vs 鏡の国の魔術師 デッサウ

「いきなりの依頼か……どういうこった?」

 フーダからの依頼(を伝言にしたもの)を受けた龍野は、“セレブ・ボーダー”へ向かっていた。

『ここでいいのか? ヴァイス』

『ええ』

 着地するシュヴァルツリッター。

 大剣を地面に突き立て、待機状態に入った。


     *


 その頃ヴァイスは、フーダからの更なる依頼を読み上げていた。

「『指定した辺りに、デッサウという魔術師がいるわ。彼は男より女が好きだから、参考にして』……。既に得た情報ね。けれど利用させてもらうわ」

「でしたらお姉様、わたくしにお任せを」

「では、準備が終わったら頼むわね」

「はい」

 ヴァイスは一番に、龍野へ念話を繋いだ。

『もしもし龍野君。頼みがあるのだけれど』


     *


『何だ? 「喋るな」?』

『ええ。次の戦いでは厳守してほしいの。詳細な理由は後で告げるけれど、これだけは前提条件とお願いね』

『いや、意味がわかんねえぞ』

『次ね。インカムを取り外して、頭部にある拡声装置に着けてほしいの』

 ヴァイスは龍野の抗議も無視して、指示を続けた。


 準備を続けること30分。

『これでいいのか?』

 念話に切り替えた龍野は、ヴァイスに確認を取っていた。

『ええ。では、シュシュに話しかけてもらうわ。拡声機能をオンにして』

『あいよ』

 龍野はシュヴァルツリッターに搭乗すると、拡声機能をオンにする。

『オンにしたぜ』

『では、シュシュにお願いするわよ。シュシュ!』

 ヴァイスの号令が響く。

『あーテステス、聞こえてるかしら兄卑ー?』

 大音量で、シュシュの声が響いた。

『シュシュ、うるせえぞ! 声量落とせ!』

『聞こえてるのね』

 念話でシュシュと連絡を取り、問題無いことを告げる。

『では、機体を500m北進させて。そこで依頼を解決するわ』

『あいよ』

『ここからは一切口を開かないでね、兄卑』

『あいよ』

 龍野は指示を聞き取ると、シュヴァルツリッターを飛翔させた。



『頼もう! こちらに鏡の国の魔術師、デッサウ様がいらっしゃるとお聞きしましたわ!』

 シュヴァルツリッターから響く大音声。シュシュの声だった。

「その巨人からか? いかにも、私がデッサウだ」

 豪華な馬車から姿を現したのは、シルクハットに燕尾服の中年男だった。

「巨人に、誰か乗っているのか?」

『はい! 私が乗っております!』

「そうかそうか。では姿を見せてくれまいか?」

 見る者を怯えさせる程に、下卑た表情を浮かべるデッサウ。相当の美少女が乗っていると推測した。

『いいでしょう。ただし、一つだけ条件があります』

「何だ? 何なりと申してみよ」


『わたくしと決闘して勝利したら、姿をお見せしますわ!』


「ならば乗った……おっと!」

 突如吹いた強風に、デッサウの禿頭はげあたまがあらわになった。

「ハハハ、これは失礼。だが、シルクハットなど勝利してからいくらでも買える! では参るぞ!」

 杖を用意し、右手で構える。

 同時に、定例となったアナウンスが響き渡った。

「ただいま、J陣営の“須王龍野並びにシュヴァルツリッター”と、♠陣営の“デッサウ”との決闘が成立いたしました。繰り返します。ただいま、J陣営の“須王龍野並びにシュヴァルツリッター”と、♠陣営の“デッサウ”との決闘が成立いたしました。これよりカウントダウンを開始いたします。5, 4, 3...」

「ほお、スオウ・リュウヤというのだな。さぞや美人なのだろう? グフフ」

『ええ、存分に期待しなさいな――』

「2, 1, 0! 決闘開始!」


『いつまでも、ね!』


 決闘が、始まった。



 いの一番に、光条ビームを剣先から放つシュヴァルツリッター。

「ほーっほっほっ、威勢の良いことで……!」

 だがデッサウは、無数に召喚した鏡で反射し、防御した。

 いや、それだけではない。

『龍野君、右に跳躍して!』

『あいよ……っと! あぶねぇ!』

 放った光条レーザーを鏡でシュヴァルツリッターに向けて跳ね返す、カウンターも仕掛けてきたのだ。

「グヒヒ、なかなかいいモノをお持ちで。では、こちらも……!」

 鏡の配置を変更し(実際は邪魔な鏡を消去し、別の鏡を召喚している)、杖を前に突き出す。

けぃ!」

 鏡から放たれた光条レーザーが、別の鏡に反射する。

 繰り返すこと9度目で、シュヴァルツリッターに向かって光条レーザーが飛んできた。

『左!』

 レーザーが来るまでの間に算出した軌道を、龍野に告げるヴァイス。

『やってるぜ!』

 龍野はコンマ数秒で把握し、素早く指示に従う。

「ほっほーっ! やりますな、スオウとやら!」

(いい加減鬱陶しいな……!)

 龍野は盾を構え、素早くロケット弾6発を斉射する。

「無駄ですぞーッ!」

 全弾が鏡からの光条レーザーで迎撃される。

(だがそれでいい……!)

 頭部の機関砲を連射する。

「ッ!」

 爆炎で隠れた視界では、デッサウでも対処しきれなかった。

 全ての鏡が破壊された。

『どうかしら!?』

 シュシュが勝利を確信した声を出す。

「ほーっほっほっほ、無駄ですぞ! しかし今のはなかなかだった! それに敬意を表して、本気でいかせていただきますぞ!」

 しかし、デッサウはあくまで余裕だった。

「“ソーラーシステム”、発動!」

 号令と同時に、杖を掲げる。

 そして――


 無数の鏡が召喚された。


「さあ、宴の始まりですぞぉおおおおおおおおッ!」

 絶叫と同時に、禿頭を前に突き出す。

『何をするつもり!?』

「行きますぞぉおおおおおおおおおお、“デッサウフラアアアアアアアッシュ”!」

 デッサウの禿頭が光り輝く。

 光が何度も、何十度も、何百度も反射し――

「私がこの光を使える代償に、私を含めた男達の毛根を根こそぎ持って行くのですよぉおおおおお! この禿頭こそぉおおおおお、その証拠ぉおおおおお!」


『だったら何だ』


 シュヴァルツリッターから響いたのは、龍野の声。

「!?」

 それだけではない。シュヴァルツリッターに、オレンジ色の魔力が満ち満ちていた。

『髪が生えねえからって、どうってことはねえんだよ。それに……』

 シュヴァルツリッターが上半身を前に傾ける。

 魔力が更に満ち、シュヴァルツリッターの全身を覆い始めた。


『坊主頭やつるっ禿ぱげでも上等だオラァアアアアア!』


 そして上半身を仰け反らせ、腕を広げると――


 広範囲を、半球状の光が包み込んだ。

「な……っ!?」

 しかも一過性のものではなく、津波のように“持続して襲ってくる”光だ。

 いくらデッサウフラッシュが強力でも、威力をごっそり削がれ続ける――!

「ぬ……ぬぅうおおおおおおおおッ!」

 デッサウは耐えきれず、近くの建物の壁まで吹き飛ばされた。


「はぁっ、はぁっ、はぁ……!」

 今の一撃で、シュヴァルツリッターの魔力残量が残り70%まで減らされてしまった(燃費は最悪だが、それを補って余りあるほどに龍野の魔力が多い。かつ魔力は1,000倍以上に倍増されている。その上での累積30%消耗である)。

「そこか!」

 龍野は大剣を掲げる。

 そして振り下ろし――デッサウを両断した。



「クソッ……男だと!? 男が、乗っていたと……!」

 吹き飛ばされたデッサウは、上半身を起こそうとする。

「ひっ……!?」

 しかし、大剣を大上段に掲げていたシュヴァルツリッターを見て失禁した。

「い、いやだ……! まだあの声の女を見ていないのに……! そしてあわよくばその女と」

 辞世の句を言い終える前に、デッサウは肉塊と化した。

 当然、ベルもまとめて粉砕されていた。


     *


「決闘終了。勝者、“須王龍野並びにシュヴァルツリッター”。繰り返します。勝者、“須王龍野並びにシュヴァルツリッター”。これにより、J陣営に1のアグニカポイントが付与されました」

『これで終わったぜ』

 聞きなれたアナウンスを尻目に、ヴァイスとシュシュに連絡する龍野。

『もう取り外してもいいよな? あの通信機器』

『ええ。けれど一度家に戻ってらっしゃいな』

『ご苦労様。雰囲気に合わせて話すのも、結構大変ね』

 ヴァイスとシュシュの労いの言葉を聞きながら、龍野は一軒家へ向かい始めた。


     *


 一方、社長候補室に控えていたフーダは、この決闘の終了の報を聞いたと同時に、ニヤリと口元を歪めていた。



作者からの追伸


 有原です。


 さて、フーダちゃんの恨みも少し晴らした事ですし、次は少々「平和」に視点を移してみますかね。

 出来れば、ハーゲン達にも。


 ただ、やりすぎると物語の盛り上がりが欠けるかも……? ううむ、難しい調節となりそうです……。

 では、今回はここまで!


 ロケット弾の残弾数:30発(これはメモです)

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