vs 火竜指揮官用(後半)
「龍野君!」
モニター室に戻って来たヴァイスは、悲鳴を上げていた。
シュシュと武蔵が振り返るが、ヴァイスは視線を気にせず叫んだ。
『龍野君、大丈夫!?』
慌てて念話を飛ばす。
だが、一向に応答が無い。
『ねえ龍野君、返事をして!』
『ヴァイスか、どうした!?』
『心配させないでよ……! もう!』
龍野からの返答を受け、安堵するヴァイス。瞳から涙を溢れさせる。
『話を戻すわね。心を落ち着けて聞いて』
一度注意を入れ、事実を単刀直入に話す。
『あの機体の搭乗者は、未来予知能力があるの』
『ッ!』
そう。
龍野が攻撃をことごとく外したのは、ネルソンに未来を見る能力があったからである。
『龍野君。日本のことわざに、「目には目を、歯には歯を」とあるわよね』
『ああ』
龍野が肯定すると、ヴァイスが妖しく笑い始める。
『ヴァ、ヴァイス?』
龍野の動揺も無視し、呼吸が苦しくなるまで笑ったヴァイスは、明瞭な声でこう告げた。
『では、「毒には毒を」』
ヴァイスがペンダントを握りしめると、体が光に包まれた。
*
『笑止。その程度とはな。ではシュヴァルツリッターよ、そして須王龍野よ。静かに眠れ』
モニター越しに水没するシュヴァルツリッターを見ると、湖から離れるネルソン。
『む……? 未来が歪んでいる、だと……?』
しかし、異様な視界に不快感を示す。
その直後、ネルソンの火竜の左足と実体剣が、地中から現れた光条によって吹き飛ばされた。
『何……ッ!?』
未来予知でも読み切れなかった攻撃に、動揺を隠せないネルソン。
『勝手に負けた扱いにしてんじゃねえよ。まだ決闘終了のアナウンスも響いてねえのに』
水中から、龍野の声が響く。
『確かにお前の力は圧倒的だ。機体性能に依存してた俺も俺だぜ。だが――』
水面が盛り上がる。そして――
『力の正体さえわかっちまえば、正しく対処するだけなんだよ!』
シュヴァルツリッターがバイザーを激しく輝かせながら、姿を現した。
*
「お姉様、その力は……!」
「なっ、何だその姿は……!」
一方のモニター室では、シュシュと武蔵が揃って動揺していた。
というのは、ヴァイスが純白の鎧騎士となっていたからだ。
「さあ。けれどこれだけは言っておくわ。この姿にならなければ、龍野君は永遠に勝てない、とね」
僅かに装甲が擦れる音を立てながら、席に着くヴァイス。
『龍野君、聞こえる? ここから反撃開始よ』
力強く宣言し、ヴァイスは龍野のサポートに回った。
*
『龍野君、聞こえる? ここから反撃開始よ』
ヴァイスの力強い言葉を聞いた龍野は、シュヴァルツリッターを飛翔させて応える。
『おう!』
大剣を構え、魔力を充填する。
『また同じ手か!』
ネルソンが未来を予知し、その通りに動く。
『下らぬ……』
『それはどうかな!』
シュヴァルツリッターが、
『やはり……何ッ!?』
一発は跳躍してかわすが、もう一発をかわしきれずに右腕をもがれる。
『だが……まだだっ!』
盾をかざし、強引に機体を支える。
そのまま盾を支点にし、強引にビームライフルを――
『させねえよ』
再び
*
「どうかしら、火竜指揮官用とやらのパイロット様? わたくしの“未来視”は」
そう。
ヴァイスは鎧騎士と化す事で、数秒先の未来を確実に予知出来るのだ。
未来視には未来視を。対抗しうる能力を持っているヴァイスに、使わないという考えは無かった。
「お姉様……!」
「凄い力だ……だが、ほとぼりが冷めた頃に尋問させてもらう必要があるな」
シュシュと武蔵は、それぞれの反応を示していた。
しかし依然として、ヴァイスは龍野を注視していた。
『さあ、龍野君。次の道を示すわよ……!』
*
『ならば……』
脱出装置を作動させようとするネルソンだが、シュヴァルツリッターの速度が上だ。
大剣を素早く振り、装置を故障させた。
『ぐっ、見事……』
ネルソンが、敗北宣言といえる声を上げる。
『おい』
『何だ?』
『一方的に上に立ったつもりだろうが、お前と違って俺には仲間がいるんだよ』
『フフフ、そうか。だが、私にも仲間がいる』
『どういう意味だ?』
『残念だが、お前はそれを知らずに終わる。何故なら――』
機体から火花が次々に生じる。
『私はここで死ぬからだ!』
直後、爆発が起きた。
火竜指揮官用もネルソンも、そして身に着けていた“ベル”も、まとめてバラバラに吹き飛んだ。
(ッ……最後まで、腹の立つ野郎だったぜ……)
「決闘終了。勝者、“須王龍野並びにシュヴァルツリッター”。繰り返します。勝者、“須王龍野並びにシュヴァルツリッター”。これにより、J陣営に1のアグニカポイントが付与されました」
龍野が激闘に疲弊したのを讃えるかのように、勝利のアナウンスが響いた。
『龍野君、命令よ』
そこに、ヴァイスからの指示が飛んできた。
『何だ?』
『二つあるわ。一つ、「一切の“代理”との対決を禁ずる」。もう一つ、「ハーゲン少尉達が目的を達成し次第、少尉達を連れて一軒家に帰投する」こと。復唱なさい』
いつもはしない復唱をさせるヴァイス。
『ッ……「一切の“代理”との対決を禁ずる」。かつ、「ハーゲン少尉達が目的を達成し次第、少尉達を連れて一軒家に帰投する」!』
『それでいいわ。では、命令に従いつつ行動なさい』
拘束を解除し、ハーゲン達を追跡させるヴァイス。
バイザー越しに龍野を見つめる目は、冷気と熱気の中間にあった。
作者からの追伸
有原です。
苦戦しつつも、どうにかヴァイスの助力で勝利出来ましたね。
けれど、少し様子が妙ですね?
まあ、まずはフェオ君の救出です。
次は“キューブ山”に行きますよ……!
では、今回はここまで!
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