』

 シュヴァルツリッターを格納庫に仕舞い(リナリア、ゼクローザス、インスパイアは家のすぐ近くに立たせている)、五人の前に立つ龍野。

「それじゃあ、ようこそ」

 玄関を開け、客人たちを招き入れる。

 そして――


「皆様、ようこそいらっしゃいました!」


 ヴァイス、シュシュ、武蔵がいた。



作者からの追伸


 有原です。


 次々回、男二人(龍野とハーゲン)が地獄を見ます。

 え、どういう意味かって?


 言わせるな恥ずかしいッッッ!!!


 では、今回はここまで。


 ロケット弾の残弾数:0発(これはメモです)

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